転移社企業連合『ユリシーズ』参戦

 数は減らしつつも、俄然驚異的な数を誇る、アルゴナウタイの敵部隊。

 だが、再び異変が起きた。


「八時の方向より、航空機部隊接近中! これは――友軍信号確認。スカンク・テクノロジーです! 未確認新型機と、スターソルジャーの混成部隊です!」

「夢でもみているのかな、私。色んな人が助けてくれる」


 エメがぽつりと言った。


『コウの縁が私達を助けてくれましたね』

「うん。コウにお礼をいわないと」


 バリーとジェニー、コウに通信が同時に入る。

 ケリーだった。


「ケリーさん。バリーです。ありがとうございます!」


 総司令として真っ先にケリーに礼を言う。


「バリー司令だな。お初だ! 俺はケリー。ジェニー、コウ。こっちも援軍を出した。指揮権はそっちにやる。上手く使ってくれ!」

「ボス! ありがとう!」

「ケリー! 感謝するわ!」

「いいってことよ。しかし、クソ! まさか衣川に遅れを取るとは…… なんだマッハ4ってあの野郎。さすがだな!」


 どうやら衣川の戦闘機が先に救援に来られたことが悔しかったらしい。


「新型はヒートライトニング。タキシネタを元に作った金属水素貯蔵型の可変シルエットだ!」

「また可変機作ってたんですか」

「タキシネタは高価すぎるだろ? バリーに頼まれて企業は今からストーンズに喧嘩を売るんだ。色々な機体が必要だ」

「企業がストーンズに? バリーが頼んだって」

「俺たちをまとめあげた功労者だぞ? バリー総司令の提案前に、俺たちは俺たちで動いていたんだが、彼の提案が決め手となった。俺たちは今日から転移社企業連合『ユリシーズ』。命名は俺だな!」


 自慢げに胸を張るケリー。


 コウはバリーを見る。

 バリーは鼻をぽりぽりとかいているだけだ。


「俺たちは本日より、アンダーグラウンドフォースでなくなる。正式な企業連合の防衛軍となるんだ」

「バリー? いつのまに」


 さらりと凄いことをいってのけるバリーに、ジェニーは驚愕した。


「すまん、勝手に話を進めた。コウ。ストーンズに対し企業は俺たちが守る。だから、企業に力を借りる。そう決めたんだ」

「さすがだ」


 コウは感動さえ覚える。そんな話を立案し、ひそかに進めていたのだ。

 企業を守るための組織、防衛軍。クルトの悲劇を思い出し、何かできないかとは思った。もし兵衛やケリー、ウンランがあんな風に死ぬのはもう考えたくないぐらいだ。


「バリーは切れ者だな。防衛軍が狙われているなら、俺たちも力を貸すさ! ついでにストーンズに喧嘩を売ってやる!」


 ケリーが笑う。


「今からいっちょ、アルゴナウタイの連中に宣戦布告する。よく見ておけよ、コウ!」

「はい!」

「ケリーさん。ありがとうございます」

「俺たちの話し合いで防衛、援軍をどうするか。普段の戦力をどう維持するかが問題でな。バリー総司令の提案は渡りに船だったよ」

「そういって頂けると助かる」

「ま、そんなもんがなくても助けにきたがな。ジャリンとマットもきりきり働かせろよ! じゃあまたあとでな!」


 そう言って通信を切った。相変わらず急かしい。


「ありがとう、ボス」


 もう一度礼をいった。ケリーはふてぶてしく笑い、親指を立てるだけだった。


 辿り着いたスカンク・テクノロジーが、アストライアを援護するために空戦を開始する。

 



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「俺はスカンク・テクノロジーズのケリーだ。ストーンズ所属軍アルゴナウタイへの通信を行う。全世界中継となっている」

「これはケリー殿。偉大な先達にお目にかかれて光栄だ」


 ヴァーシャたちが応答にでた。

 画面にはスーツ姿でいつもより身なり良くしているケリーが映っていた。


「世辞は上手いな。手短にすまそう。我々A級構築技士を有する転移社企業は、シルエットベースを中心に転移社企業連合『ユリシーズ』を結成。メタルアイリスの友軍として参戦。アルゴナウタイへの戦闘を開始する」

「ほう? オケアノスが、傭兵機構は一つの組織が力を有することは認めない。規約違反の罰則で、企業活動が停止になるぞ」


 半神半人のカストルが口を挟む。


「通常なら、な! だが、お前たちは致命的なミスを犯した! クルトとジョンを同時に襲撃し、身柄を確保しようとした。つまり、A級構築技士を目的に襲撃した。残りのA級構築技士が身の危険を感じ、互助会を作るのはそんなにおかしいことかね?」

「……」

「さらに言うならストーンズよ。お前たちがB級以下の構築技士の肉体を支配し、その肉体を奪っていることも知っている。この互助会に他の構築技士が率いる企業が入るのも自由ってことさ! お前たちが消滅したら、この連合はなくなる。安心しろ。この組織はすでにオケアノスの承認済みだ」

「言ってくれる。だが、今回の戦いはA級構築技士を確保するためのものではない。参戦するのはお門違いではないかね?」

「アルゴナウタイと戦うのに理由はいるのかね? しいていうなら二つ。P336要塞エリアには転移社企業連合所属の構築技士がいる。そしてメタルアイリスは、我ら転移社企業連合『ユリシーズ』の防衛軍でもある。つまり、我らへの攻撃であるということだ!」

「なんだと! アンダーグラウンドフォースではなく、防衛軍など、オケアノスが許すわけがない」

「特定の要塞エリアに属せず、企業一社にも属していない。ルール違反じゃないぜ? お前らだって乗っ取った人間をダミーにしてストーンズを一つの勢力としてないだろうが」


 半神半人が黙った。


「さて、これをみた各企業よ。どちらにつくかは君たちの判断に任せる。賢明な選択を期待しているよ」


 最後は画面の向こうにいるであろう、構築技士たちへにやりと笑い、放送通信が終わった。

 

「まさか、こんな手を打ってくるとは思いませんでしたな」


 アルベルトがため息をつく。どうやら間違った選択をしたようだ、と内心思った。


「ふむ。――ヴァーシャ。全世界へ通達せよ。ストーンズについた要塞エリア、防衛ドームへの不可侵を約束。中立表明を行った者はこの戦争が終わるまで安全を保証する猶予を与えるとな」

「中立を含むとは、敵を増やさぬ見事な判断です。早速通達させましょう」


 ヴァーシャは部下に命じ、カストルの提案を惑星アシアの各自治体に通告させる。


「A級構築技士を狙ったことが裏目に、か。だが、奴らがこんなにまとまるわけがない。ロジックを作って裏から糸を引いた奴がいる。それがアシアかアストライアかはわからないがな」

「そうか。アストライアだな、画策したのは」

「どうしてそう思われます?」


 普段、あまり興味を持たないヴァーシャが尋ねる。カストルがそういうには、なんらかの根拠があるに違いない。


「奴は元々兵器開発統括AI。この大戦ともいうべき状況で、超AIのなかで誰が一番己の存在意義を見いだしていると思う? 兵器企業を統括して、我らを仮想敵に。人間は奴を必要とするだろう。千年以上前、我らに技術を供給した汚名も注げる。踊らされているのは人間のほうだ」

「なるほど。一理ありますね」


 自分も戦争状態でなければ、ストーンズ側に移ることはなかっただろう。アルベルトもだ。

 

「予想するに、アストライアが目覚めたのはつい最近のはずだ。今まで数十年膠着状態だったのだからな。この現状を憂えたか、もしくは自分が基礎を生み出したマーダーが人類を殲滅しそうになっていることを焦ったか」

「しいいていえば後者かもしれませんね」

「そうだろうな」

「しかし、あのアストライア。予想以上の戦力でした。アストライアの撃破は諦めたほうがいいでしょう」

「まだ二千機以上残っているではないか」

「短時間で五百機失ったのですよ。相手は百機も落ちていない。予想外からの救援が多すぎる。ほら、また来ました」


 モニタに、さらなる別方角より来たる戦闘機群が見えた。

 高速で飛行する、タキシネタの編隊だった。


「我らはアストライアの名前に釣られてしまった。完全に分断されている。罠にかかったのはこちらのほうです」

「そこまで考えて空母を運用していたか? ――奴ならやりかねないか。わかった。戦術は切り替えよう。いたずらに航空戦力を減らす愚は犯してはならん」


 カストルは失敗を認めた。この半神半人は、非常に切れ者だ。己の失敗を認め、戦術の転換ができるほどに。

 肉体がB級構築技士でもある。


 まさかの制空権確保の失敗。

 相手より数倍は上の戦力を保有しながら、戦力を分断され、アストライアの名前に引っかかってしまった。


「ふと思ったが、ヴァーシャ君。君を批判するわけではないが、アルラーとコールシゥン、遠距離のレーダー性能が弱くないか」


 機体性能は高いが、背後を取られすぎている二種の戦闘機。得意な近、中距離に持ち込めずに撃墜されているように見えたのだ。


「あの二機種はそれが唯一にして最大の欠点だ。コストの問題だな」


 レーダー類の性能はそのままコストに直結する。


「ふむ。個の傭兵が中心のアシアで、 C4ISTARなどを運用している敵は、そういないか」


 C4ISTAR。指揮、統制、通信、コンピューター、情報相互運用、監視、目標捕捉、偵察を合わせた軍隊を効率よく動かすための必要なものを指す。

 近代戦において必要な要素をまとめたものだ。


「その通りだ。理解が深く助かるよ、アルベルト」


 過剰なレーダーを廃した結果、失敗した。それだけのことだ。機体性能で負けたわけではないのだ。

 だが偵察衛星がなく、ネットワークを駆使した戦術などないと甘く見過ぎた結果は受け止めなければいけない。情報、レーダー面での見直しは必須だ。


「マーダーと砲撃部隊による全縦深包囲殲滅は諦め、マーダーを駆使した消耗戦に切り替えます」

「消耗戦といえるのかね。主力部隊丸々残しておいて」

「マーダーと人間が乗る兵器は共闘はできません。せいぜい活用しましょう。両方ね」

「貴公のそういう所は好感がもてるよ」

「ありがとうございます。私もカストル様が賢明な上官で光栄です」


 二人の言葉に偽りはない。

 人類にとって最悪な二人が、互いに好感を抱いている。

 それが最大の脅威かもしれないと、端で聞いているアルベルトは思ったのだった。

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