旧式機アップグレードプログラム――ヘビーアーマードプラン

 アントワーカー型が索敵を行い、戦車を見つける。

 その結果をもとに、アントコマンダー型とマンティス型が戦車に奇襲を仕掛ける予定だった。


 だが、先に吹き飛んだのはアントコマンダー型だった。

 周囲からシルエットが突進してきたのだ。


 遭遇戦に突入したのだ。


「へへ。お前ら程度には負けてられねえ」


 ベアに搭乗している傭兵が、不敵に笑いながら肩に担いでいる滑腔砲を発射した。旧式機扱いとはいえ、まだまだ現役だ。

 メタルアイリスの傭兵のベアは、次世代戦闘環境にあわせてアップグレードプログラムを実行することが推奨されている。重武装化ヘビーアーマードプランが人気だ。

 胸部と胴体まわりを電磁装甲化する追加装甲キットを施し、高威力火器を持たせたシルエットとして、最前線に対応できるように強化されている。

 旧式機は普及率も桁違いだ。様々な強化プランが用意されている。それだけでビジネスとなるのだ。


 メタルアイリスは主力がラニウスA1型などに乗り越え、状態の良い中古も格安で多数出回っている。

 P336要塞エリアは重工業地域でもあり、強化オプションも豊富。

 

 初期にメタルアイリスの傭兵になった者は、駐屯地として設立されていた場所で哨戒任務にあたり経験も積んでいる。

 フユキがコウにいったRPGの初期村育成のような育成環境の整備が、実戦投入できる兵士を生み出したのだ。


 アップグレードプログラムを適用できないシルエットの傭兵は、補給任務へ就くよう推奨されている。

 軍隊を構成する人員、機材の八割は兵站関係なのだ。


「ライフルも便利だが、やっぱり滑腔砲が便利だな。弾代さえなんとかなりゃ言うことなしだが」

「レールガン買えるまで頑張ろうぜ」


 傭兵たちはコストも死活問題だ。メタルアイリス直属隊員のような支給品ではない。


 主武装は大口径の肩打ち式120ミリ滑腔砲を装備している。オプションとしては150ミリ滑腔砲も用意されているが、装弾数の関係で120ミリが人気だ。

 この滑腔砲ならば、アントコマンダー型やマンティス型の高次元投射装甲にもライフルよりは有効である。


 これは本来は対シルエット戦を想定している。電磁装甲の普及に伴い、生半可な弾では装甲を抜けなくなった。

 このような場合、砲の大口径化が進むのだ。


 だが、120ミリ砲では手持ちとしてのライフル状武器の納めるには難しい。

 肩打ちの両手持ち専用の滑腔砲となったのだ。同様のロケットランチャーよりも装弾数が多く、砲弾の選択の幅も広い。

 砲身も長く取り回しは厳しいが、運動性を捨てているベアやグリズリーなど重量機体には相性がいい。


 ベアの他に、グリズリーも同様に重武装化プランが適用され、肩打ち式の滑腔砲を装備している。

 

「よくやってくれた!」


 戦車に乗っているファミリアが謝意を表明しながら、攻撃に参加する。


「いいってことよ! やっちゃってくれー!」

 

 シルエットは7メートル以上ある。その背を生かし、アントワーカー型たちを先に発見していたのだ。

 現在人口太陽のせいでレーダー機能は大きな障害を持っている。

 視認が重要なのだ。


 遠くから見渡すという点において、人型兵器の不利は利点となる。

 前線観測員ではなくとも哨戒は重要なのだ。


「はやく稼いで機体を買い換えないとな!」


 直接メタルアイリスに入った傭兵は支給機体を使えるし、今作戦に参加している傭兵は金さえ出せば装備も売って貰える。

 機体が貧弱なものは後方任務優先ではあるが、彼らにように戦果を稼ぎたいものは最前線にいるのだ。


「もっとおかわり欲しいところだねえ!」


 別の傭兵の声に応えるように、無数のマーダーが群がってくる。

 だが射程外から戦車のレールガンが火を噴き、肉薄しようとするマンティス型をシルエットが滑腔砲にて排除していく。

 

「きたきた! くたばりやがれ!」


 マーダーはシルエットの排除を試みようとするが、今度は戦車が盾となる。シルエットもしゃがめば十分戦車を遮蔽物として利用できるのだ。


 戦車に随伴した歩兵部隊ならぬ機兵部隊は、波状侵攻してくるマーダーを連携し、撃破していった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「アーテーはどうだ?」

「地上艦隊旗艦として進軍中ね」


 バリーはアーテーの位置をレーダーに映す。

 まっすぐに直進していた。


「フユキ。どうだ?」

「対策はすでに行っております。ヴォイさんたちのドリル部隊と共同で」

「やはりドリルか……」


 ドリルを制するものはアシアを制する。

 最初のアシア救出も決め手はドリルだったのだ。


「真顔で変なこと言わないの」


 さすがにジェニーが苦笑する。


「司令! 緊急事態です! 偵察部隊より、緊急通信です。撃墜されましたが、最後の映像が……」


 セリアンスロープが緊迫した声をあげる。


「映せ」


 画面に移った複眼。

 徐々に全容が明らかになる。


 それは巨大なマーダーだった。

 メタルアイリスも初めて見る、マーダー。


 かなり遠距離から撮影したものだろう。

 軌道エレベーターが遠目に見える。


「これはアストライアの資料にあった…… 可能性として示唆されていた、敵の切り札」

「ああ。一番最初に生まれた100メートル級大型マーダー、エリスだ。モデルとなった昆虫はスズメバチ。マーダーの全ての行動プログラムはあいつがオリジナルとなる」


 エリス。争いと不和の女神とされる。

 アストライアに渡された資料に、出現する可能性のあるマーダーとして名前があったのだ。


「無数の飛行型マーダーを連れているはず。やはり、動いたということね」

「アストライアも、出てくる確率は半々だといっていたが、やはりアーテーに合わせてくるか」

「低空飛行のホーネット型ケーレスなんて、対戦車ヘリみたいなもの。厄介なことこの上ない……」

「あのばかでかい本体が一番厄介だ。あの尻尾の毒針もどきはプラズマラムらしい。どんな装甲もパワーとプラズマの高温で破壊する」


 そこに通信が入る。ロバートだ。


「やはり、ってことか。俺が待機していてよかったぜ」

「本当にな。アーテーとエリスの低空と陸上の二面作戦でくるはずだ。くそ、こっちが航空戦力を封じられているのをいいことに」

「まだ残ったマーダーを掃討中だろう。海は頼んだぞ。陸はなんとかする」

「状況に応じてそっちに飛んでいく」


 海岸沿いの三隻も飛行して移動することはできる。

 だが、罠の可能性も高く、護衛の航空機を上空に飛ばせない以上、危険だった。


「地上部隊は順調に迎撃しているよ」


 リックからの通信。彼はずっと現場で指揮をしているのだ。


「ユリシーズ王城工業集団公司からの応援戦車部隊千輌に支援部隊が来てくれた。ファミリアの主力戦車が中心の部隊だ」

「ウンランさんか。この後の応援も予定している。大兵力だな。感謝しかない」


 陸戦で戦車は重要だ。アントワーカーが群れを為しても倒せない。サポートする傭兵のシルエットと組み合わせれば、相当な戦闘力を発揮する。

 傭兵もまた、シルエットで矢面で立たなくて済むので安心するのだ。

 この地上部隊の応援部隊も相当なものだった。


「アーテーとエリスは二人に任せた」

「わかった。フユキ。いくぞ。勝負は一瞬だろう」

「そうですね。アーテーの進軍に合わせるとして。エリスは飛行して数時間もあれば到着するでしょう。あと一時間圏内が勝負です」


 ロバートはフユキに確認を取る。ロバートが空を。フユキがアーテーに対する作戦を敢行することになる。

 巨大兵器同時迎撃作戦が始まろうとしていた。

 

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