アリステイデス級二番艦ペリクレス

 海岸沿いを進撃していたマーダーは大陸寄りに移動していく。

 メタルアイリスの艦艇から艦砲射撃を受けることを警戒しているからだ。


 実際、潜水艦から対艦弾道ミサイルが次々と飛んできていた。

 周囲のマンティス型やライノセラス型がレールガンで防空を行っている。


 巨大マーダーはアーテーを中心にエニュオが五機とピロテースが二機。陸の空母打撃群のようなものだ。

 周囲のマーダーは厄介なことに全てAスピネルのリアクターを採用している高次元投射装甲タイプのものばかり。


 それらの大軍が転進し、キモンとアストライアに向かってきているのだ。


「対艦弾道ミサイルで有効打は無理か」


 エメが呟く。


「アストライアは海上へ移動します」


 アストライアは現在、兵器搭載機能は空母能力最大にしている状態だ。

 後退し海上へ移動することを指示するエメ。


  アストライアはその形状、大きさからいっても戦闘向きではない。

 といっても戦闘能力はキモンに匹敵する程はあるのだが、アストライアが規格外すぎるだけの話なのだ。


 昨日のダメージもある。艤装の修理も完全ではない。


「了解した。キモンは揚陸状態を維持し、前線を支援する」

 

 キモンは基地能力を生かし揚陸作戦部隊を援護するのだ。


「司令! マーダー支配地域の海中より出現。海上に高速で近付いてくる敵機発見しました。これは……アーテーです!」

「なんだと。四機も用意しやがったか。まだまだ出てくるか?」


 現在、正面から侵攻するマーダー軍団を相手にするため、ほとんどの戦力は展開済みだ。

 海上からのアーテーほど厄介なものはない。荷電粒子砲がほぼ無限に使える状態なのだ。

 しかも航空機が封殺されているのだ。


「潜水部隊ディープワン、迎撃準備。海中からお願い」


 エメは慌てず指令を出す。

 だが、相手は要塞エリアよりもよほど頑丈な動く要塞。

 海中からの対艦弾道ミサイルでもプラズマバリアを張れるアーテー相手に有効打は与えにくいだろう。


「またアストライア狙いか」

『大丈夫です。バリー指令。友軍が迎撃に向かいました』

 

 バリーの嘆きにアストライアが応える。


「友軍? まだいるのかよ!」

『はい。準備が整いました。この友軍を用意したのは、バリー指令ですよ』


 今度はディケが応える。


「俺が? どういうことだ?」

『艦影映します』


 海面を割り、姿を現したのは、強襲揚陸艦アリステイデスにそっくりの軍艦だった。

 

「アリステイデスが何故? P336要塞エリアにいるはずじゃ?」

「俺はこっちにいるぜ」


 バリーの疑問にロバートが通信を寄越す。


「あのアリステイデスは、なんだ!」

『アリステイデス級二番艦ペリクレス』 

「二番艦だと!」


 次から次へと出てくる友軍戦力に目眩を覚えるバリー。

 アリステイデスは強襲揚陸艦としては非常に優れている。戦艦を兼ねているといってもいい性能。さすがアシアが選んだという軍艦だ。

 この船を一隻所有しているだけで上位のアンダーグラウンドフォースを名乗れるだろう。


『空母、強襲揚陸艦は二隻運用が基本ですよ』

「それはそうだが……」


 空母、強襲揚陸艦はローテーションで任務に付くという性質があるので、二隻建造が基本だ。

 どうしても予算がない場合は一隻建造を行い、同型艦計画を進める。


 そうは言っても惑星間戦争時代の、これほどな高性能艦が二隻も用意できるとは思えない。

 しかも友軍なのだ。

 

「おい、コウ!」


 バリーは考えることをやめ、元凶、いや所有者であろう男に聞くことにした。


「……何がどうなってるか俺もしらない」

「またかよ!」

「アシアにもらって封印してたんだ」

「封印するなよ!」


 恐るべきはアストライアか、それともアシアか。

 貴重な戦力だ。二番艦などあればまた違った戦略となっていただろう。


「司令! ペリクレスから通信です!」

「すぐに繋げ!」


 そこに移った戦闘指揮所にいたのはぞっとするほどの美しい男性。

 話したことは少ないが見覚えがある青年だ。


「やあ。バリー司令。転移社企業連合『ユリシーズ』。これより旗艦ペリクレスと共に参戦するよ」

「マット!」


 コウが驚いて思わず大きな声が漏れ出る。

 黒いゴシックドレスを身にまとう美しい男、マティー。マットは彼の愛称だ。


「私もいるよー!」


 隣に座っているフージャリンもいる。こちらは軍服姿だ。


「バリー司令。お初にお目にかかります。私はクルト・マシネンバウ社のハーラルト・ミュラー。クルト社も同様に参戦します。これで恩返しができますね」


 中年の男性は微笑んだ。クルト社の社員を救援し、企業復興まで面倒を見てくれたメタルアイリスにようやく報いることができるのだ。

 もちろん彼らのために兵器は生産している。購入し、代金を支払っている。それはビジネスだ。恩返しにはならない。


『ユリシーズに参戦を促したのはバリー司令。あなたですよ。私は何もしておりません』


 アストライアが悠然と微笑んで告げる。


「な、な……」


 言葉が出ない。確かにユリシーズに参戦を促したのは、彼だ。


「コウ。聞こえているかい? アルゲースさんと君の友人という大変美しいお嬢さんにこの艦を預かったんだ。問題はないだろ?」

「よく知っている二人だ。問題ない」


 友人というのはアストライアだろう。自分の友人と自己紹介するアストライアを想像して、自然と笑みがこぼれる。


「そのうちヒョウエさんやウンランさんの応援も来るはずだ。僕たちは運命共同体。一人じゃないってことを覚えておいてくれ」

「わかった。ありがとうマット」


 アルゲースの代理と名乗り、アストライアがマティーと接触を以前からしていたのは知っていた。

 まさか、この日の為だとは。コウはアストライアのしたたかさに舌を巻いた。敵じゃなくて本当に良かった、と。


『コウ。あなたの友人にペリクレスを預けました。問題はないと思います』


 コウにアストライアから通信が入る。


「問題はない。まったく問題はないが…… 心臓に悪い伏線を張るな」

『そこはご容赦を。ユリシーズ及びペリクレスの準備がここまで早く整うとは思いもよりませんでした。バリー司令および企業関係者の動きが見事の一言です』 

「ああ。捨てたもんじゃない」


 黒瀬とケリーの救援に続き、ペリクレスまで駆けつけた。

 頼もしい友軍たちの登場に、コウは心が晴れやかになるのだった。

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