量産機群による連携の勝利

 主力戦車ファイティングブルを中心に、エニュオへ砲撃を開始した。

 アリステイデスより飛び立った対地攻撃に切り替えた戦闘攻撃機も、エニュオに向かいワイヤー誘導のミサイルを発射する。


 エニュオを守るべく、アントワーカー型やアントソルジャー型、アントコマンダー型が集結するが、背後にいる装甲車がそれらをなぎ払う。

 

 颯爽と走り回る半装軌装甲車群。新型の2重駐退機(デュアルリコイル)の120ミリ低反動砲を搭載している。

 反動を二段階で緩衝し後方に受け流して、足回りに負荷がかからないようにする機構となっている。そのため連射兵器には不向きだ。

 だが砲身も短く済み、軽装甲車でも大口径の火器を搭載できるようになる。軽装甲車には最適な装備だ。


 背後には大型対地誘導ミサイルや多目的ロケット弾システムを搭載した装甲車が控えている。

 ケーレスをなぎ払う、強力な火力だ。


「闘牛、か。これはまさに戦うために生まれたマシンだ。コウに礼を言おう」


 リックがMCS内で呟く。


 ファイティングブル。150ミリレールガンと、貯蔵型金属水素を使った電磁装甲を装備している。防御力は今までの比ではない。

 徹甲弾などの浸透体やレーザーが表面装甲を貫通しても、内部のプラズマで溶解、拡散させてしまうのだ。

 副兵装としては35ミリ多砲身機関砲と、対地ミサイルを装備。


 シルエット連携運用前提の機兵戦車とは違い、戦闘に特化した専用設計。

 部隊運用した場合の戦闘能力は高い。


「総員、目標はエニュオ。集中して倒すぞ!」


 前線観測員を兼ねたスカウト機がエニュオにマーカーを設置する。


 その間にも戦車部隊はエニュオを取り囲んで砲撃を続けた。

 大口径レールガンの射撃は、エニュオの装甲も貫通していく。


現在、この戦場にいるのは優れたカスタム機に乗ったエースパイロットでも、ワンオフ機に乗った選ばれし者でもない。

 ただの当たり前の惑星アシアの住人たちが、それぞれやるべきことを行い、脅威と戦っているのだ。


 砲撃は続く。

 エニュオはまさに虫の如く。痛覚などない。エニュオもレーザーやレールガンで反撃を行い、味方の装甲車を破壊する。

 

「支援部隊、もっと下がれ!」


 火力が高いため、半装軌装甲車も突っ込みがちになっていたようだ。慌てて下げる。

 攻撃機の対地ミサイルが何度も放たれる。

 

 レールガンと対地ミサイル、そして支援砲撃の集中砲火を受け、エニュオは遂に大きく姿勢を崩した。

 そこへランスを構えた騎兵部隊、クアトロ・シルエットが物陰から特攻し、エニュオのパワーユニットを破壊すべく突撃する。


 遂にエニュオは破壊される。

 クアトロ・シルエットの一人が持つランスがエニュオのパワーユニットを破壊したのだ。


「エニュオ破壊成功! 残存勢力を蹴散らしながら、市街地、コントロールタワー制圧へ目的変更!」


 リックの号令が轟く。


 戦車と装甲車、航空戦力とシルエットたちによる連携の勝利だった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 掃討戦に移行する。

 一番熱心に戦っていたのは、応募されメタルアイリスに参加したセリアンスロープたちが搭乗するクアトロ・シルエットだった。


「マーダー、許すまじ。同族の仇!」


 セリアンスロープもファミリアと同じくマーダーたちの抹殺対称。シルエットも乗れず、多くの者が安価な装甲車で戦いを挑み、散っていった。

 それが今やシルエットが与えられている。ここぞとばかり報復心が出るのは仕方ないことだった。


 メタルアイリスの被害も大きい。マールとフラックは次々に運ばれる装甲車やクアトロ・シルエットを修理していく。


「マールちゃん! フラック君! ここは私達に任せて。外で待機している故障機、私達だと厳しいの」


 作業用シルエットに乗った中年の婦人が二人に声をかける。


 船外の外で、脚を破損したクアトロシルエットが待機している。

 通常のシルエットと違うことから、新米の整備士には無理だった。


「クアトロですね! ではここはお願いします!」

「任せなぁ! 戦車と装甲車はどんどん修理するぜ!」


 隣にいたシルエットも気合いを入れる。


 二人を支えるのは、同じく怒りに燃える元クルト・マシネンバウの社員たちだ。作業用シルエットの扱いならお手の物。

 戦場にでる不安はあったが、子供たちが修理を一手に引き受けていると聞いて、俄然とやる気を出した。

 自分たちが戦闘の力になれることを喜んだ。


 二人は交換用の脚を持って船外に出た。

 即座にクアトロの脚を解除し、交換しようとする。


 そのとき、この瞬間を狙っていたであろうテルキネスが二機、飛び出してきた。


「迎撃します! いくよ! フラック!」

「わかった、まーちゃん!」


 幼い姉妹はかつてとは違う。

 今はコウが作ってくれた高級作業機ウッドペッカー。戦闘能力は、一昔前のベアを遙かに超える。


 マールはバックパックから、武器を取り出し、右腕に装着し展開する――ドリルだった。

 左手には多目的射出機をを装着している。


「ヴォイさんから教わった奥義! 今ここに必殺の! 三段技をくらえ!」


 コウには絶対内緒という条件でマールは教えてもらったのだ。コウの地球にいたころの仕事にちなんだ必殺技らしい。

 ヴォイがとんでもないことを教えていたようだ。


「レース加工流奥義! 初撃、プライマリードリブンギアー!」


 まず左手の射出機でワイヤーショットを放ち、テルキネスの動きを止める。

 繊細な作業が要求される、作業機ならではの攻撃だ。


「ボディが甘い! 右にドリル、左にエンドミル! 二段目、セカンダリードリブンギアー!」


 射出機を切り替え、エンドミルに切り替える。

 表面をそのまま削っていく。


「これでとどめ!! ファイナル! ドリブンギアー!!」


 最後に巨大なドリルを腹部に叩き付ける。身動きが取れないテルキネスは大きく体をびくんと震わせる。

 ドリルはテルキネスのパワーパックを貫き、完全に破壊した。


「やりました、ヴォイ師匠! どうよ、フラック!」


 後ろに振り返ると、今まさに弟がテルキネスと戦おうとしていた。


 ぱん!


 合板を貫く鈍い音。巨大なパイルがテルキネスの胸部を貫いている。

 弟のフラックが選んだ武器は巨大なパイルバンカーだ。


「パイルバンカーで殴ったほうが速くて強いよ、まーちゃん」


 淡々と事実だけを告げる弟だった。


「そういうこと言わない」


 華麗な勝利にもかかわらず、何故かがっくりと落ち込むマールであった。


 だが、マールはコウには内緒という話だったが、エメに自慢してしまった。エメがそれを知り、コウに教えて欲しいとねだったのだ。

 この件を知ったコウは怒った。それはもう。

 ヴォイは一時間正座させられ、一週間はちみつ抜きの刑となった。


 後日、丁寧に三人に地球時代の加工技術の概要を教えるコウの姿があった。

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