機甲合体
ウンランは思わず口笛を吹いた。
オケアノスからの有償技術提供一覧はまさに垂涎の技術の結晶。
構築技士なら大枚をはたいてでも、全て手に入れたいところだろう。A級構築技士が所有している企業ならば問題はない。
だが、実際にその技術全てを製造できるとなれば話は別。
権限が拡張されるのは間違いない。オケアノスを通じて工場のバージョンアップが出来る。これも大きい。だが、その費用が莫大なのだ。
まずは技術を購入し、何を設計するか。集中と選択が迫られる。高価なものを作っても購入できる者がいなければ意味がない。
目的に応じて工場をカスタマイズせねばならないのだ。工場のブリコラージュといってもいい。
これほどセンスを問われることはない。
「凄いな。そしてまずい。僕たち次第では一気に企業間の差が出そうだ」
提供される技術には、レールガンに耐えうる仕様の航空機技術まで存在している。
これが実に厄介だ。航空機のノウハウを持っている企業は少ない。自分は陸上兵器で行くべきだろうと判断した。
「ん? コウ君からメールだ。このタイミングで?」
オケアノス経由で送られたコウのメールを見て息を飲んだ。
それは、図面とそれに必要な技術権利の提供。
オケアノスから届いた技術リストの同様のものだった。
「機兵戦車だと?――ドラグーン・タンク、本来は重騎兵。騎兵戦車からの機兵戦車、だな。シルエットは機乗兵といったところか。コウ君。漢字文化じゃないと、伝わらないぞ。はは、面白い」
ひとしきり笑ったあと、食い入るように見る。
「無砲塔戦車に、銃架。シールドも完備。装甲材が今回新提供のCNB強化合金複合材料を中心とした汎用型のプラズマ装甲。これで軽量化か」
今後、各地の製鋼所で作成可能な合金も増えていく。コウが作成権限を広げたのだ。
送付された図面はカーボンナノチューブと金属フラーレンを結合させたカーノンナノバッドを添加した複合材料を使用する。チタンからアルミニウムまで軽金属が主体だ。高次元投射装甲に加え、もととなる材質の強度も上がる。
カーボンナノチューブは小さすぎて複合材料に使うと漏れ落ちやすい。そこでフラーレンを結合させ、楔にして落ちないようにして、複合材料の機械的性質を向上させているのだ。
プラズマ装甲も新型素材だ。通電式電磁装甲の一種である。複合装甲の間にはさんである媒体が高温となり、敵の攻撃を防ぐ。プラズマ装甲はこの媒体をプラズマ化させジュール熱を発生させる。
レールガンやAPFSDS、自己鍛造弾からレーザー兵器、機関砲にも有効だ。放たれる浸透体が金属に触れると流体となる。その流体をジュール熱で気化させ、電磁波によって横方向に流し威力を削ぐというものだ。
「採用できる面は限られるシルエットに比べ、戦車はプラズマ装甲を採用できる面積も大きい。これは確かに欠点改良できるな。とこれは……」
また思わず笑ってしまった。
構想案でウンランに相談という形のシルエットの機甲合体システムという追加装甲案だった。
「機甲合体ってなんだ! 騎兵戦車用追加装甲――脚を戦車に深く差し込んで座位状態。そして銃架と一体になる追加装甲と追加ロケットランチャー二問で戦車と一体化。ギミックは不要、追加装甲と戦車の装甲を最初から一体化したデザイン。そして降りたら重騎兵の登場、か。普通にありだぞ」
戦車と合体するなど本来は意味がない。しかし、タンクに跨乗する前提のシルエットに、移動中の防御力を上げるのは当然のこと。
タンクデザントの歩兵の死亡率は極めて高いのだ。背の高いシルエットならなおのこと。敵ならばファミリアが乗っている車両は後回しにして、シルエットを狙ってくるだろう。
「もう一つのファイルは運搬用のチルトローター機。機兵戦車一対を運搬できるのは大きい。問題があればご教示お願いします、か。いやはや、コンセプトは面白い。しかも完成したら即発注ときたか。若干だが改良の余地がある。ミサイルはオプション装備でいい。――これは忙しくなるぞ!」
コウからの図面で、ウンランは目の前にコウがいるような錯覚を覚えるほどの、明白なコンセプト。
いつの間にかウンラン自身が夢中になっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おーい! みんな集まれー」
スカンク・テクノロジーズのラボで、仕事をしていた各種の構築技士たちやファミリアがケリーのもとへ集まった。
「コウの野郎から、凄いリストが届いたぞ! これが新しい技術だってよ!」
空中にスクリーンを投影させ、リストを見せる。
「ボス、これって」
「ちょっと待てよ! こんな技術一気に解放されたら、現行のシルエット全部型落ちになっちまう!」
あちこちで歓喜とも悲鳴とも取れる叫びが上がる。
「しかも俺様にだな。直々に依頼がきたんだぜ。ジェニー用のフェザント後継機開発ってやつをな!」
別のモニターを表示させる。
「要求性能は、美しく、より高く、より速く――挑戦状だな。こしゃくな奴め」
「ボス。嬉しくてたまらないくせに」
マットも思わず笑った。ケリーは子供のように目を輝かせている。
「ここまでお膳立てされてはな。新型デトネーションエンジンに、新装甲材。そして極めつけはこの金属水素だ。こいつがとくにやばい」
「ボスがやばいっていうと本当にやばいですからやめてください」
ジャリンが怯えながら言った。
「まあ聞けよ。こいつがあるとだな。ほぼ補給いらず。推進剤を無限に得ることができる。もちろん使い切ったら生成時間は必要だがな!」
「どういうことですか!」
「昔、映画であっただろ? 車をタイムマシンに改造するやつ! ジュースの飲み残しを車の吸入口に注いだら、車が空を飛んでタイムマシンになるってな! あれみたいなもんさ」
「そんな映画知らないですね……」
「くそ。若い奴は知らないか。水素を超圧力をかけて金属水素って奴になるんだが、こいつのエネルギー効率が桁違いなんだ。TNT火薬の五十倍以上だな。ごく僅かだが空気中にも水素はある。常時かき集めて超効率の燃料を生成できるパワーパックをシルエットに内蔵できるのさ」
「MCSは水生成機能ありましたね」
スタッフの一人が納得する。脱出カプセルでもあるMCSは、水や空気生成機能は標準装備だ。
「惑星間戦争時代の技術とスカンクも言っていた。シルエットのパワーパックは金属水素炉を使う前提で設計されていたんだろうな」
「ということはスカンクのようなシルエットを再現可能に?」
「そういうこった! オケアノスから提供される、A級構築技士しか買えないリスト。こいつを全部買うと明日からピザだけの生活になりそうだ。だが、全部買うぞ!」
全員絶句した。リストに掲載されているリストの金額はどれも莫大な金額だ。
「俺が一番恵まれているんだぜ? 金属水素炉を含め後継機開発技術はコウから提供されるんだからな。さすがファミリーだ」
何故かファミリー扱いされているコウだった。
「一番高価な技術ですよね、これ」
「とびっきりのプレゼントだ。忙しくなるぞ!」
そういって集まったメンバーをそのままにケリーは自分専用のラボへ駆け込んだ。
皆苦笑しながらも、技術リストを眺めながら活発な議論に身を投じたのであった。
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