アサルトバイク

 荒野を突き進むバイク集団。全て蒼で統一されている。外装は巨大なカウルはもちろん風防盾でもある装甲仕様。

乗り手はすっぽりと車体に収め、正面からを防護している。ハンドル部分はナックルバイザーも完備だ。


 バイクは珍しい前二輪、後輪一輪。リーニング・マルチ・ホイールを採用した三輪バイクは接地と安定性に優れている。惑星アシアのような整地されていない荒野を走るにはぴったりだ。

 否――ネメシス戦域にバイクという乗り物は少ない。


 数は二十両。乗り手はシルエットはアクシピターとラニウスで構成されている。後続からは装甲車や半装軌装甲車が追いかけるように走行している。

 

 このバイク状の補助兵器はアサルトバイク。ラニウスや装甲筋肉系機体の補助動力として生み出されたものだ。

 主砲は155ミリレールガンのみ。電磁装甲もない分非常に低コストだ。

 

 これはかつて第二次世界大戦で活躍した低反動砲を搭載した迫撃砲装備のスクーターから着想を得た兵器。

 ファミリアに頼らないシルエットの長距離運搬とアクシピターやラニウスの貧弱な射撃を補うべく検討した結果生み出されたサポート・ビーグルである。


「社長。もうすぐ交戦距離になります。私が斬り込みましょう」

「わかった」


 先頭の二輌のみアクシピターに搭乗している。パイロットの一人はTAKABA社長の川影。

 斬り込むと宣言したもう一機のパイロットは秘書の千葉結月。剣の名門であるかの北辰一刀流千葉周作の末裔である。

 かつて鷹羽修司の婚約者だった女性だ。


「行きます!」


 付近でアベレーション・アームズのアラクネ型と戦闘しているクアトロ・シルエットの一団がいた。

 隊長はエポスに乗る狐耳の青年パルムだ。


 アラクネの戦闘能力の高さ。通常の戦車やシルエットの即席部隊では対応できない。

 性能的に優秀なクアトロ・シルエットが対応せざるえなかったのだ。


「そこのクアトロ・シルエット。聞こえますか。こちらはTAKABA。今から援護します」

「TAKABAというと、コウ様の……! かたじけない。感謝します!」


 コウ様と聞いて思わず苦笑した。

 コウとは修司を通じて会ったことがあるので面識がある。惑星アシアで数奇な運命を辿り、あの修司の五番機に乗っていることも。

 

「コウ様ねえ? コウ君の知人ならなおさら助けないとね」


 コウ様と呼ばれていると知ったらあの子はさぞ嫌がるだろうと思ったのだ。

 彼女の覚えているコウは口数の少ない内気な青年だった。修司の弟分みたいなものだ。


 押されているエポスのフォローに入る。

 ブラックウィドウの射撃を正面から受け止め、バイクのレールガンで反撃する結月のバイク。

 大きく弧を描いてバイクを倒し込み、地面すれすれでアラクネ型に近付く。

 

 奇妙な角度のバイクに戸惑うアラクネ型。バイクを乗り捨て、刀を両手に持ち替え斬りかかるアクシピター。

 ブラックナイトのパイロットたちは選抜者だ。反応してハルバードで受け止めようとするも、それさえも躱して胴体に斬撃を見舞う。

 

 流れるような一刀にクアトロ・シルエットたちも絶句した。


「凄い遣い手だ……」

「あら? 剣術なら私はコウ君に手ほどきしたこともあるのよ?」

「おお……」


 どよめきがセリアンスロープたちに生じる。


「そこまでだ。千葉。さっさと片付けるぞ」


 ラニウス隊も到着し、次々と抜刀する。会長が会長だ。剣術や剣道の遣い手も少数いる会社であった。

 今回は選抜隊だ。


 そのなかでも結月は、修司亡き今では兵衛の打太刀に対して仕太刀を務めることが出来る唯一の相手だった。


「私だけ遠距離ですまんな」


 川影のアクシピターはとくに異端だった。巨大な長弓は和弓のよう。矢をつがえ、放つ。

 矢には極細の爆導線がついている。これが有線ミサイルのようにウィスを通すのだ。着弾と同時に爆発し消滅する。距離としては対戦車ミサイル同様、十キロまでは余裕で届く。


 弓道を収めた川影用に作った対シルエット用の強弓だ。その強いこだわりに理解のある兵衛は製造を認めたのだ。


「僕たちは後ろで支援しますね!」


 彼に付き従うファミリアたちが背後から支援に入る。

 川影は彼らとともに住んでいる。もともと動物好きであり、ファミリアとも非常に相性がいい。多くのファミリアが彼を慕い、付いてきたのだ。


「我々はいわばコウ様の弟子。ここで恥ずかしい戦いをしてはならん! 皆の者、続け!」


 日本文化に傾倒しているプラムの言葉遣いがあやしくなってきた。

 アルゲースから供与されたアークブレイドを引き抜き、突撃する。配下の者もそれに続いた。


 戦意が一気に向上し、押され始めるアラクネ型。この場所に展開部隊数は三十程度。分離しても六十だ。

 数の拮抗は崩れた。


 アラクネ型は予想せぬ新手に苦戦を強いられることになる。

 新型装甲材といっても近接兵装の刀剣類には強くない。圧倒的な機動力と撃ち合いに関して、バイクで追いかけてくる敵や四脚歩行で加速する敵だ。

 対シルエット戦でイニシアティブは取れても、この絡め手にはしてやられたようなもの。

 

 戦闘ラインを下げることになると、次々撃破されていくブラックウィドウをみながら指揮官は確信した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「友軍、TAKABA選抜部隊がクアトロ・シルエットと合流。アラクネ型を押しています!」

「制空権は拮抗状態。よくぞ無事できてくれたものね」

「それが…… 地上からやってきたようです。シルエット用のバイクですね」

「え?」


 ルースの言葉にジェニーが絶句する。


「バイク作ったの? シルエット用の?」

「TAKABAは地球ではバイク製造の関連会社だったそうですよ」

「とはいっても人型兵器にバイクだなんて。うーん、移動手段としてはありか!」


 多少の煩悶はあったが、機兵戦車と違いバイクなら操縦手も不要だ。


 その頃バリーはラニウスCの足下にいた。コウと違って剣術などは使えないが長年の傭兵としての自負はある。


「バリーさん。MCSをバリー司令のものと換装終了です。武装セッティングも指示通りに」


 整備兵が告げる。


「ありがとう。うっし、ひさびさの出撃だ!」


 しばらく慣れない司令仕事でストレスが溜まっているのだ。

 乗り込んだMCSに、ジェニーから通信が入る。

 

「ねえバリー。新しいラニウスが応援で山ほどやってきたわよ。あなたが出る幕あるの?」

「なんだと! 負けちゃいられねえ!」

「もう、これだから……」


 ジェニーは端末に手を走らせ戦況を確認する。


 バリーもセッティングを確認する。

 バリーに用意されたラニウスCは五番機同様アークブレイドを装備。


 乗り手にあわせて射撃兵装を重視している。AK2よりも砲身が長く装弾数が多い新型のAK3を装備していた。

 銃身にはアンダーバレルショットガンが装備されている。S12番ゲージの散弾規格が使えるのだ。


「上空はスターソルジャー部隊とヨアニア隊。地上は戦車部隊と支援の後続部隊、アサルトシルエット隊だな」

「バリー司令。サンダーストームで出撃しますか?」

「要らねえ! このまま最大加速で戦場を突っ走る。ラニウスC、でるぞ!」


 嬉しそうに叫んだあと、ラニウスC型は出撃するため、航空機用の甲板から発進した。

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