機動工廠プラットホーム『アストライア』
機動工廠プラットホームは大型のハンガーキャリアーが出入りするウェルドックを兼ねた搬入口と、側面部からのランプウェイを使って入ることができるらしい。
艦尾門扉は現在閉ざされている。
「ランプウェイを使ってここからはいりたまえ」
「わかった」
コウは船体の側面に移動し、ランプウェイと呼ばれる傾斜架橋を使って、格納庫に五番機を移動させる。
コウが近付いたら、自動的に扉が開き、降りてきて橋となった。
格納庫には以前ファイアフルーが所有していたような、巨大なハンガーキャリアーがあった。
これだけでも大きな艦船といってもいい。戦闘艦のような雰囲気を漂わせているが、武装はついていない。
「既存装備で残されているのはこれだけだ」
「ハンガーキャリアーのみ、か。兵器工場のわりに兵器関連は一切ないんだな」
「ああ。惑星間戦争時代の兵器は持ち出された。では行き止まりまで移動してくれ」
行き止まりまで移動し、五番機を降りる。
師匠の後ろについて、移動する。
「今から戦闘指揮所という場所に向かう。そこで全てが話せると思う」
師匠に連れられ、入った大きな部屋は、暗色な室内にいかにもな大画面が複数掲げられている。
コウが入ると同時に、画面が一斉に映し出される。
暗い部屋を画面の灯りを頼りに二人は進んだ。
「コウ。その椅子に座ってくれ」
「艦長席みたいだな。いいのか?」
「いいとも。私は君の膝の上に乗っているさ」
コウは指定された席に座り、師匠を膝の上に載せる。
座った瞬間、画面に様々な文字列が浮かび上がる。
『ようこそ。コウ・モズヤ。私は兵器開発統合システム<アストライア>。この施設の管理者でもあります。あなたの
女性の声で反応があった。不思議と機械の合成音のような感じはしない。
「はじめまして。アストライア。いいよ、気にしてないよ」
『21世紀の日本人環境にあわせた最適化はすでに済んでおります。あなたが師匠と呼ぶファミリアもあわせて統合情報は共有済みです。師匠、長旅お疲れ様でした」
「ああ、ようやくこの施設の所有者を見つけることができたよ。アストレイア。待たせてすまなかった」
「ちょっと待ってくれ。俺がこの機動工廠プラットホームっての所有者になる? どういうこと?」
『あなたは私が管理する、この一帯全ての施設の所有者として登録されました。他AIの承認も進めます。アシア自ら選んだ
「師匠?」
動かして欲しいとは聞いていたが所有などとは聞いていない。
いきなり巨大な工場を所有しろなどと、彼には荷が重いのだ。
「ではコウと話をするかね。アストライアは待機だ」
『承知いたしました』
師匠は目をつぶっている。猫なのでくつろいでいるようにも見える。
「君をここまで案内したのは、君が構築技士の資格を持つと知ったからだ。そうでなければメタルアイリスに君を預けて私の旅は終わっていた。君にこの施設を引き継いで欲しかった」
「俺は生きるのと五番機を操作するのに必死で、何もできないよ」
「それでいいよ。アストレイアを五番機強化のためだけに使ってもいい。見なかったことにしてここから出て行くのもいい。君次第だ」
「これ、いわば喪われた人類の……いや、例の人類転移させた超AIの遺産だよな」
「話が早いね」
「師匠の希望は?」
「二つある。シルエットの発展。そして技術の拡散だ。君を通じてシルエットが発展すればいいとは思っている。アストレイアの見立てでは、人類は五十年もせずにストーンズに制圧される」
「しろと命じない理由は?」
「ストーンズを撃退したとして、拡散された技術と兵器で人類同士の戦争が始まる。その重責は辛いはずだ。古来、拡散した中古兵器が紛争を招く。この時代でも変わらんよ」
コウは黙った。
ため息がでる。人間は遠い未来でも変わらないらしい、という現実を知って。
「君のような存在は他にいるかもしれない。もしくは従来の構築技士たちが頑張って発展させるかもしれない。だから、君は好きなようにすればいい」
コウは再び黙り、アストライアに声をかけた。
「そうか。アストライア。師匠の寿命を延ばしたい。どうすればいい?」
『師匠は古いファミリアです。脳の生体部品が限界にきており、いつ停止してもおかしくありません。人間でいえば凄まじい苦痛に耐えながら延命していると思ってください。それでも延命させますか?』
「師匠……」
そんなことは聞いていなかった。膝の上の師匠を思わず撫でる。気持ちよさそうに目を細めた。
「私はね。この施設を引き渡す相手を探していたが、構築技士に接触できなくてね。あのスクラップ置き場で静かに停止するつもりだった。最期に君に出会えたのは幸運そのものだ」
「どうすればいいのか、まったくわからないんだ」
「この施設で休眠している、セリアンスロープやファミリアもいる。彼らが君を支えてくれる」
「俺は師匠に支えて欲しいんだけどな」
「ふむ。子供に泣いてすがられるというのはこういう感じか」
「ああ、そういう解釈で言いよ、もう」
拗ねたようにコウが言う。ますます子供っぽい。
ふふっと師匠が微笑む。
「そうかあ。――私は消滅するが、私の娘を守ってくれ。そうしたら心残りはないんだ。これがもう一つの願いかな」
「娘?」
「私の記憶、感情、経験を受け継ぐ予定の娘だよ。皆と一緒に君を支えてくれるだろう。完全に私が消えるわけでもない」
「……そうか」
「悲しんでくれる者がいて嬉しいよ。ペット冥利につきる」
「喜ぶなよ……」
「はは。すまないね。だけど本当に限界なんだ。よくもまあ、ここまで動けたのか、自分でもわからない。あの廃棄場でとっくに停止していたはずなんだ」
「アシアに叩き起こされたのか、俺を助けるために目覚めたのか……」
「その両方だと思ってるよ」
「ありがとう、師匠」
「どういたしまして」
師匠がいなければ生きていけなかった。
コウは別れが近付いていることを認めたくなかった。
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