ツヴァイハンダー
「要塞エリアのコントロールセンターのAIとシルエットのフェンネルOSを連動させれば、シミュレーターによる模擬戦も可能です」
「わかりました」
コウはラニウスに乗り込み、クルトが指定した場所に移動する。
ジェニーたちは、模擬戦を観戦するために管制室に移動していた。
二人がどのように戦っているか、実際の映像のようにリアルタイムで表示されるのだ。
アキは小型のマイクを付け、オペレーターを担当する。
そしてクルトの機体が現れた時、コウは寒気がした。
今まで戦ったどのシルエットとも違う迫力――
真っ黒の甲冑のような外観。背中には五番機が装備しているよりも巨大な両手剣と、背後の巨大な偏向推力スラスター。短い砲身のような吸気孔が特徴的だ。
だが、雰囲気がTSW-R1に酷似していた。
「先に教えますね。貴方の機体はTSW-R1ラニウス。私の機体はKSR―19ヴュルガー。あなたのラニウスの姉妹機のようなものです」
コウは返事をすることが出来なかった。生唾を飲み込む。ラニウスの姉妹機――予想もしなかった答えだ。
「最初、この機体を作ったときは複合駆動の技術が不足していた。私と兵衛さんは技術交流を行いました。私は人工筋肉による複合駆動の技術を。兵衛さんからは四肢の駆動系を。お互いが理想とする機体を完成させたのです」
剣を遣うということに対して特化したこのラニウスと技術交流して生まれた機体。
四肢の駆動系、複合駆動の技術。ラニウスの設計を見直したとき、確かに違和感を感じたことはあった。
つまり、目の前のクルトはラニウスの設計者の一人とも言える。
「コウ。ヴュルガーはドイツ語で、モズです」
アキから通信が入る。名前まで同様――同コンセプト。
「同コンセプトですが、方向性は若干違います。ラニウスは機動力を重視し、私は装甲を重視しています。あくまで方向性なのでパイロット次第では気付かないレベルでしょう」
機体同士の接続が始まる。
シミュレーションが作動しようとしていた。
「あなたが試製大剣。私も同じく
シミュレーションがスタートする。
「いざ尋常に」
コウが呟いた。こんな突然の模擬戦でも、これほど心躍ることはなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
五番機は腰を落とし、脇構えで相手の様子を見る。
クルトの機体をみて、コウは思わず呻いた。
「これは……」
ヴュルガーもまた、同様に脇構えを行っていたのだ。
いや、同じと思っていたが若干違う。剣先はコウより大きく下がっていると思われた。
「まさかあれは……」
「知っているの? フユキ!」
管制室のジェニーとフユキはノリノリで解説をお互いしている。
彼らにとっても、これは大金を払ってでも見学したい代物だ。
「ドイツ流剣術です。中世の騎士たちの剣術で近世になって喪われたものを、二十世紀から時間をかけて復活させたもの」
「騎士の剣術って素敵ね」
「コウ君には分が悪いかもしれません。何せ甲冑前提の剣技。シルエットに動作をコンバートするには日本の剣術より向いているでしょう」
二人の会話を五番機は拾っていた。
貴重な情報である。
日本の剣術も介者の剣術という甲冑前提の技法はある。だが、それはあくまで邪道であり、二十一世紀の日本で教えられることはない。
「コウ君の居合いで対抗するのはダメなのかしら」
「ダメですね。居合いは、平時の兵法。こういう戦いには向かないです。早く抜き撃つ技ではありますが、振り下ろす剣より早くなることは難しい。鞘から抜くという利点は別にあります。鞘から抜く、という行為が一工程相手より多いわけですから、技量差がよほどないと」
言ってくれるとコウは内心で苦笑いした。だが、実際その通り。居合いは相手より一工程多いのだ。疾さを何より重要視する流派があるのも当然だ。その不利を埋めないといけないからだ。
その利点は鞘の裡にある、相手との距離感を掴ませない優位性と鞘引きによる剣の軌道の変化。シルエットでは鞘引き出来ない以上、居合いのみを動作パターンとしてコンバートしても効果は薄い。
二人の対峙は武芸者の対決そのもの。緊迫感がものすごい。シミュレータであることを忘れるレベルだ。
じりじりと二人は近付く。と思った瞬間。互いの背が発光した。
二機の機体はすでにお互いを通り過ぎ、互いの機体がいた位置を通り過ぎていた。互いに距離を取るべく大きく前進し、最初の立ち会い位置よりも遙か後方に位置する。
続くように爆音が鳴り響く。――音速を超えた戦い。
お互いの装甲に亀裂が入る。直撃はなかったものの、やはり巨大な機体の剣からは逃れられない。ここはわずかに運動性が高い五番機に軍配が上がる。ダメージはコウのほうが少ない。
コウは機体を大きく旋回させ、常にヴュルガーを補足する。対するヴュルガーは制止してコウの軌道を見据えていた。
「戦法まで同コンセプトかっ! あのブースターはなんだ…… 俺と同じデトネーション・エンジンではないのか」
「ダクテッドロケットエンジンです、コウ!」
アキの悲鳴に似た通信が入る。
「ラムジェットエンジンの一種です。ですが、あちらはマッハ2以上の速度域で使用できないことに対し、ダクテッドロケットエンジンならば対気速度0で発動可能です」
「調べた時みた、あれか…… 対空ミサイルに使われていた奴だっけ」
「はい。速度のコントロールが利きません。相手はエンジンで機体をぶん回す――あなたと同じ発想で、より極端な方法で設計していると思われます」
「こちらよりは細やかな動きは苦手か。そうなるよな」
さすが剣機の先駆者だ。何故その思想に行き着いたか、なんとなくわかる。
クルトもまた、冷や汗を書いていた。
聞いていた以上の加速度。そして機体安定性だ。
一撃で決着を付けようと思ったのだ。新米構築技士を驚かせようと。だが、してやられたのは彼のほうだった。
「あの偏向推力スラスター…… 実に良い。良い構築技士だ。コウ君」
ロケットエンジンでぶん回しているヴュルガーとは比較にならないだろう。あのラニウスは短時間ならば三次元行動も可能なはずだ。
初速はヴュルガーの方が上回るだろう。しかし持続力はラニウスのほうが上。
クルトもまた、老いた身で沸き立つ心を抑えきれない。心の底からこみ上げる歓喜に身を委ね、不敵に笑った。
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