混乱
コウたちが作戦のブリーフィングを行っている同時刻、メタルアイリスは軽い混乱だった。
「ブルー! ブルゥー」
リックとの通信を切ったジェニーは即座にブルーの回線を呼び出した。
「どうしたんですかジェニー。泣きそうな顔をして」
「今回の作戦目標がわかったよ! 封印されたアシアの一部を解放」
「――え?」
目を丸くしたブルーが思わず聞き返す。ジェニーが何を言ったか理解できなかったのだ。
「だよねー? そういう反応になるよねー!」
「ちょっと待ってください。アシアに関しては長年、封印領域も開放手段も不明だったはずじゃないですか」
「封印領域は作戦指定場所でねー。解放手段はコウ君が接触すればいいらしーよー! シルエット越しでもいいってさ!」
「……本当、待ってください。色々追いつけません」
ブルーが真顔で額を押さえている。
人類とストーンズの戦闘が始まって以来、突如として封印されたらしい惑星管理コンピューター【アシア】。
オケアノスはどちらかというと膨大なデータベースと世界の管理などの役割であり、個を持って人間に寄り添う行動を見せるのはアシアだったのだ。
ネレイスを創造したのはスピアーだが、実質的な生産を管理していたは各惑星の管理コンピューター。ブルーは母親がネレイスであり、惑星アシア出身だ。アシアを想う気持ちは変わらない。
解放はネレイスにとっても悲願。そんな話がいきなり転がるこんでくるなど、信じがたいことであった。
「私もそんなかんじ!」
明らかにジェニーはテンパってる。
パニックになっている者がいると冷静になるものだ。ブルーも我に返る。
「私、ファミリアが絶句するの初めてみたかも。あ、ブルーが絶句するのも珍しいよね」
「私のことはどうでもいいです。そもそもそんな作戦なら、もっと大きな傭兵組織がいいのかもしれません」
「それはダメらしいよ。大きな組織が動いたら最悪アシアごと爆破されちゃうかも。この数は最適だってストームハウンドが感心していた」
「誰かコウの裏にいるっぽいですね」
「明らかにね! 本人、失敗したら即座に撤退とかいってたけど、撤退できるわけないじゃない!」
相手に気取られずにアシアを奪回する部隊を展開する。
確かにこんな機会は二度とないだろう。
「ストームハウンドのリックから作戦ファイル届いた。アシア救出作戦だって。えい、うちのメンバーにも転送ゥ。いえーい!」
「自棄にならないでください。そんな作戦名、混乱しますよ、間違いなく」
「きっとやる気になってくれるはず。私はチームを信じてる!」
「お願いだから落ち着いて、ジェニー。でないと怒りますよ?」
冷ややかなブルーの声に、ジェニーもようやく落ち着きを取り戻す。
ブルーが怒ったらとても怖いのだ。
「……はあ。ブルーに聞いてもらって楽になった。ありがとね」
「混乱する気持ちはわかります。ですが送信ボタンを押す前に一拍置きましょう」
「あ、やべ。みんなから鬼のように通信が」
「ほら、そうなる」
呆れたようにブルーが指摘する。
「しかし、これでストーンズの初期攻略目的の謎も解けたってことか。アシアを封印するための主要要塞エリア同時攻略作戦だったと」
「アシアはこの惑星に偏在しているとまで言われた存在ですからね。徐々に力を制限されていったのも、ストーンズが要塞エリアを占拠していったからということだったと」
人類に寄り添い、発展を見守ってきた惑星管理コンピューターのアシア。正体や所在は人類にも不明だった。
転移者の召喚は、彼女の最後の力を振り絞ったものと言われている。
ストーンズとの戦争勃発後、人類との連絡を絶ったアシア。ファミリアやセリアンスロープ、ネレイス種がサポートしなければ人類は既に敗北していただろう。
「この依頼、成否問わず大騒ぎになるね」
「それは間違いなく。失敗したときのことは考えたくもないですが」
「はは。本当にね」
二人が話していると、ストームハウンドから作戦ファイルが届いた。
ジェニーは会話中のブルーにも作戦ファイルを確認し、表情を引き締める。
「ジェニー。変更後の作戦内容を確認を。ストームハウンドも総攻撃の決意をしたようですね。大願成就のため、と記載されています」
「待って待って。え…… 何これ」
「これは彼らも本気です。全滅後の私たちへの指示も入っています。こんな展開を考慮するとか普通はありえません」
「私達に全力でコウの支援に回れってこと? この内容だと」
「書いてませんが、察しろということでしょう。彼らはコントロールセンター制圧、Aカーバンクル奪取に全力。本気の攻略そのものが陽動とは思わないでしょうから」
「彼らならそれだけの戦力もある、か。通常の防衛部隊なら、攻略可能かも。通常なら、ね」
メタルアイリスとストームハウンドの戦力を比較すると、ストームハウンドが高くなる。
陸戦の覇者戦車はシルエットが存在するこの時代でも頭一つ飛び抜けている。
火力、装甲、機動力。これらの総合力はシルエットでは敵わない。
戦車を運用する傭兵組織が少ないことには理由がある。シルエットより戦車のほうが遙かに高価格帯の兵器である、ということに尽きる。単純に製造施設が極めて限られているので高くなるのだ。
戦車を多数保有するストームハウンドの戦力は極めて高い。
しかし戦車の天敵もまたシルエットなのである。
戦車の弱点は肉薄の接近戦であり、巨兵は天敵だ。機動力で比較すると接近されやすく、格闘兵装が豊富という特色も持つ。
中距離の戦車、近距離のシルエットといえるかもしれない。
航空戦力も同様だ。攻撃ヘリや攻撃機などは戦車の数倍の価格である。航空兵器はレールガンや軽ガス式のライフルによって優位性はかなり減少しており、運用する状況は希だ。ネメシス戦域は兵器は傭兵の個人所有でもある。
制空権を取ることは大事だが、取ったところで地上から撃墜されては意味がない。無人兵器はコントロールを奪われる恐れがある。戦闘機も攻撃機も姿を消した理由もシルエットによる対空兵器の充実だった。
「これは…… リックに提案書を送付します。歩兵たるシルエットが少なすぎる。こちらに戦車か装甲車を回してもらいましょう。私達の誰かが援護に。さすがに彼らだけに一番危険な任務を任せるわけにもいきません」
「おっけ。頼んだよ。私と、何人か連れていくね」
「私が行きますよ?」
「あなたはコウのサポートをお願い。私メールもらってないし?」
「ジェニー! こんなときに!」
「はは。野外戦のほうがいいの、私は。閉所の戦闘が予想される。任せたから」
コウの目的地は閉所になると予想される。
ジェニーは機動戦を好む。主戦場となると思われるコントロールセンター攻略に行くと決めた。
ブルーは悩みながらも、兵装の構成変更の検討に入った。
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