ラジオ・ハプニング
P336要塞エリアを奪還して一ヶ月経過した。
復興は順調に進み、現在ファミリア、セリアンスロープ、ネレイスを中心に順調に復興しつつある。
ストーンズ勢力の警戒度が上がったことで、現在戦況は小康状態だ。
メタルアイリスは順調だが、人類全体でいえばまとまりがない状況が続いている。
ストーンズ側に付いた要塞エリアや防衛ドームも増え始めた。
P336要塞エリアは現在、アリステイデス艦内からブルーによるラジオ放送も行われている。
「こんばんわ。ダスクバスターの時間です。パーソナリティのブルーです。本日もよろしくお願いします。さっそくですが、ナンバーをご紹介します。21世紀の曲で……」
よどみなく、曲名を告げ、音楽を流すブルー。
実はこの曲はブルーのお気に入りなのだ。
表紙に騙されたナナシさんが一押しする、サビが特徴的なアニソンだ。
「~~♪」
小声で歌いながら、寄せられたリクエストのなかから選曲しようとしていた時だった。
コツコツと、アリステイデス艦内放送局の窓ガラスが叩かれる。
セリアンスロープのロゼールだった。
窓ガラスに紙を貼り付け、しきりに振っている。
「ロゼール? マイク、入ってる? え? 嘘? きゃあ! ごめんなさい!」
慌てて謝罪しながらマイクを切るブルー。
こういうハプニングはリスナーの大好物なのだ。
放送した日は伝説回として、あっという間にWEB媒体に拡散。
透明な歌声、あまりに可憐な反応に、フェアリー・ブルーという異名まで付いてしまった。
しばらくリクエストに、ブルー自身の生歌を希望されて半泣きになるのであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「フェアリー・ブルーと買い物だなんて光栄に思うにゃ」
「ああ。フェアリー・ブルーと一緒だなんて、凄いことだと思う」
にゃん汰が重々しく告げ、コウが緊張して呟く。
「マネージャーとして厳重に見張る必要がありますからね。アイドルにスキャンダルは禁物です」
「うん」
アキとエメもその場にいる。
「誰がフェアリー・ブルーで、誰がマネージャーでアイドルですか。もし次言ったら五番機の背中撃ちますよ。表紙に騙されたナナシさん」
「本気で怒るな…… わかったってば」
フェアリー・ブルーと言われることを本気で嫌がっているようだ。
さすがにコウも自重した。
一段落ついた頃、コウがエメたちを連れて市街地散策に行こうとしたらブルーも付いてきたのだ。
エメが誘ったらしい。
ちょっと昏い目をしたアキとにゃん汰をコウが見なかったのは幸いだ。
ヴォイは早々に逃げた。
「荷物持ちがんばれよ!」
と一言言い残して。
「宅配があるにゃ、バーカ!」
ムキになったにゃん汰をなだめることからスタートという波乱の幕開け。
「えへへ。たのしーねー」
エメは珍しく上機嫌。これだけでも来た甲斐はあった。
洋服を見たり、地球時代の品を見たり、アシア特産品を見たりしている。
じっくりとこういう場を持たなかったが、改めて皆、普通に生活し、生きていることを実感した。
渋滞に巻き込まれた自動車もなく、満員電車もない。
だが、様々な動物やファミリアが行き交い、喧噪のなかにいると不思議と心が和らいだ。
「コウ。次はあそこへいきたいです!」
「いこうか」
にゃん汰やアキが行きたい場所を巡るだけで楽しいものだ。
「ずいぶんと人が多いな」
「メタルアイリスの、人間の傭兵初募集ですからね。世界中から殺到ですよ」
「そんなに?」
「新興勢力ではもっとも力を持つアンダーグラウンドフォース。かつ戦力も底知れず連戦連勝。当然です」
「それだけ危険も多いということなんだけどな」
コウはぽつりと呟く。
今まで確かに勝ち戦が続いた。だが被害がないわけではない。ファミリアも、セリアンスロープも、人間にも死者はいる。
「セリアンスロープとファミリアとネレイスしか募集してなかったからにゃ」
「商業施設、ショッピングモールとか実にスムーズでしたね」
「好きなんだよね、そういうの。紅信の人に相談したら二つ返事でかかってくれた」
「ここは紅信の人間社員も常駐できますからね。コウのいうことは絶対ですよ」
アキとにゃん汰の二人が現状を説明してくれる。
ファミリアはそもそもお金を儲ける必要がないので、良心的な値段で商売をしてくれるのだ。そういう面でもコウは、ファミリアたちだけでいいんじゃないかと思ってしまう。
「でも人が増えると、荒っぽいのや変なのが増えるな」
警察機構はあるし、ファミリアたちが実質そういう役割だ。空を飛んでいる雀の群れだってファミリアだ。
何が起きるとしたら、弾丸のように犯人を襲い、犯罪を未然に阻止する。そして犬のお巡りさんに連行されていくのだ。
コウが気にしているのはファミリアやセリアンスロープたちの善意を利用して良からぬ事を考える連中だ。
善意につけ込む連中はどこにでもいる。
「メタルアイリスに変なのが入らないようにする、裏ボス様の意向は重々承知で面接をしていますから安心してください」
ブルーが裏ボスを強調していう。フェアリーの仕返しなのだろう。
「俺はフェ……いて。ごめんなさい」
フェアリーと呟こうとして、にっこり笑ったブルーに頬をつねられる。端からみたら仲の良い恋人同士にしか見えず、ケモ耳娘二人の嫉妬の視線が鋭く刺さる。
「よろしい。ご飯驕ってくれる約束もありましたね」
「覚えているよ」
「え、いつの間に!」
アキが軽くショックを受けている。おおげさだな、と思うコウには女心はわからない。
「みんなで食べよう」
彼らは食べたいものを次々あげ、最寄りのレストランへ移動したのだった。
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