可変翼要撃機
次々と絶え間なくアストライアから飛び立つ可変翼双発戦闘機エッジスイフト。
彼らは上空に舞い上がり、確実に遠距離から敵航空部隊の数を減らしていく。
「敵機。当艦隊を確認した模様です」
「わざと泳がせた一機がかかったのね。まずは順調」
エメが報告に頷いた。
「敵航空部隊の主力がこちらに向かうと予想します。各機、迎撃準備を引き続き行ってください」
エメはレーダーを表示する。
「敵航空部隊は全周囲から来ます。設定した防衛網を突破されたら補給にも戻れません。それまでは随時補給し、とにかく数を減らします。突破された場合の補給はP336要塞エリアへ移動してください。こちらに戻る必要はありません」
艦隊は輪形陣を取っている。
防空艦の対空射撃も、重要な戦力だ。
「バリー司令。敵航空部隊をこちらに引きつけます。隙は出来るはずです。そちらの制空権奪取をお願いします」
「ああ、わかっている! そちらの合図に従って、同時に行動する」
バリーもいつでも動けるようにしている。エメが作ってくれたチャンスを絶対に無駄にはできない。
「ありがとうございます。――第一部隊、第二部隊、第三部隊、対空ミサイル発射完了。着艦同時回収はどれだけいける? アストライア」
『甲板に十二機。二層通路甲板を開放。同時に四機回収します』
アストライアの船体上部装甲が変形し、通路を兼ねた甲板が左右にできる。
そこからワイヤーフック方式で戦闘機を回収するのだ。
これは上空から空爆を受けても飛び立てるようにした発進路でもあり、揚陸作戦時には装甲車や戦車、シルエットの通路にもなる
「わかった。二層通路甲板はすぐに閉鎖できるように」
『了解です』
次にエメは高高度を飛ぶ航空機と護衛編隊に通信する。
「早期警戒機イーグルアイ1、2、3番機へ。そのまま敵情報を召集。よろしくね」
「了解!」
それぞれ返答がある。彼らの召集情報が、一番の武器なのだ。
ネメシス戦域全て、情報偵察衛星の打ち上げは認められない。そう判断されたら、オケアノスに消される。
また要塞エリアや防衛ドームの性質上、数千キロに及ぶ広域戦場のデータなど不要だったともいえる。
「コウが言っていた。双発の可変翼戦闘機は一番格好よくて、最高の戦闘機だったって。私はコウを信じる」
「その評価ははどうかと思うが、この状況のために生まれたような迎撃特化の戦闘機だ。悪くない機体だと思うよ。私はね」
エメはコウが作った可変翼機を信じていた。それはきっと彼女の力になるのだ。
エメは三機の早期警戒機を上空二万五千メートルの成層圏に同時展開し、三角形を回転させるように警戒させているのだ。
この警戒機もコウがなんとなく設計し、試作さえしなかった機体だが、エメの生命線になるとは思ってもいなかっただろう。
「続けて対空戦闘用意。みんなお願い」
彼女の願いに応えるか如く、次々と絶え間なくアストライアから発艦する戦闘機。
空中で合流し、敵を迎え撃つために指示された方角へ向かうのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「アストライア、エッジスイフトを量産していたのか。スターソルジャーを量産しているとばかり。アシアが担当していたんだな」
地下工廠でのラインは確かにスターソルジャーを製造していた。
別ラインでエッジスイフトと防空巡洋艦や駆逐艦を作っていたのだろう。地下工廠は大きいし、最近見回っていなかったのが迂闊だった。
「凄い機体作ったわね、コウ」
視界外で次々に敵機を撃破していくエッジスイフトに、ブルーは素直に感嘆する。
格闘戦が大好きなコウが設計したとは思えない。淡々とアウトレンジからの猛攻を体現するエッジ・スイフト。
「試作さえしなかったんだけどな。あのエッジスイフト」
「どうして?」
「空戦限定の
ブルーも感心しているが、コウ自身もその戦果に驚いている。
戦闘機エッジスイフトは長距離対空ミサイルファイアバードを駆使し敵の数を減らす。敵編隊は近付くことさえ許されず、数を減らしていく。
その恐るべき点は加速性能と旋回性能だ。
「あの機動をよくMCSがファミリアに許したものね」
「アマツバメをさ。空力学的なシミュレーションして
「だから限定なの?」
「そう。鳥型ファミリアしか乗れない戦闘機なんて需要もないだろうと思ったけど、ここまでとは」
コウが言いよどむ。限定した者しか乗れない機体はあまり好きではないのだ。
そこへニックが会話に入ってくる。
「武装はとても厳選しているね?」
「長距離センサーと観測との連携、視程外戦闘がエッジスイフトの最大の武器なんだ。長距離ミサイル六発、短距離ミサイル四発、そして反動を限界まで抑えたレールガン。機関砲じゃ、電磁装甲は抜けないからな」
「確かに一撃離脱の要撃機の設計思想だ。このような遠距離戦に長けた戦闘機に作るとは、見直したぞコウ」
リックも変な風に褒めてくる。
「人を近接馬鹿みたいに思わないで欲しいな!」
「それは無理ね」
ブルーも苦笑した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いくぞ。エメを守るんだ」
エッジスイフトに乗っている隊長の鷹型ファミリアが部下に声をかける。
「ふふふ。これは僕たち鳥型ファミリア、選ばれし戦士の特権!」
ペンギン型のファミリアが、満足げに笑った。
「お前、鳥類だったのか…… 思い出した。鳥類だった」
「ペンギンは海鳥ですけど?!」
鷹型の呟きにペンギンが激しく抗議する。
「飛べないのになぁ」
立派なとさかのニワトリ型ファミリアが呆れる。
「僕、ニワトリ型の君にだけは言われたくないんですけど!」
「ニ、ニワトリはちょっと退化してるだけでちゃんと、いやちょっと飛べるぞ!」
「MCSが鳥判定しているんだ。従おうぜ」
うずら型のファミリアが仲裁する。
「何そのグレーゾーンみたいな扱い!」
「お前ら。お遊びはそこまでだ。推力増強装置停止。行くぞ、対空戦闘用意!」
鷹型が号令を発する。
「了解!」
「データリンク開始、敵目標捕捉。対空ミサイル発射!」
観測機ホークアイからのデータリンクを行い、敵位置を把握、ミサイルを発射する。
遠隔攻撃だ。
敵もチャフなどで防御するが、わずかな時間差での対空ミサイル発射で、確実に敵を捕らえる。
今の攻撃で三機の敵機の撃墜した。
「鳥かどうかは、撃墜数で証明してみせろ。俺たちは選ばれたんじゃない。このエッジスイフトは、他のファミリアの希望を託されたんだ」
「はい!」
鷹型のファミリアの言うとおりだ。一人で飛ばせる兵器などない。
彼らの思いはエメを守り抜くことなのだから。
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