迎撃不可能

 アルゴナウタイの見ている前で、三発目の直撃を受けアーテーは破壊された。


「解析完了しました。大電力のレールガン。おそらくはAカーバンクルのウィスをあの路線にだけ使っているのでしょう。口径は150センチ全長900センチ、タングステン合金砲弾だと予想されます。初速マッハ38、距離は約230キロメートル。着弾した時点でもおよそマッハ25もの速度で砲弾が衝突した理論値です」


 ヴァーシャがカストルに説明する。


「このコンセプトは、アルベルトが却下された大口径砲だな」

「仰る通りです。ここまで大口径は考えておりませんでしたが」


 アルベルトもまた列車砲を提案していたのだ。アレオパゴス評議会には一蹴された。

 Aカーバンクルは貴重だ。列車兵器運用のために使うわけにはいかないのだ。


「迎撃は?」

「迎撃不可能です。マッハ20以上に合わせて対空射撃は合わすことができません。さらにいえば直径150センチのタングステン合金の塊を砲弾として射出しています。誘爆を望めるロケットやミサイルではないのです」

「あくまでレールガンの砲弾として射出か。シンプルな分だけ、強いな」


 中に炸薬が入っていればうまくいけば迎撃出来ただろう。だが、相手は徹甲弾としての運用しか考えていない。

 レーザーを照射したところで直径150センチの砲弾など溶けるわけがない。レールガンの弾など弾かれて終わりだろう。


「ふむ? アルベルトよ。心地が良いだろ? 自分のコンセプトが正しかったということは」

「否定はしません」


 敵構築技士は、彼が出来なかったことを成し遂げ、アーテーを破壊した。先を越された憤りは確かにあるが、同時に彼の正しさを証明したのだ。


「アーテーがいなくなった山脈沿いの部隊など、役に立たんよ。しかも列車だろ? 所詮山の上の防御兵器にすぎん。マーダーをいったん後退させ中央部隊と合流させよ。廃棄したアーテーからAカーバンクルの回収だけは忘れるな」

「畏まりました」


 ヴァーシャもその指示に異論はない。使用用途が限定される兵器とまともに殴り合うことはないのだ。

 Aカーバンクルの回収をアルラーたちに命じる。列車砲はAカーバンクルを使った対空レーザー砲に強固な装甲を持っているはずだ。相手にするだけこちらの被害にしかならない。


「予想通り、アーテーを破壊したか。だが、残りはどうでるかな、連中は」


 愉しげに笑うカストル。ヴァーシャの予想通りだったのだ。

 これはこれで貴重なデータとなる。


「さて。もう列車砲などは通用しません。あれは撃ち下ろす兵器ですからね。海沿いは精鋭の火力。中央は……考えられるのは強襲揚陸艦の体当たりですね」

「それで相手の強襲揚陸艦を潰せたら安いものだ。アーテーが一機でも要塞エリアに到達したらそもそもこの戦いは終わる」

「はい。他にどんな手が。ただ、この戦闘が始まる前にアストライアのデータはありませんでした。どんな兵装がでてくるか予想はつきませんね」

「こちらにも切り札はまだある。アルゴナウタイの部隊が出るまでにできるだけ吐き出させることだ。所詮型落ちマーダーの在庫処分よ」

「は!」


 大量のマーダーをもってしても落とせない前提で考えている二人。アルベルトも同感だ。

 後半の人間部隊こそ、戦車などの兵器も活躍する。マーダーに敗北しないでくれよ、とアルベルトは願うのだった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「敵部隊撤退します!」


 歓声が上がる。まず一機目とはいえ、アーテーを接近前に被害ゼロで封殺したのだ。


「油断するな。撤退したということは、別方面軍との合流だろう。相手はもう全縦深包囲打撃など考えていない」


 バリーが冷静に戦況を分析する。


「その通りだ。中央軍と合流か。数を束ね今度は我らの防衛網を打ち破るべく集中してくるだろう」


 陸上部隊の本番はこれからである。

 リックの指示の元、部隊は展開していく。


 ストーンズのマーダー部隊の立て直しは早かった。

 大型マーダーを一機倒したに過ぎないのだ。その数は依然、そのまま。数万の大軍だ。


 事実、敵の進軍速度は低下していない。


「諸兵科連合軍で、どれだけマーダーを減らせるかだ」


 リックが呟く。地上戦は航空戦と桁違いな被害をもたらす。

 進軍してくるマーダーの一波、二波を睨んだ。


 先陣を切ったマーダー群とは交戦が開始された。


 現在は、シルエットと戦車の混成部隊が大きく三カ所に分かれ、P336要塞エリア敵侵攻方向に対し配置。

 状況によって鶴翼陣形。場合によっては包囲陣系を取るように行動している。


「スターソルジャー隊。出撃する!」


 戦闘機のスターソルジャー隊が出撃する。

 低空の安定性は、メタルアイリスの多用途戦闘機群のなかでは最も優れている。


 上空300メートルを飛び、対地攻撃を仕掛ける。目標はレールガンを持つアントコマンダー型やマンティス型だ。

 

「サンダークラップ隊。攻撃を開始する!」


 続いてサンダークラップ隊が攻撃を開始する。

 アントワーカー型は機銃の掃射で、マンティス型やアントコマンダーもワイヤー誘導の対地ミサイルで撃破していく。

 被弾も少なくはないが、小口径レーザーでは電磁装甲を貫通することはない。


 サンダークラップ。重攻撃機のサンダーストームからシルエット運搬能力を無くし小型化した双発の重攻撃機だ。

 電磁装甲を採用しており、装甲は厚い。近接支援を主な任務としており、対空砲火を受けやすい分、装甲は堅牢にしてある。

 低速の安定性を重視し、最高時速は1100キロ程度だ。

 主な武装はサンダーストームと同じく60ミリ機関砲だ。対戦車ミサイルのほかに大型対地ミサイルや対艦ミサイルなど各種大型ミサイルを搭載可能。状況によっては対空ミサイルも搭載できる。


 上空100から70メートルを飛ぶサンダークラップは地上の攻撃をまともに受ける。

 スターソルジャーが対空兵器を先行して潰していなければすぐに引き返すことになるだろう。だが、レーザーの集中砲火など、蚊ほどの痛み。

 

 対地ミサイルはもとより、機関砲が猛威を振るう。金属バットほどもある弾雨がマーダーを襲う。射程は1500メートルだが、機関砲の特性上もう少し近付く必要があるのだ。


「地上部隊、砲撃準備!」


 リックの号令により、半装軌装甲車や装甲車に装備された多連装ロケットミサイルや榴弾砲が攻撃を開始する。

 榴弾砲が着弾し、次々とアントワーカーが数を減らしていく。


 だが爆風によるダメージは高次元投射装甲を装備しているマーダーにはほとんど効果がない。


「これより迂回し、マーダーを一掃する! 巨大兵器群がくるまでに少しでも数を減らすぞ!」


 リックが自部隊を動かすことを決意する。

 最後は戦車による機動防御。


 中央は戦車とシルエットによる陣地防御。そこへ戦車の機動力を生かすのだ。

 だが、個々の戦力は低いとはいえ、敵のほうが数が多い。


 そこへさらに機動打撃部隊。機動戦闘車や装軌装甲車、機兵戦車を加え火力を高めるのだ。

 戦車隊による防衛作戦が始まった。

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