星の果ての剣鬼、推参

 機兵戦車隊と分離した重シルエットのブラックタイガー隊が半壊した。

 被害が大きいのは機兵戦車ワイルドホースだ。


 大型マーダー群の強襲にあったのだ。

 エニュオ四機が前進し後続にピロテース二機。さらに背後の左右に砲撃型エニュオ。最後尾にアーテーがいる。

 それらを軸に周囲に中型マーダーであるライノサロス型ケーレスやマンティス型ケーレス、アントコマンダー型が大量に配置されている。

 ピロテースは多くのスパイダー型ケーレスを内蔵している。マーダーによる陸の空母打撃群といえる。


 ワイルドホースが重シルエットであるブラックタイガーの盾となり、被害は少ない。

 だが、その巨大マーダーの猛攻は最前線のラインを崩すには十分だった。


「ブラックタイガー隊の撤退支援、急げ!」


 にゃん汰がAK2でマンティス型を射撃しながら、号令を放つ。

 ある意味エポナとエポスも四脚戦車。前線の壁能力は高い。


 だが援護射撃程度で倒れる巨大マーダーではない。

 焦燥感がセリアンスロープたちを襲う。このまま押し切られるかもしれないという恐怖だ。


 近接部隊は大型の爪でアントコマンダー型を切り裂いている。


 マンティス型の斬撃を、エポスは巨大な爪で受け止める。


「にゃー!」


 猫耳娘が叫び、巨大な猫パンチでマンティス型を葬り去る。


 接近戦の欠点は包囲されやすいこと。瞬く間にマンティス型に取り囲まれる猫耳娘に、援軍がきた。

 にゃん汰だ。AK2で敵を牽制しつつ、馬状の胴体側面に取り付けられた対地ミサイルを発射。包囲網を単機で崩す。



「ドラグーン部隊よりは状況はましだ! こちらは私たちで食い止める!」


 いつもの語尾は封印し、的確に指示するにゃん汰。


 あっちとは、エニュオを相手にしているアサルトシルエットのラニウス隊だ。

 近接で一機ずつ片付けているが、巨大兵器同時に四機。


 被弾し撤退するラニウスA1や、撃破されるラニウスもいる。

 そこにピロテースが強襲し、スパイダー型を放つのだ。


「救援がくる。もう少しだけ持ちこたえるんだ」


 じりじりと減っていく味方を気にしつつ、コウは最前線で敵を切り裂いている。

 

「ユリシーズの援軍到着しました! エポナ部隊400機とバスク・カタ部隊20機、ヴュルガー隊80機です!」


 アキから通信が入る。


「コウさん。私情を交えて申し訳ありませんがピロテースは我々にお任せを」


 クルト・マシネンバウ社の青年が通信を寄越してくる。

 彼らの拠点を襲撃した、忌まわしき敵だ。


「わかった。任せた!」

「ありがとうございます!」


 バズヴ・カタたちが舞う。ヴュルガー隊は援護射撃が主だ。ヴュルガーもまた電磁装甲型に改装されている。ラニウスとは姉妹機なので当然だろう。

 逃げ惑うしかなかった、ピロテースと戦うために。


「アーテーが到着する前に巨大マーダーを片付けるぞ!」


 コウが檄を飛ばす。

 撤退する仲間の援護のためにも、継続して戦線を支える必要があったのだ。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 エニュオを四機倒したところで、半数のラニウスが撤退している。

 周囲のケーレスの数が多すぎた。いくら装甲が厚く防御力に優れた機体とはいえ、限界はある。

 残りは通常のエニュオ一機と、砲撃型エニュオ一機。


 クルト社のバスク・カタもピロテースを一機撃破している。

 だが、多くのヴュルガー隊が後退していた。


 撤退した機体はキモン級で補給を受けている。マールとフラックを始め、多くのクアトロシルエットや作業用シルエットが補給を行ってまた前線へと送り出す。


 コウは最前線で戦い続けていた。

 機動力と装甲の厚さを生かし、接近戦だ。


「もう20分程でアーテーの射程圏内に入る。これ以上の防衛ラインは下げられない。みんな、あともう少しだけ頼む」


 背後の森を抜けると海岸が広がっており、キモン級が展開している。

 ここが防衛ラインといえる。


 上空ではひっきりなしにサンダーストームが交代で往復している。いくら火力が高くても弾薬に限界があるのだ。


「しかし! まだエニュオとピロテースが!」


 そういっている間にもやられて崩れ落ちるヴュルガー。

 

「く。ラインを下げて砲撃戦か、海上か」


 海上に後退したら、彼らを無視ししてP336要塞エリアに向かうだろう。


 そこにブルーから通信が入る。


「コウ。サンダーストームが近付いてくる。見たことがない機体。友軍だけど」

「P336要塞エリアの援軍か?」


 コウも心当たりはない。


 その会話中も砲撃は続く。

 砲撃型エニュオとケーレス型の連動した砲撃を捌くのに精一杯だ。 


 サンダーストームがシルエットを投下する。


 その両手に構えた二本の電磁刃。それはコウが贈ったもの。

 構えは懐かしさを覚える、勢法五法の上段構え。

 一方を肩に載せるように構え、もう一方を突き出し、斜めにして体を守るように構えるのだ。


 間合いが計れぬ肩に載せられた剣が、いつ敵を襲うかわからぬ、独自の二刀。


「え?」


 予想もしなかった男の登場にコウが絶句する。


 投下されたシルエットは飛翔し――そのまま砲撃型エニュオの腕を斬り飛ばした。


 コウを守るように立ちはだかり、あっという間にケーレスを斬り倒していく。

 初めて見る紺碧の機体。

 五番機に通信が届いた。懐かしい顔がそこにいた。


「鷹羽兵衛。推して参る。――久しぶりだね、コウ君」


 星の果てに流れついた伝説の剣鬼、鷹羽兵衛がそこにいた。

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