ストーンズの真実
「カレイドリトスでは小さなAカーバンクル一つに匹敵するほど、高価な品です。防衛ドームは無理ですが軍艦用に使えます。これ自体の効用は一切不明。アンティークの性能を上昇させるとの噂もあります」
「ええ。苦い思い出があるけど、メタルアイリスの創設資金にはなったのよね」
フユキが闇市場の価値を言い、ジェニーは肯定する。
コウは頷いて、説明を続けた。
「このカレイドリトスは、様々階調の光を、定期的に発し、まったく同じ間隔で発光することができる」
「それは知ってるわ。それに秘密が」
コウはジェニーの疑問に頷く。
「これは。――これがストーンズの本体そのもの。肉体だ」
その場にいる全員の顔が驚愕の表情を浮かべた。
「惑星間戦争時代は、比較的知られた話だったらしいが、今は完全に失われている知識だそうだ。中に入っているのはストーンズの魂ともいうべきデータ。アシアは魂とはいいたくないと言っていたが」
「そ…… そんな……」
ジェニーが顔を伏せ、震え出す。
「これがあればストーンズは何度でも蘇る。捕らえた人の肉体を支配して。ってジェニー! 大丈夫か!」
ジェニーが悲壮な顔で崩れ落ちた。
慌ててブルーが支えるが、当のジェニーは上体を起こすのがやっと。両手で床に手をついてなんとか倒れ込まずに済んでいる。
「ジェニー! 俺、何かまずいことをいったか?」
バリーが苦々しげに首を振る。
「コウ。お前は悪くない。ジェニー。俺が説明していいか?」
ジェニーは力なく頷く。
バリーは一呼吸し、自分のなかで物事を整理する。謝った情報をコウに告げないためだ。
ブルーのほうをみる。彼女も頷いた。ブルーも知っている話ということだろう。
「ジェニーが傭兵になる前の話だ。俺とロバートは傭兵チームに所属していてな。様々なアンダーグラウンドフォースと合同での作戦。俺たちの小隊は攻めてきたアンティーク・シルエットを倒し、カレイドリトスを手に入れたんだよ。壮絶な戦闘だった」
コウは無言で頷く。先の話をするよう促した。
「生き残ったのは俺たち二人だけだ。そのときな…… 一緒にいたジェニーの恋人のランディーが相打ちとなった。俺はランディーの意思を尊重したかった。ジェニーに平和に暮らして欲しいと思って金になるカレイドリトスを渡した。しかし、ジェニーはそれを売り払って、メタルアイリスを創設した。自らシルエットにも乗ってな」
ロバートも目を伏せ、静かに当時を思い出す。彼にとっても辛い思い出なのだろう。
コウは言葉を無くす。
それが事実ならば、彼女は自らの仇を、逃してしまったのだ。
メタルアイリスを作り、復讐をしたいほど、憎い相手を、だ。
空虚な瞳で床を見つめるジェニー。ブルーは心配そうに、彼女の手を握りしめる。
「すまない、ジェニー」
「あなたがあやまらないで。もう二度とあやまらないで」
「わかった」
彼女はうつろな声で呟いた。
しばらく静寂が場を支配する。誰も話し出そうとはしなかった。
「コウ…… 一つだけ教えて。これをどうするつもり? これは頑丈よ。壊れないわ」
絞り出すような声で、コウに問うジェニー。
「それでも破壊する」
「どうやって?」
コウは頭上を指差した。
「赤色矮星ネメシス――神罰の女神の元へ送る」
テーブルの上の二つの石が赤い色に光った。聞こえているのだろう。
事情を知ったその場の者全員悟った。
これは、ストーンズの悲鳴だと。
ジェニーは立ち上がる前に、ずっと支えていたブルーを抱きしめて頬に感謝のキスをする。そして立ち上がった。
コウは破壊するといった。確かに赤色矮星に送り込めば、実質破壊に等しいだろう。これほど確実な手段はない。
「さすが私達のボスね。死ぬまでついていくわ」
ジェニーは力無く笑う。だが、声には揺るぎない意思が宿っていた。
「ジェニー……」
「そんな顔しないで。あなたと知り合えて良かった。でないと、私たち、また同じ過ちを繰り返していた。仇を、金の為にご丁寧に返していたに違いない。だけど真実を知った私達はもう間違えない。ね、みんな。そうでしょ?」
その場にいる者、全員が頷く。
「しかし、価値があるものを召し上げるわけにはいかない。俺がちゃんと買……」
「黙りなさい! なんであなたが買うことになるのよ! ふざけないで。そんな舐めたこというやつは私が許さない!」
鬼気迫るジェニーの絶叫。
言い過ぎたと反省したジェニーが、少し落ち込んだ。
「ごめんなさい。殺気だっているわね、私。でもね、コウ君。これだけの装備を調えてもらているんだもの。一人で手に入るようなものじゃない。誰も文句は言わせない」
彼女はモニターに向かって話しかけた。
「わかっている。そんなことで謝らないでくれ、ジェニー」
「ありがとう、コウ。――ディケ。メタルアイリスが手に入れた全てのカレイドリトスはコウの手に。違反者は追放、悪質な場合は死罪を含めた厳罰。規約、追記お願いできる?」
『記載しました。ご安心をジェニー隊長』
「おっけ。話が早くて助かるわ、ディケ。――コウ君、やりすぎだと思ってる? 今は大丈夫。でも組織が大きくなったらそうはいかない。ストーンズのスパイだっているかもしれない。その対策」
「理に叶っている。文句ない」
金のためにカレイドリトスを手にいれるため、潜入する者だっているかもしれないのだ。
そして彼らが集めていると知って接触する者も増えるだろう。それが、敵だ。
「本当にあなたに出会えてよかった、コウ。真の敵、まだ誰も知らない真実を知って戦うことができるのだから。私は幸せ者よ」
「フラグに聞こえるから勘弁だ」
「死ぬつもりはないわ。一つでも多く、カレイドリトスを女神ネメシスの元へ送るって使命ができたんだから、せいぜい灼熱のなかで裁いてもらう」
「そうしてくれ。千でも万でも送り込むんだ。女神の判断に任せよう」
コウに近付いたジェニーは、おもむろにコウの頬にキスをした。
突然のことに顔が真っ赤になるコウ。目を見開くアキとにゃん汰。ブルーとエメは穏やかに見守っている。
「さっきは取り乱してごめんなさい。そしてありがとう…… 真実、多分知りたかった真相…… 本当にあなたのおかげ」
声が涙ぐんでいる。ジェニーはコウの胸に顔を埋めている。コウはそっと肩を抱きしめる。
そして彼女は顔を上げる。涙目ではあったが、いつもの勝ち気で朗らかな笑顔がそこにあった。
「ありがとう、ボス。胸を貸してもらって。これからもよろしく!」
「ああ。ジェニー。こちらこそだ」
ジェニーの決意に応えるべく、コウもまた気を引き締めたのだった。
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