戦車型変形可変機
五行重工業のソウヤから戦車が揚陸する。
巨大な強襲揚陸艦ではあるが、アルキメディアン・スクリューによって荒れ地や砂浜、沼地などの移動が可能だ。
その戦車はBAS社の部隊とともに市街地戦へ移行する。
「あれ、戦車が!」
最初に気付いたのはエメだった。
五行重工業の戦車が、シルエットに変形したのだ。
機兵戦車とも思ったが、違うようだ。
よくみると、五行重工業戦車の履帯は前後に分かれていた。
前部の履帯は足に、後部の履帯は背負うような形となっている。
「あれは戦車型
ジュンヨウの艦長、エリが解説する。
「市街地では戦車は路地に入れず、また歩兵も必要。逆に正面から撃ち合う場合は戦車形態と使い分けです」
「今まで可変機といえば航空機の類いだけだと思っていました」
「でしょうね。そのために機兵戦車が生まれたのですから。私たち五行による試作機計画群『
「零式や七式、二式航空艇はその計画のものなのですか?」
「はい! 十式計画で一番最新のものが零式となります。実質十一番目ですけどね」
エリは苦笑した。零は苦肉に策だ。計画名を優先された結果だった。
だが十式はその装甲を生かし、まさに盾のような役割を担って良く戦っている。
十式が敵を引きつけ、零式が援護しているのだ。
十式の砲塔は文字通り。
砲身はレールガンだ。弾頭には一切の火薬、ガス類はなく誘爆は一切ない。
さすがに盾に爆発物を仕込むようなリスクは負えないのだ。
副兵装は40ミリ機銃に、零式と同じコールドブレードを装備している。
「機兵戦車もありますね。装甲車ですか?」
「あれは我が社の次世代標準シルエット『一式』と『六式機兵戦闘車』です。機兵戦車より高機動展開を目指して共同運用するために作られました。セットで
十式が前線を支え、一式と六式機兵戦闘車が陣形を整え火力援護する仕組みだ。
『五行重工業の兵器は安心できますね。スペックを高めに仕上げていますが、価格を抑え生産性を高める工夫が見てとれます』
アストライアが穏やかな表情で評価していた。
事実、防衛勢力主体のアルマジロでは対抗仕切れず、傭兵部隊中心に配備されているバイソンにも引けを取らない。
敵重戦車であるエーバー1相手には、十式で対抗しているのだ。
「コウたちが地下施設より脱出。クルトさんの救援に向かうようです」
「わかった、アキ。ありがとう」
現在クルトは一人で戦っている。
コウたちはその救援に向かっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地上に出たコウたちは急ぎ、クルトのもとへ急行する。
「コウ。座標を提示します」
背後座席に座っているアシアが、ナビゲートしてくれる。
「わかった。アシア、助かる。ところでいいのか、こんなところにいて」
「R001要塞エリアをユリシーズが制圧してくれないと、何もできないのです」
「それもそうか。じゃあ、背中は任せたよ、アシア」
「はい!」
嬉しそうに微笑みながら返事をするアシア。
「クルトは残り六機相手に戦っているようです。コウとヒョウエの二人が合流すれば」
「おう。任せな。さっさとケリをつけるぞ、コウ君」
「はい!」
駆けつけた時、クルトのフラフナグズは距離を取り、囲まれないように戦っていた。
「二人とも! もうここまで! 合流する前に片付けたかったですけどね」
「へへ、無茶いうな。クルトさんよ。こいつらだって超がつく高級機だぜ」
「そうです。バズヴ・カタとほぼ同性能とみました。よく一人でここまで」
コウも十機を超えるバズヴ・カタ相手に一人で戦う自信はなかった。
倒さねばならぬ、鹵獲され量産された機体。
クルトの執念が、圧倒的な不利をはねのけ、ここまで戦闘を継続させたのだ。
距離を置いて射撃に徹しているレイヴンに斬りかかる兵衛。
「ちまちま撃っていたらせっかくの機体が泣いているぜ!」
装甲筋肉機体はレールガンなどの使用には向かないが、射撃ができないわけではない。
やはり普通の傭兵にとっては距離を詰めるというのはリスクが高い行動なのだ。
接近戦の鬼ともいえる三人から距離を取りたいと思うのは当然だろう。
続く五番機。この三機が揃えば残り六機のレイヴンは敵ではない。
剣に持ち帰る暇もなく斬り倒されるレイヴン。クルトを追っていたレイヴンも、援護がなくなれば脆い。すぐにフラフナグズに倒される。
「こちらは片付きました。ありがとうございます」
「いいってことよ。引き受けてくれて助かったぜ」
「はい。敵も傭兵部隊がでてきています」
空を見る。
パンジャンドラムが空を駆けていた。
「あれは……」
「BAS社の新兵器よ。巡航パンジャンドラムというものらしいわ」
アシアが三人に説明する。
「巡航パンジャンドラム、か。構築技士と話をしてみたいな」
コウが感想を漏らす。
「コウ。それはアストライアには言わない方が良いわ。きっと悲しむ」
「え? わ、わかった」
ただならぬものを感じたコウ。そう答えるのがやっとだった。
「コウ。お前はアストライアにいったん戻れ。ダメージが深いだろ」
胸部装甲を貫通し、無傷とは言い難い五番機。
「え、でもまだいけますよ」
「油断はいけません。これからも戦闘は続きます。修理を」
「そうね。戻ったほうがいいかな」
アシアは別の意味も兼ねて提案する。
頭の上がらない三人にそう言われては、コウもそれ以上主張はできなかった。
「わかりました」
「俺はちいと野暮用を見つけてな。終わったらすぐに戻る」
「わかりました。私はメタルアイリスとの共同戦線に戻ります」
三人は一斉に向かうべき場所に飛びだった。
ぞっとするほど冷たい声でm兵衛が、呟く。
「さっきちらっとみた傭兵の機体。ありゃ間違いなく盗まれたアクシピターだ。待っていやがれ。必ず俺がぶった斬る」
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