クルト・マシネンバウ社
次の目的地に向かうため、メタルアイリスの拠点に一日だけ戻り休息を行った。
翌日にはすでに新しい目的地に向かっていた。
「次は何処になりますか?」
アキが尋ねる。アキはすでにコウの秘書として、十分な実力を示している。
「次はドイツ系の転移者企業のクルト・マシネンバウ社ね。創業二十年以上の名門ってところかな。クルト・ルートヴィッヒはA級構築技士としては最古参の一人」
「大物ばかりで胃が痛くなる」
「雇い主のライブラも心配してたよ。人間関係が苦手な面のフォローって言われてる」
「アス……ライブラ。何も本当のこと言わなくたって」
「私とアキさんがいるから安心してください」
フユキが言ったあと、アキがこくこくと頷く。
「クルト・マシネウバウはどんな企業なのだろう」
「一番普及しているアサルトシルエットを製造しているのがジョン・アームズなら、一番普及している高性能機を作成しているのがクルト・マシネンバウね」
「商談担当としては気合いが入ります」
「メタルアイリスの機体もベアが多いもんな」
「大量生産の構築能力が凄かったんですよね。ジョン・アームズは。作業用シルエットの工場でほぼ全てを賄えるところが大きかったんです」
ジェニーは意地悪い笑みを浮かべる。
「商売するならノウハウの勉強になると思うから連れてくけど、コウ君企業を興す気はないでしょ?」
「ない! それなら歴戦のパイロットと模擬戦したいぐらいだ」
「そういえばクルトは本人もかなりの腕前なの」
「へえ。鷹羽さんと似ているイメージだな」
「言われて見れば似ているかも。彼も最初は傭兵をやっていたと聞くわ。鷹羽兵衛とも仲が良いみたいよ。古株だけあって、たくさんの構築技士と交流があるみたい」
コウはベテランの構築技士が、いかなる機体を作るか楽しみになってきていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ようこそ、メタルアイリスの皆様。お待ちしておりました。クルト・ルートヴィッヒです」
案内された執務室には、初老の白人男性がいた。細面で、穏やかそうな人物だった。
彼は座っていた椅子から立ち上がり、自己紹介する。
丁寧な物言いは、長い間兵器を開発していた構築技士とは思えない。
「はじめまして。私がメタルアイリスのジェニーです。こちらがコウ。そして……」
ジェニーがコウを始め、全員の自己紹介を行う。
クルトはおもむろにコウに近付き、手を差し出した。コウもその手を取る。
「君の事は聞いている。色々な方面からですね」
コウはA級構築技士がアシアと連絡を取っていることを知っている。
そのことを指していると思っていた。
だが、思いがけない言葉をクルトは発した。
「超重戦車をドリル戦車で攻略とは驚嘆に値するブリコラージュです」
「何故それを!」
ドリル戦車の件を知っている者は少ないはずだ。アシアが話すとも思えない。
何より、あんなゲテモノ兵器を作ったことを知られて恥ずかしかった。
「超重戦車の開発者も悔しがっていましたよ。彼とは知り合いなのです。あとは情報を分析したら、おのずとわかります」
ジェニーたちも思わず身を強ばらせる。
この紳士は決して油断できない慧眼の持ち主だ。そして、人脈の幅が広すぎる。
ジェニーたちも、いまだにあの超重戦車の開発者を知らない。
警戒するのも当然だった。
「そう身構えないでください。私は彼とブリコラージュすることについて語りたいのですから」
メタルアイリスの面々の反応をみて、クルトが苦笑する。
同じドイツ系の構築技士として、アルベルト・クナップとは交流があったのだ。それだけの話だ。
あの天才ぶる男が、発想で負けたことで悔しさをにじみ出していたのだ。
ドリル戦車がどのようなものかわからないが、開発した構築技士には非常に興味を抱いていたのだ。
「そしてその前に、コウ君に提案があるのです」
「はい。何でしょう」
「私と模擬戦をしてみませんか? そのほうが、色々と言葉を交わすよりお互い多くのものを得ることができますよ。剣のみの一騎打ちです。いいでしょう?」
思いもがけぬ話に提案。コウも面食らったが、気を取り直す。
剣のみの一騎打ち、という提案はこれ以上ないほどに心惹かれるのだ。
「お互いの愛機でね。私の機体も、それなりの改装をしているよ」
「わかりました。お願いします」
「話が早い。いいね!」
嬉しそうにクルトが微笑んだ。
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