正解にはほど遠い分析
「我が軍の戦力はいまだ健在だ。各部隊、L451防衛ドーム内に侵攻。グライゼンと合流し占拠せよ!」
バイヴォーイ・オホートニクの搭乗している臨時指揮官ジッオは、グライゼン支援部隊に命令を下す。
バイヴォーイ・オホートニクは高性能バトルシルエット。あらゆる距離に対応し、装甲も厚い。装甲筋肉採用機ではないため、大口径レールガンを主武装にしている。
デザートパターンの迷彩を施しながらも、重武装重装甲。そして火力を備えた凶悪な機体だ。
「相手は陸上艦。こちらは多数の戦車を中心にした大隊である。多勢に無勢だ」
己を鼓舞するかのように嘯くジッオ。しかし彼のもとへ悲痛な報告が立て続けに入る。
「ダメです! あちこちに罠や、待ち伏せのシルエットが…… うわぁ!」
報告した住人階級ベリオイコイの戦車パイロットが報告中に悲鳴を上げ、途絶えた。
「応答しろ! おい! 戦車部隊Ⅲ応答せよ!」
エーバーⅡはアキが駆るエポナのバーストランスに貫かれ、動きを停止していた。
本来シルエットは歩兵。戦車と相性が悪い。近距離のシルエット、中遠距離の戦車がそれぞれの有利な距離だ。
エポナやエポスなどクアトロ・シルエットはこの不利を縮めることが可能。四脚による機動力と積載、突進力は二脚とは比較にならない。
「まだだ。戦車部隊は他にもある。そしてカザークを中心としたシルエット部隊が先行しているはず。防衛ドームのシェルター内にさえ入れば。シルエット部隊5。応答せよ!」
先行していたシルエット部隊は応答がない。
その部隊は地面に伏せていた。
五番機と零式部隊が、20機以上の全て斬り伏せていた。コウが操る五番機はもちろん、零式部隊もまたアシア大戦、尊厳戦争を生き抜いた生え抜きのパイロットである。
戦闘経験に乏しいアルゴアーミーのパイロットとは比較にならない。
「なんということだ。瞬く間に損耗率が二割近くに……! どうなっている?」
やはり司令部たるP150ゲシュペンストを喪ったアルゴアーミーの部隊は烏合の衆といえた。
ラケダイモンは優秀だが、指揮に馴れていない。ストーンズの思想的に指導者の才能など不要だからだ。
以前ヴァーシャが指摘していた問題はアルゴフォースのみならず、アルゴナウタイ全体の課題であった。
「どうする…… この数を一斉に撃破などは無理だ。各個撃破戦術ということか? いや、それなら部隊が包囲して終わる。万が一可能性があるとすれば機体性能が超高性能機の集団…… いいや、そんなまさか」
こんなL451防衛ドームのために、そんな高性能機が集まるとも思えない。
ジッオの優秀かつ常識人であることが、災いしている。客観視ができず、判断を狂わせていた。
「もしくはベテランやエースパイロットの集団か。いや、それならありえるな……」
ようやく状況の把握とかろうじて最低限の分析を導き出したジッオ。正解にはほど遠い分析であった。
敵がエース級揃いの超高性能機集団とは思うまい。
「――我が部隊はベリオイコイどもはともかく、ヘロットが多数。これはまずい」
部下たる市民階級ベリオイコイは思考が制限されており、奴隷階級ヘロットにいたってはただの生体ロボットの代替品に過ぎない。
個としての戦闘力は高いとは言えない。
「これは撤退するしか…… 敵機だと! どこからだ」
アラームが鳴り響く。上空を見ても可変機の姿はない。
地中から飛び出る影が、バイヴォーイ・オホートニクを覆い尽くす。
「地中?! 何故シルエットが!」
そう叫ぶのがやっとであった。
それでもライフルを構え影に向けた瞬間、金属のワイヤーのようなものが絡みつく。
爆発を起こし、バイヴォーイ・オホートニクの腕部を
「げぇ!」
思いもよらぬ攻撃に呻くジッオ。気が付けば胴体や左腕部、左右の脚部にも同じものが巻かれている。
同時に爆発し、左腕部まで切断されてしまった。胴体や両足は亀裂が入るのみ。
「デトネーションコードは装甲筋肉機体の胴体や脚部には効果は薄いですが、非採用機なら亀裂程度なら入れることができますね」
機体はカレドニア・クロウを操るフユキ。
のそのそと地中からカレドニア・クロウを追うかのようにドリル戦車が姿を現す。
周囲の護衛はどうしたか見回すと、一機のシルエットがすべて斬り伏せたあとだった。
コウの五番機である。瞬殺とはまさにこのこと。機体の状況で轟音には気付かなかった。ジッオが周囲を見渡した時にはすでに味方は全機、地に伏せていたのだった。
「意外だな。デトネーションコードで切断できないとは。装甲が厚いのか」
コウは警戒を怠らず、アルゴアーミーの援軍に備えていた。
フユキのカレドニア・クロウが指揮官を捕縛している隙に、レーダー外から一気に加速して接近。周囲の護衛を排除したのだった。
「装甲筋肉採用機でもないバトルシルエットだというのに、機体の構造強度が高いですね。かろうじて間接部を切断できる程度です」
ジッオを無視して会話している二人。もう勝負はついている。
「お、お前ら、何者だ!」
ジッオからすると捕縛されたまま強そうなシルエットに取り囲まれ、無言が続いている。
たまりかねて共通回線で呼びかけた。
「我々は何者でもありませんよ。――さてアルゴアーミーの指揮官殿。一つ提案があります。こたびは撤退してはどうでしょうか。さすがに我々もあなたがたの戦車部隊すべての撃破は不可能です」
「何者でもない? そこまでの戦力でふざけるな。いや、そうじゃない。そんなことができるものか!」
ジッオは断固拒否した。失敗はベリオイコイ階級に落とされる。
最悪の場合、ヘロット行きだ。それは死と変わりない。
「そうですか。わかりました。では装甲筋肉がドリルにどこまで耐えられるか実験をしますね。――ヴォイさんお願いします」
「任せろ。ドリィル!」
ヴォイがドリルを高速回転させ、バイヴォーイ・オホートニクに接近する。
「ま、待て! 待て! 待てぇ!」
まさか駆け引きもなく、あっさり決断するとは思わなかったジッオが絶叫した。
相手はろくに交渉する気さえなさそうだった。
「退く! 退くよう指示する! 待ってくれ!」
ドリルの先端が機体に触れる瞬間、停止する。
「ではあなたのシルエットを停止させてください」
「待て。それだと通信できない」
「安全は保証しますよ。捕虜にすらしません」
「どういうことだ?」
敵パイロットの意図が読めないジッオ。ここは捕虜にしてアルゴアーミーに身の代金を要求するなど、交渉することが筋だ。
「我々は通りすがりのアンダーグラウンドフォースに過ぎません。補給に立ち寄った防衛ドームから避難しようとしたのですが…… あなたたちの進軍が見えましたからね。応戦しただけです」
「通りすがりのアンダーグラウンドフォースだと……」
「ええ。トラブルは面倒です。停止してください。でないと機体に大きな穴が空くことになります」
その言葉に反応するかのように、高速回転するドリル。
「わかった! 停止する。――したぞ」
「賢明な判断です」
カレドニア・クロウは停止したバイヴォーイ・オホートニクに近づき、背面を操作する。
脚部装甲が展開され、剥き出しになったMCSを引っこ抜くように取り外す。
「うぉ!」
何が起きたかわからないジッオが叫ぶが、誰にもその声は届かない。
「ではいってくるよ」
五番機がバイヴォーイ・オホートニクのMCSを受け取り、飛び立った。
近くにいるアルゴアーミーに向けて無造作に放り投げ、高速で離脱。任務は完了した。
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いつもお読みいただきありがとうございます! 年末なのでこちらにも後書きを。
常に指揮官が冷静な判断、正しい判断を下せるとは限りません。
とくに管制を兼ねている旗艦が爆破? 圧殺された今、リアルタイムの情報も断片化が起きている最中。
とくにストーンズに属している人間は指揮訓練を受けた程度。臨機応変さなど皆無です。それでもジッオは優秀なほうなのです。
またこれはヴァーシャが構築する兵器全般にいえることですが、哨戒機、レーダーよりも目視を重視する傾向があります。可変機アルラーは性能全振りで、レーダー性能が著しく低かったという特性がありました。
バイヴォーイ・オホートニクは高性能機です。
シルエット単体でいうならヨアニアの上位互換ともいっていい完成度を誇っています。
今回は相手が悪すぎましたね! 迫るドリルは怖いですし、以前の仕事でみたマシニングのチップ交換とかは見ているだけで怖いと思いましたね……
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