いつか高性能機が設計可能になる未来
コウがスカンク・テクノロジーにきて三日経過した。
現在中庭の芝生でランチ中。サンドイッチを皆で食べていた。
コウとアキの他にジャリンともう一人、甘ロリの白人男性がいる。名はマティー。マットと呼ばれている。
日傘を差し、地毛の黒髪は腰まであり、深窓の美女のような雰囲気を醸し出している。だが、男だ。
彼も日本文化が好きで、最近転移してきたばかりらしい。C級の構築技士とのことだ。
二人にコウは日報やコストレビューの書き方を教わっている。
「コストレビューの書式が一番辛い」
コウがぼやいている。原価計算書である。
「原価は大事だよ、コウ。とくに構築技士は兵器を設計して売らないといけないから」
マットは小柄で美形。男でもドキっとするような細さだ。細い男性にゴスロリが似合うのは、日本の経験から知っている。
彼は日本文化が大好きらしく、ジャリンとともに親切にしてくれる。
「アス単位まで書かないといけないなんて」
「日本での原価計算も一緒ですよ。1円単位じゃなくて銭単位なのはそのせいです。一個二十一円と一個二十円五十銭だと、まとまった数で大きく変わってくるのですから」
アキがアンドロイドだと思うのは、こういう計算が得意なところに実感する。
普段は犬の姿で甘えてくるか、人間の姿で甘えてくるかの差ぐらいしかないのだ。
「構築技士は技術者であり経営者だものね。私もここに拾われて良かったわ」
「引く手数多みたいだね」
「そんなレベルじゃない。未所属の構築技士だと判明した場合、誘拐や身柄を巡って要塞エリア間の抗争にだってなりかねない」
思いがけないことをいうマット。
「私も誘拐されかけたの。ファミリアに助けられてね。ここを紹介してくれたんだ!」
「そこまでだったのか……」
「コウは誘われたことはないかな?」
「幸いなことに。まだあまり接点を持っている組織がないのもあるけどね」
「うちにくればいいじゃない! ね、マット」
「それはいいな」
「はは。ありがと。でもやることもあるから」
歳が近いこともあり、三人はすでに友人と言えた。
「そうねえ。うちのボスが熱心に教えているものね」
「基礎の基礎を教わっているからなぁ」
「教え甲斐があるって喜んでたよ、ボス。ここは僕含めて変人揃いだからね。僕の姿をみて顔をしかめなかったのはファミリアを除いては君ぐらいだ。さすが日本人」
「めったに見ないけど、見たことはあるレベルだからな…… 線の細い男性はロリ系が似合うから凄い」
「甘ロリは日本特有の文化だからね。アシアで服を自由に作れるとしって真っ先に作ったのさ」
コウは知らなかった。てっきり欧州の古い衣装ばかりだと思ってた。
「台湾も日本文化凄いからねー。コスプレはしたことなかったけど、興味はあったな」
「犬耳とか猫耳に違和感感じない凄い人ですからね、コウは」
ジャリンの発言に思いがけないところから奇襲を受けた。アキがうんうん頷いている。
「え、違和感感じるの?」
「当たり前です。惑星間戦争時代、ファミリアもセリアンスロープも人間と違う容姿であること、が第一条件なんですよ? コウの感情値、まったく人間に対するものと同様で驚きました」
「未来だからいるかなーって」
「これだ。これが恐ろしい」
コウの言葉にマットが感嘆する。どうやら褒められているらしい。
昼休みはそれぞれの時代の国の話で盛り上がったのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「よし。これがリアクターの部品の全てだ」
今日もケリーについてシルエットの基本を勉強している。リアクターの構成部品を確認していた。
「だいたい六百点ですか」
「そういうこと。部品点数は知っているな?」
「はい。自動車が三万点だと聞いています」
これはギリギリしっていた。一応製造業勤務。だが、部品点数を気にしながら仕事をしている者はいないだろう。
ビスやベアリング一個一個含めての、乗り物を構築する部品の総数だ。
「日本にいたときは加工業とかいってたな! よろしい。ではシルエットはどうだ」
「わかりません!」
「素直にいえることはよいことだ! 地球でいえば、だいたい戦車が十万点。戦闘機が三十万。ネメシス星系では三割は削減できているがね。アサルトシルエットは約二十万。これを多いとみるか少ないかは任せよう。」
「少ないのかな?」
「まあ、そうだな。足にローラー標準装備だし、基本装備はバックパックに依存していると考えると少ないほうだろう。ファスナレス構造技術も進んでいる」
「選択するパーツを選ぶとき、そういうものも検討すると?」
「手足は規格化されているのが救いだな。ただ、現在は複合駆動式などシルエットも進化中だ。規格も増えるかも知れない。MCSは変えようはないが、シルエット本体は転移者が引き出す技術で変わる可能性は高いのだ」
意地悪く笑うケリー。
「責任重大だぞ、コウ。俺は楽しみだがね」
「プレッシャーかけるのはやめてください、先生」
「俺の仕事はお前の引き出しの棚を増やすことだと思っているぞ! あとは部品点数が増えるとコスト増だ! もちろん素材にもよるがな」
「素材かあ。ナノマテリアルは優秀だけど、それに依存してはダメなんですよね」
「ネメシス星系だとまだましだぞ? アキ。説明してやってくれ。地球の馬鹿げた値段をな!」
後ろに控えていたアキに話を振るケリー。アキはにっこり笑って答えた。
「円で説明しいたほうがいいですよね。金属相場は変動が激しいので、約ですが二十一世紀、コウがいた時代で航空用のチタン一トン百十~三十万。炭素鋼が一トン十万、グラフェンなどのナノカーボンが一グラム一万円。ナノカーボンは値段があってないようなものですね」
「待て。グラフェンの重量と値段間違えてない?」
「コウの時代は大量生成できない上に成形方法がないのでそんなものなんです。グラフェンは一キロ五十万円をまずめざし、最終的には一キロ三千円を目標に目指していました。低コスト化の目処がついた、という話があったと思いますが実用化までは十年単位ですからね」
「当時の地球はチタンを多用した機体は高価だというが、チタンのがまだ安い、って言われる世界に入ったんだな。安心しろ。ナノカーボン系統は惑星アシアでは安価に生産できるぞ」
「炭素鋼やチタン、アルミの話をしていると未来にきた気がしない」
「宇宙を構成する元素は変わらないからな。諦めろ。気持ちは分かる」
コウのぼやきにケリーが笑う。
「とくにこっちの製鋼方法はかなり違うからな。ナノカーボン複合材や、様々な非鉄金属を組み合わせた合金や元素配分を行った特殊鋼。元素の配分は俺たちに理解できないレベルだがね」
「装甲材の組み合わせにも注意なんですね。装甲が鋼鉄系素材中心なのも、価格的なことがあると?」
「兵器である以上、コストと重量問題はどうしてつきまとう。兵器も人間も極端なダイエットは後々問題が出てくるからな! ただ空を飛ぶシルエットを作るなら、やはりコストが高くなっても軽量素材を使うべきだ。フェザントのようにね」
自分が設計したシルエットを例に出すケリー。
「十五万ミナの……」
「あれでも安いほうなんだぞ? 惑星間戦争時代はシルエットが戦闘機であり戦車だった超高級機もあったぐらいだからな。戦車や戦闘機が発達しなかったわけじゃなく、超AIたちが人型兵器発展に勤しんだ結果ともいえる」
「合体変形とかありえないもんなあ」
「聞いて驚くな。あるんだよ」
「え?」
「正確にはあった、かな。変形機や、他の乗り物と複合的に組み合わせるシルエットがね。バックパック換装はその時代の名残でもある。アンティークシルエットの実物を見たが、理論値は笑えるぐらいの性能だった」
「技術が封印されて作れない?」
「そういうこったな。材質も解析できなければ、燃料の精製もできない。修理もできない兵器など置物だ。それこそ修理したら破産しちまう。そしてそれに見合う性能は発揮できない。現在のレールガンの集中砲火で十分壊れる」
「どうしてそんなものを作っていたのか疑問です」
「惑星間戦争時代はそんな超兵器が当たり前なぐらい安く作れていたってことだろうな。いや、当時でも高い。それこそ今のフェザントぐらいか。だから頼んだぞ、コウ」
「え?」
「いつか高性能機が設計可能になる未来のため、お前が技術を拡散してくれると信じている」
「無茶いわないでください!」
コウが血相変えて否定する。ケリーは相変わらず豪快に笑うだけだった。
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