ワイルドキャット・カートリッジ
コウたちはハンガーキャリアーのなかでリックから送られてきた作戦を精査していた。
アストライアのサポートもあり、コウは少しずつ飲み込む。大局を見ることなど彼には無縁の話だ。
「作戦は明日に変更か。電撃戦という奴?」
「違う。奇襲要素はない。多分、相手はこちらに気付いているはず」
コウの疑問にエメが答える。師匠がレクチャーしているのだろう。
「どちらにしても、相手に準備する時間を与えないことは重要にゃ。兵は神速を尊ぶというにゃ」
作戦内容を確認している。疑問点はにゃん汰やアキに確認している。
ヴォイは五番機を整備中だ。
新装備のバトルライフルと、追加装甲を確認している。
「射撃戦か。俺にできるかな」
「無理して射撃戦を行う必要はありません。今回は市街地戦です。コウの場合は建物を利用した接近戦のほうが有効でしょう」
「大切に使わないとな」
「ダメです! 使い捨てで考えましょう。いくらでも作ってみせます。決してライフルにこだわらないで」
アキが懇願するように言う。コウはものに執着する性格を見抜いていた。
「しかし、せっかくにゃん汰とアキが作ってくれたものだし」
「それがダメだというにゃ! ムダに捨てろとはいわないけれど、なくなったらなくなったでさらにいいものを作るにゃ」
「そ、そうか」
珍しく語気を荒げるにゃん汰に、コウは肯定するしかなかった。
「いっそ楯代わりでもいいんですよ。慣れない戦い方をするぐらいなら」
「わかったよ。ありがとう」
二人に心底心配されていることを実感し、心配をかけさせないようにしないとと思う。
「作戦ファイルの更新を確認。メタルアイリスとストームハウンドの小隊を一部交換するみたい」
エメが告げる。エメはコウのオペレーターを買って出た。幼い少女にそんなことをさせていいのかと悩んだが、アキたちにも説得され受け入れた。
一緒に行動する以上、何か役割があるべきだというのが彼女たちの主張だった。
装甲車に乗って支援したいという申し出もあったが断固反対した。
それならばハンガーキャリアーからの遠隔指示に専念してもらったほうがよい。彼の心の平穏のためにもだ。
「Aカーバンクルのターミナルを占拠か。攻略できたら一気に楽になるのは確かみたいだけど」
「私達だけなら目的地に突入するしかないですからね。本気で攻略するなら戦力を集中させるのですが」
「途中までは一緒に行動するんだろ?」
「ええ。敵はアシアとの接触が目的とは知りませんからね。ターミナル攻略作戦そのものを陽動にする、と。うまくいけばそのまま占拠して掃討作戦に移行できます」
「警戒が手薄だといいけど、無理そうだもんな」
「要塞エリアに入ること自体、相当苦労しそうです」
「敵にもパーソナルフォースはいるにゃ」
対人の可能性の心配を三人は心配していた。日本からきた若者に、生きた人間と戦うストレスに打ち勝つことができるのか、と。
コウは曖昧に笑うだけで、余計に心配した。
「ちょっとヴォイの様子をみてくる」
「はい」
エメが答え、コウを見送った。
彼の姿が見えなくなったあと、少女たち三人は会話を開始する。
「アシアの救出。コウは知らないほうがいい。それがどれだけ切望されていたかを」
エメが呟いた。師匠によって現時点の惑星アシアの知識は十分にある。
「ストームハウンドの対応は早かったですね」
「ジェニーからお小言の通信がきてるにゃ。あとでコウに教えるにゃ」
「知る人が増える…… 情報が漏れる可能性も増える」
エメが呟いた。彼女は人を信用していない。
「ストームハウンドは気負いすぎだとは思いますけどね。行方知れずだった創造主の救出。それだけのこと、なのはわかります」
「メタルアイリスは軽く混乱してるにゃ」
「今のアシアの状況を考えると当然」
エメが嘆息した。決戦ともいえる状況かもしれないのだ。
「コウは私達が前線に出ることを凄く嫌う」
にゃん汰やアキと違って彼女はシルエットに乗ることができるのだ。
コウは決して許してくれない。
「ヴォイだけなんとか言いくるめたぐらいにゃ。戦場に出るのは男の仕事とかいって」
「そのヴォイもなかなかコウが兵器開発しないから、結局出ることはできないですね」
「無理矢理作ったあれを引っ張り出したぐらいだからにゃ」
アキが苦笑した。コウは彼女たちを大切にしてくれるのはありがたいが、肝心の本人が死地にいるのはたまらない。
「私たちが出来るのは、コウの武装を強化することだけ。ええ、一発一発に魂を込めた。弾丸にね。ワイルドキャットの名に賭けて」
にゃん汰は銃器カスタマイズ用セリアンスロープ――通称ワイルドキャット。バンドロードの役割も兼ねている。目標に沿って弾丸や砲身の最高率化を図るのだ。
規格化された弾頭を調整するために生まれた、不要とまで言われた役割だ。
ガンスミスであるアキと、肩身の狭い思いをしていたのも今は昔。彼女は自分の役割に誇りを抱いていた。
戦場に出ることができないのは歯がゆい。だから彼女は、アキが創った銃をもとに、出来うる限りコウのために最適化を行った。
接近戦馬鹿が、距離を取られて為す術もなく死なないように。
少しでも彼に役立つよう、思いを込めて。
彼女の視線の先にあるモニターにコウが映っている。ヴォイと一緒にシルエットを整備中だ。
「姉さんも無茶をする。砲身は限界まで強化しましたよ」
「コウは不器用だから複数の兵装を使いこなすなんて出来ない。威力を落とさないよう、一発一発の命中精度を限界まで上げた。弾頭はちょっとだけ
「にゃん汰とアキは頑張ってくれた。あとは私と師匠の仕事」
同じく画面を見つめていたエメが呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ヴォイと一緒に五番機の最終確認を終える。
以前と違う点は、三つ。破損していた頭部は修復され、大型の加速用バックパックを装備。大剣は背中に吊されているように装備されている。
運動性を損なわないよう考慮された追加装甲を装着している。傍目からみると甲冑を着込んだ騎士か武者のようにしか見えないだろう。
両肩の補助スラスターを搭載した巨大なショルダーシールドが特徴的だが、これは脇構えを模した近接戦闘を考慮した武装だ。中世の鎧武者のような姿となる。
そして新武装として、両手装備の大型ライフル形状の、90ミリ砲を装備していた。区分でいえば大口径、射程重視のバトルライフルと呼称される。装弾数は20発。
片手でも撃てるが、基本は両手で構えて撃つ武器となる。
ヴォイが解説する。人間に例えると、12.7ミリのアサルトライフルを装備しているようなものだと教えてくれる。コウは知らなかったが、対人には過剰とも言える大口径のライフルとなる。
「アキが基本モデルを創り、にゃん汰謹製のワイルドキャット・カートリッジを採用している。弾も砲身もとびっきりのスペシャルだ。名前は付けないのか?」
「AK2かな。このライフルは」
「意味は?」
「アキとにゃん汰から語呂合わせ。AKにゃん?」
「無理ねえか、それ……」
「ちょっとそう思う」
「ま、あいつらは喜ぶだろう。じゃあこのライフルはAK2だな」
ヴォイが端末にライフル名を入力する。
「あとは、俺の仕事を待つだけか」
「あんなキワモノ兵器出したくないんだが……」
コウは今回の作戦にあたって、一つの兵器を創り出した。
あまりの中二――いや、子供っぽい兵器が完成し、自らの発想に恐怖した。
封印しようとしたところ、ヴォイに見つかり強引にハンガーキャリアーに搭載されてしまったのだ。
「敵の守りは堅いぜ。工作部隊なんて上等なものが用意できない以上、備えておいてもいいだろう」
「わかった。万が一、正攻法でいけないときはよろしく頼む」
「おうよ」
五番機の奥、キワモノ兵器は静かに鎮座していた。
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