破滅の鐘
ディケからの緊急警報が鳴り響く。
総員は緊急戦闘配置に就く。初めての事態だ。
戦闘指揮所にメンバーが集まる。
「ディケ。現状は?」
「A051要塞エリアが侵攻されています。映像が届いています」
画面が映し出される。
それは悪夢のような光景。
要塞エリアのなかに、二体のエニュオ。そして見たことがない、巨大な蜘蛛型のマーダー。
その内部から、無数の小型蜘蛛型のケーレスが現れ、都市へ進軍する。
大量のケーレスとテルキネス。
そして、進軍する傭兵。シルエット部隊。シルエットの機種はまばらだが、その数は優に二百を超えるだろう。
ファミリアやセリアンスロープたちが乗っている装甲車や戦車は破壊し尽くされていた。
人間たちはシルエットに乗ったまま投降している。
蜘蛛型のケーレスは特殊なワイヤーで、シルエットごと捕縛していた。
蜘蛛型のエニュオが鳴いた。そう錯覚するほどの、威圧。
放たれる無数の砲撃。着弾地点は爆散した。レールガンの直撃を耐えうる建物が、だ。
破滅の鐘が鳴り響く――その号砲は絶望をもたらす。
「こんな数の敵シルエット部隊なんて初めてみた……」
呆然とブルーが呟く。
「要塞エリアに侵入されてから一時間。散発的な戦闘は数時間前からあったそうだけど、一気に押し寄せてきたみたい」
A051要塞エリアから送られてくるニュースを確認するジェニー。
「A051要塞エリアは惑星アシア最大の拠点よ。現在も戦闘中だけど、陥落は時間の問題」
「ジャック・クリフさん率いる転移者企業のジョン・アームズもあります」
「降伏勧告も出ているようね。制圧目的、か」
ジェニーとブルーが状況を確認する。
「惑星アシアで最も栄えている要塞エリアの一つ。それを攻め落とせるほどの戦力だなんて」
「テルキネスと傭兵の混成部隊の運用は珍しい……」
過去の戦闘データを確認しながらブルーが呟く。
よほど不自然な状態だったようだ。
「蜘蛛型の巨大兵器は初めて見るな」
「あれはピロテース。ギリシャ神話の愛欲の女神の名前ね。あれが出てきたというと、人類を殺戮するために出撃したのではなく、制圧するために派遣されたということ」
『これだけの戦力を一度に動かすと、ストーンズ側も負担は相当なものです。いくつかの拠点は捨てる覚悟で攻めたのでしょう』
A051要塞エリア内の各地の映像が表示されている。
シェルターは破壊され、そこから次々となだれ込む敵部隊。
ピロテースの遠距離砲撃で爆散する市街地。
逃げ惑う人々。必死に誘導するファミリアたち。
装甲車に乗って敵地に向かうファミリアたちが悲壮感に満ちている。
対応する戦車の防衛部隊や傭兵。防衛部隊もかなりの数だが、圧倒的なケーレスの群れに、徐々に数を減らしつつある。
近隣の要塞エリアからも援軍は派遣されるはずだが、自分たちの拠点も防衛しなければならないのだ。増援は見込めないであろう。
『マーダーの拠点基地艦を確認。前線で故障したマーダー各種を修理する、無人兵器を搭載しています』
「最悪ね。いつもは増援なんてないのに、今回は補給ラインの完備。これはかなり本気」
投影モニターに緊急アラートが鳴り響く。別の襲撃警報だ。
「次はなんだ!」
『別要塞エリア、襲撃されています。D516要塞エリア――クルト・マシネンバウ社が所属している場所です』
「なに!」
『映像繋ぎます』
「何よ…… あのケーレス……」
ジェニーが呆然と呟いた。
映し出された映像は、恐るべきものだった。彼女さえ見たことがない敵。
新型ケーレスが大量にいた。生理的嫌悪を感じるほどの、無機質な鋼色の甲虫型。
クワガタみたいなもの、カブト虫みたいな砲を持ったものがいる。
装甲車や戦車と戦っているが、たまに空を飛ぶ。飛行能力を持つ戦車のような敵だった。
その後ろにはエニュオ型が一体。ピロテース型が一体。
そして人間であろう傭兵部隊とおぼしきシルエットと戦車の群れ。四脚のような超重戦車までいた。
『コウ。アシアを通じた連絡が入りました。クルトより緊急回線です。繋ぎます』
「頼む!」
コウが叫ぶ。
「コウ君。MCSの中から失礼するよ」
パイロットスーツを着込んだクルトがそこにいた。
「クルトさん!」
「敵の総攻撃を受けるのは二回目です。幸い君のおかげでフッケバインも完成した。これで思い残すことはありません。データも君へ転送しておきました。参考にしてください」
「何を言っているんです! 今から助けに行きます!」
「ダメよ。コウ。それは隊長として認めるわけにはいかない」
ジェニーが苦悶の表情を浮かべ、割って入る。
「ジェニー?」
「ここにはアシアがいる…… こんな状態で私達がこの場を離れる訳にはいかないの」
「ジェニー女史の言うとおりです。君はここへ来てはいけない」
「そんな! クルトさんが!」
「奴らの狙いは人類の拠点を奪取することにあります。降伏勧告がこちらにもきているのです」
「それなら!」
「君は力を蓄えなさい。この侵攻が終われば戦線は伸びきった状態となる。再び膠着状態に陥るはずですから」
「しかし! クルトさんが!」
「撤退戦は慣れていますよ。何度敗残兵となったか、わからないぐらいです。君と違って私は三十年アシアにいるですよ?」
「でも……」
「その気持ちが嬉しいです。ですが、どのみち物理的にも間に合いません。状況判断は大切です」
こんな時にも、コウを導こうとするクルト。
確かに今からディケで向かおうにもにも、数時間かかる。海中から進軍しても丸二日かかる場所だった。
空を飛んで向かうという手もあるが、それではストーンズにシルエットベースの場所を知らせるようなもの。
「アシア。私の戦闘データを最後までコウ君に届けてくれ」
『わかったわ、クルト。死なないでね』
クルトの声に反応してアシアが現れる。悲しげに瞳を伏せた。
「善処はします。ではコウ君。期待していますよ」
そういってコウの返事も待たず、通信が途切れる。
「コウ……」
ブルーも彼に掛ける言葉が無かった。
「ディケ。クルトさんのデータを五番機へリンク頼む。そして戦況を分析。新型ケーレスの特性を把握してくれ」
『了解いたしました』
「ジェニー。総員配置はそのまま。シルエットベースの防衛に全力。それでいいかな」
「ボス。それでいいわよ」
「うむ。コウ。それでよいのだ」
ジェニーとリックが頷く。このシルエットベースを守るために、最善を尽くさなければいけない。
『A051要塞エリアとジャック・クリフ。ストーンズに投降。制圧されました』
別の画面では、戦闘が終了したA051要塞エリアの様子が映っている。
わずか半日程度で落ちたのだ。
皆無言だった。A051とD516の映し出されている光景をじっと見つめている。
『各要塞エリアの援軍、引き返します。こうなると、手だしできません』
コウは下唇をじっと噛みしめ、何かに耐えるように燃えるD516の市街地を映すモニターを見つめていた。
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