巨大戦闘用クロウと鉄道計画
ジャリンとマティーは数日後には転移社企業を創業する。
P336要塞エリアは大重工業地帯を抱える要塞エリアとしてスタートすることになった。
マティーはクアトロ・シルエット専門のギャロップ社と命名。
ジャリンはギリシャ神話から名前を取ってアイギス社を創設し、コウからの依頼でシルエットベース製作の兵器を製造する。
クルト・マシネンバウ社は元社員でB級構築技士のハーラルト・ミュラーが代表となった。クルト・マシネンバウ社の兵器を引き継ぎ、製造することになる。
コウは最初に完成したギャロップ社に訪問した。
スーツ姿に身を固めたマティーが出迎える。
「おいおい、どうした。美青年が出迎えとは」
「褒めても何も出ないよ、コウ。裏ボスを出迎えるには当然の礼儀さ」
「誰が裏ボスだ」
「もう、それは誰も否定できないと思う……」
ジャリンが小声で呟いた。
工場内ではクアトロ・シルエットが生産されている。
もともとクアトロ・シルエットは作業用だ。
「作業用クアトロ・ワーカーと戦闘用エポスの量産は順調。エポナはここだけでは無理だからジャリンかコウに依頼することになるかな」
「通常の工廠と生産効率が桁違いだ」
「クアトロに特化しているからね。とくに作業用シルエットがベースだから特殊な材質も必要ない。それでも一機100ミナするけど」
「通常のワーカーの三倍以上か」
「1000ミナで五機先行販売したら速攻で売り切れた」
「うわ。えげつない商売するな」
「それぐらい待望されていた技術だからね? アキ。コウにどれだけ凄いことか伝えた? それとも流された?」
「流されましたよ……」
マットがアキに話を振る。
アキとにゃん汰の表情を見ると、どれだけ興奮して伝えても伝わらなかったことが窺える。
「見てご覧。ギャロップ社の社員。セリアンスロープばかりだろ。求人したら殺到したんだ。P336要塞エリアの防衛隊なんて、入隊だけで順番待ちだ」
「それは聞いている。彼女の件が密かに広まったかな、ぐらいに思っていた」
確かに社内にいる男女とも、耳と尻尾が付いている者ばかり。
コウがぼかして言っているのはアシアのことだ。
「違うからね。あれは極秘だ。みんな、クアトロに乗りたい、せめて一目見たい。関わる仕事をしたい。そんな思いで集まったんだ」
「多分、エポナを飾ると崇める者も現れますよ」
「僕もそう思う。賭けてもいい」
アキがコウに伝えると、マティーが激しく同意した。
「僕にコネでごり押しして、どうしても寄越せと言う人まで出る始末だ」
「マットにそんなコネを持つヤツがいるほうが凄いな」
「うちの元ボスだよ…… 三機送っておいた」
「それは仕方ないね。私でも断れないや」
諦めた口調のマティーに、二人が同情する。
「需要があるのはいいけどね。兵装は汎用で作る必要がないし。近接武器だけかな」
「ランス系と大太刀系が人気あるらしいな」
「もう一つ、最近人気の武器が出た。コウの知り合いが教えてくれた武器だ」
マティーに案内された試験室では、エポスが鎮座している。
その腕に取り付けられた異形の爪。前腕部まで覆う装甲と、巨大な戦闘用クロウ。
「俺の知り合い?」
「創業時に武器リストと設計図をくれたよ。アルゲースって人。この施設でも作れるように考えた図面をくれたんだ」
「アルゲース……大変世話になっている、匠のなかの匠だ」
アルゲースがそんなことをしているとは知らなかった。
あとで礼を言わないといけない。
「やっぱりそれぐらいの人だったか。この戦闘用クロウはとくに猫型セリアンスロープに人気が高い」
「わかるにゃ。うちも欲しいけど、射撃が不得手になるからなあ」
「そこは選択になっちゃうよね」
「盾にもなるところが大きいにゃ」
「盾にもなるのか!」
「折れないし、クアトロはバランス能力高いからね。人型のシルエットは盾を付けるぐらいなら、装甲厚くするほうを選ぶからさ」
「森の中の哨戒任務でも人気を誇ってますよ、この戦闘用クロウ。獣のような襲撃ができると人気です」
シルエットにも盾装備はあるが、あまり好まれていない。
肩に装備するタイプが近接機に普及している程度だ。
「俺の知らないところで、着々と色々進んでいる。いいことだ」
知らないところで発展していると思うと嬉しくなる。
もともと、大局を見るなんてことは出来ないタイプだ。
「クアトロも色々意見を吸い上げて、そのうちコウに相談するよ。使い手が増えるほど打ち上げも多いはずだ」
「私も相談するから! ていうか相談する案件、本気で多いから!」
「待っている、二人とも」
A級構築技士たちが仲がいいのも、話すことがたくさんあったからなのだろう。
ブリコラージュするにも仲間がいる。それはとても嬉しいことだと思った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヴォイが忙しい。
ドリル編隊が、本格的な鉄道網を敷くべく、シルエットベースとP336要塞エリア間のトンネルを掘削しているのだ。
シルエットベースからは迂回経路となる。秘匿通路は保持したままであり、敵の侵入経路にもなりかねない。
複線環状線。円形路線ではないが、内回り、外回り線を作る予定だ。
目的は貨物線としての利用であり、物資を交互に行き交いできるようにする。
シルエットベースとは違いP336要塞エリアは秘匿していない公の要塞エリアである。
物資の搬入もスムーズだ。
だが、何分始動し始めたばかりの要塞エリアであり、何よりアシアの許可がないと作れない工作機械をシルエットベースから直接搬入できる点は大きい。
問題は地上部分の列車網に関してだ。
地形の迂回。山岳地帯のカーブ等、難所もいくつか存在する。
人材募集をメタルアイリスがかけたところ、求人が殺到した。
かつて世界各地にいた、歴戦の鉄道関係者や線路関係者、鉄道好きからである。
その熱意に軽くジェニーは引いていた。
フユキに任せようとしたが、さすがに彼も難事だった。
「求人何人きているの? 募集人数は八十人ぐらいだけど」
「二千人程度ですね」
そしてフユキに選ばれた、日本の鉄道関係者が答えた。テツヤ・タナカ。中年の人の良さそうな男性だった。
「絞れるの?」
「鉄道関係者なら全員確保したいぐらいです。それぐらい、経験と知識がある」
「未来の技術からみても?」
コウが質問する。
「インフラを背負うと言うことは国を背負うということ。そのなかでもまた鉄道に関わりたいと思う人間が集まっているのです。未来の技術とあわされば力になるはず」
「日本なんか分単位で管理しているもんな」
「未来の技術を応用したら、それが盤石になるってことでしょう。とくに線路敷設経験者などは確保したいですよね」
「半分ぐらい雇えない?」
「しかし、ここが完成したら、需要ないかもですよ」
そこはフユキが割って入る。いきなり千人は無謀だ。
「需要は作るもんだろ? この線路網のノウハウは商売にならないかな」
「なりますね。そうきたか……」
フユキは考え込んだ。
「また金のなる木を得たかもしれませんね。そのアイデアはどこから来ましたか? コウ君」
「ミルクランだよ」
ミルクラン。それは貨物集荷型式の一種。牛乳配達から来ている、引き取り物流とも言われている。
主に自動車業界などに採用されており、カンバン方式と並ぶ物流型式だ。
「シルエットベースで作っている工作機械を定時で回収、アリステイデスで運んでいるだろ。ミルクランの有効範囲は約5キロ。それ以上は効率が悪い、って偉い人がいってた」
「加工業の物流知識ですね」
「集荷した荷物は一気に貨物列車で運ぶ、と。目的地は一カ所だしね。それを応用してみた」
「ならば鉄道輸送のノウハウも確立してしまいましょうか。要塞エリア間の鉄道輸送は需要あると思いますよ」
テツヤは請け負った。惑星アシアに鉄道網を普及できる可能性。なんとしても実現させたい。
「輸送機と船が物流手段だもんな。以前は要塞エリアや防衛ドームで完結できてたんだろうけど」
そこがこのネメシス星系の問題点でもある。
一つのエリアやドームで完結しているので、他の居住区は遠い国の出来事、関連付けて考えることが難しくなっているのだ。
協調できず、ストーンズの脅威が実際に迫るまで、どうしても他人事になってしまう。
「シルエットが基本となるので、車両限界に余裕があるのがいいですね」
仕様書を確認しながらテツヤは実現性を確認していく。シルエット基本で考える分、地球より車両には余裕を持たせることが出来るのは嬉しい。
「地球だと幅三メートルちょいってところですか。コウ君、これは?」
「戦車を鉄道輸送できないかと考えてね。昔は戦車を貨物鉄道で運んでいたこともあると聞いたことを思い出したんだ」
「ありましたよ。戦車自体が大きくなって大抵はトレーラーか船輸送が中心になって使われなくなりましたけどね」
「シルエットで考えるとどのみち幅四メートル以上必要だし。高さも十五メートルはいるかなと」
「これを今後の規格として推進しましょうか。テツヤさん」
「いいですね。普及させる場合も説明もしやすいと思います」
こうしたことが発端で開発開始された鉄道網だが、人や物が増えていく要塞エリアで多大な貢献を果たすことになる。
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