アシアにおける重戦闘機の再定義
アストライアに群がるコールシゥンは徐々に数を減らしていく。
対艦戦闘装備になっている機体が増えていたことが仇となっていた。
弾切れで苦しい状況に、飛来したプレイアデスの編隊から大量のミサイル攻撃を受けたのだ。
次々と撃墜されていくコールシゥン。
敵爆撃機も急上昇し対空ミサイルを放つアエローに撃墜されていく。
さらには撃墜だけではなく、弾切れや編隊の機体損耗で帰還せざるを得ない状況に追い込まれる。
甲板ではアルラーたちが破壊工作を行っている。
巨大な高周波電熱剣で、エレベーターまわりを溶断しようとしているのだ。
アルラーは可変シルエット。ジェニーのような戦闘機を背負うのではなく、戦闘機の各パーツをまとうタイプだ。
細身の軽量シルエットが中装甲程度になる。
Aカーバンクル由来の高次元投射装甲であるアストライアの甲板は非情に硬い。
十機以上の同型機が同様の作業をしているのだ。
しかし――
飛来した戦闘機が可変する。巨大な長剣を構え、アルラーたちに斬りかかった。
「作業中断! 戦闘に移れ!」
アルラーに乗っているのは優れたストーンズに選ばれた優秀な人間、ラケダイモンたちだ。
判断力に優れ、シルエット操作技術も高い。
「同タイプの可変シルエットか!」
ラケダイモンの一人が叫ぶ。
目の前に現れたのは御統重工業のヨアニア。
プレイアデスが駆るこの機体もまた、戦闘機の各パーツを身にまとうタイプだったのだ。
だが、その可変した姿は大きく異なる。
可変シルエットにあるまじき中型機体に、さらなる重装甲をまとったような形になったのだ。
その姿はヨアニア――ショウキランの由来となった破魔の護神、断罪の剣を構えた鍾馗が如く。
「広い甲板だなぁ! 決闘する舞台にはちょうどいいぜ!」
「可変機のくせに重装型だとぅ!」
ラケダイモンは絶叫する。軽量、高速が前提の可変機で重装型シルエットとして変形するなど、信じられなかった。
睨み付けるように身構えるヤスユキのヨアニア。
アルラーたちが対空ミサイルを肩から水平射撃する。
腕を交差して、耐えるヨアニア。
「なんて、装甲だ…… なに!」
加速したヨアニアが目の前にいた。
袈裟切りは、胸部あたりまで食い込む。電磁装甲は意味を成さない。あれはあくまで射撃武器全般への防御なのだ。
無造作に蹴り飛ばし、止めを刺す。
「ヨアニア部隊、抜剣! 敵を掃討せよ!」
号令とともに、背後のヨアニアたちも射撃武器から剣に持ち帰る。全機細身の長剣を所持していた。
「重戦闘機の定義を変更しないと、な。これぞ新機軸。アシアにおける重戦闘機を再定義するに相応しい機体」
重戦闘機。戦車の区分が主力戦車に統合されたように、戦闘機も目的が統合されていったのが二十世紀。軽戦闘機は練習機と兼ねることで生き残っている状況だ。
かつて旋回性能を中心とする運動性を追求し、空戦に特化したものが軽戦闘機であり、加速と上昇力を優先し、爆撃機などの要撃任務を重視し一撃離脱戦法を行う機体が重戦闘機と呼ばれていた。火力や装甲の有無はあまり関係がない。
地球とは違い機動性、装甲、火力を重視し、ネメシス戦域における新たな重戦闘機を目指して作られたのがヨアニアだ。加速力、装甲を重視した機体だ。空戦、そして地上での火力制圧としてシルエットに変形し作戦行動も行うことを想定している。
衣川が創り出した、惑星アシアにおける重戦闘機への答えだった。
増加した重量はリアクター出力をあげカバーし、ある意味直線番長的な性質を持つ。
アルラーたちも巨大な高周波電熱剣に切り替える。狭い甲板では射撃で有効打を与える前に両断されてしまうのだ。
閉所では装甲の厚いヨアニア隊が有利だ。
黒瀬たちは接近戦になれている。その点でもアルラーのパイロットには不利だった。
そこへさらなる援軍がやってきた。非常用ハッチからヨアニア隊が初めて見る四脚型のシルエットが数機現れたのだ。
手には小太刀を構えている。振るうたびに発光し、アルラーの装甲を紙のように切り裂いている。
彼らもうまく連携し、アルラーたちを甲板端まで追い込んで倒していく。数機突き落とされた。
海中にいたるまでに変形できたものはいいが、一度海水に落ちてしまうと死ぬしかない。海中で空気を吸い込むジェットエンジンは使えない。
「救援ありがとうございます!」
敵も半数に減った頃、アストライアの四脚シルエットから通信が入る。
通信にメタルアイリスのジャケットを着た美しいうさ耳少女が現れた。エイラだ。
「こちらこそだ!」
親指を立てて、にかっと笑って返答するヤスユキ。
あまりの可憐さに、思わず胸がときめきそうになったのは、ばれてはいけない。
「あ、あの。その…… ヤスユキさん、とても格好良くて、優しくて素敵だと思います。はい。わ、私何いってんだろ。またあとでお話できると嬉しいです!」
何故かエイラも黒瀬をみて顔を真っ赤にしている。うさ耳がへにゃっと左右に垂れていた。
通信を切るときも心なしか名残惜しそうだ。
あまりの展開に言葉がなくなる黒瀬。でっぷり太った彼に格好いいと言った者はいない。顔に血が上るのがわかった、三十路も半ば過ぎの独身だ。
だが戦闘中である。
「たいちょー。いいところ見せないと!」
「可愛かったですよね、今のうさ耳ちゃん!」
「お世辞だと思うけど! お世辞だと思うけど! 隊長背中から斬っていいすか?」
隊員たちが冷やかし始める。
「お前たち、戦闘中だぞ! 絶対に! 俺のためにも! この艦は守る!」
士気が異様にあがったヨアニア隊に押され、アルラーたちは撤退を余儀無くされた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「敵部隊、構成を変えました。一部撤退し補給に戻っているようです」
『上空が手薄になりましたね。現在拮抗している状態です』
「いまのうちに補給をしましょう」
エッジスイフトの部隊に補給指示を出す。
そしてプレイアデスのヤスユキに連絡を行った。
「ヤスユキさん。エメです。機体の修理、弾薬の補給はこちらで行えます。必要なら着艦させてください」
「しかし、規格があうかどうか、わかんないぜ。海の向こうからきたんだ」
「このアストライアは惑星アシアにおける全兵器規格を設定、そのオリジナルを作りました。対応できない弾薬はありません。なくても即座に対応できます」
「な、なんだと。わかった。補給が必要な機体から着艦させてもらう。指示はそちらがくれ」
さらりととんでもない事実が告げられた気がしたが、忘れることにした。
「了解です。オペレーターに指示させます」
エメは通信を切り、ほっとため息をついた。
一息をようやくつけた。
『キモン級、飛行してこちらに向かっています。甲板駐機を視野にいれると合計で六百機程度なら対応できるでしょう』
キモン級は船体が縦に長い。アストライアは長方形のコンテナ型という差がある。
「うん。コウたちと合流なら、もう何も怖くない」
アストライアとディケがともに並び、コウがいる。
そしてたくさんの援軍に来てくれた人々。
彼女はもう負ける気がしなかった。
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