謎の少女アシアとブリコルール
「ネメシス戦域って?」
「この星系を襲っているストーンズとの戦場一帯を指すんだ。ネメシスというのは頭上の太陽に見えるあれさ。赤色矮星ネメシスと言う」
天空に見えるのは太陽では無かったらしい。赤色矮星ということは、熱量は地球の太陽より低いということなのだろう。
「念のため止めを刺そうか」
五番機を操作し、マンティスタイプの残骸に止めを刺す。胴体を切り離し、動力を完全に止めた。
「コウ。ケーレスから『アクシオン・スピネル』を取り出してくれ」
「スピネル?」
「偽物の宝石でもアルミ酸マグネシウムでもないからな」
師匠の説明が始まる。
「ウィスを生み出す物質は二種類あってな。アクシオン・スピネルはその一つ。Aスピネルと略す」
「つまりこれがインチキ装甲を生み出す、この世界の謎の一つと」
「話が早いな。その通りだ。爆発する物質ではないから安心したまえ。スピネル――安全という意味もある」
五番機を動かし、適当に解体する。
しばらくすると薄く赤く光る、サッカーボール大の大きさの八角形ダイスに似た赤い水晶がでてきた。
「それだな。疑似高次元物質だ。見た目に反して極めて軽い」
「重さがない?」
「高次元物質でな。質量は0。理論値でな。三次元にある以上、質量はあるよ」
「わけがわからない」
コウはその物質を回収し、ベアをひきずりながら地下施設に戻る。このまま捨て置くには忍びないのだ。
水分補給と食事を済ませ、寝ることにした。
この世界にきてまだ二日目だ。
死んだように眠ることができた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夢を見た。
「起きて」
目を覚ますと、そこにはまだあどけなさが残る少女がいた。
美しい銀髪に、白い肌が焼けたのだろうか。小麦色の肌だった。
聞き覚えがある声。
「君は?」
「貴方がコウね! 私はアシアっていうの。よろしくね!」
「あ、ああ」
気のない返事が出てしまう。
「日本人なんでしょ? アニメとか好きなの?」
目を輝かせながら尋ねてくる。
「嫌いじゃ無いな」
「ね。ね。あなたもひょっとして、ものに魂が宿るって思うタイプ?」
「そうかも?」
「自動車とかに名前つけたり話しかけたりする?」
「自分の車には話しかけたりはするな」
「やた!」
少女は飛び跳ねて喜んだ。コウはわけがわからなかった。
「じゃあ、師匠って呼んでる子も魂あると思う?」
師匠は熟睡していた。
「もちろん」
師匠は恩人だ。
「ラニウスの五番機は?」
「もちろん、だな」
コウのなかに五番機を手放すつもりはもうとうない。
それぐらいの存在になっていた。
「わかった。機械にもね。魂があるの。それを知っている人が増えて嬉しい」
「俺の他にもいるのか?」
「少ないけどいるよ。あなたほど強い波長はなかったけど、日本人には多いよ」
「そうか。日本人は多いよな」
「これからもたくさんの機械と触れあうと思う。大切にしてあげてくれないかな?」
「約束する」
コウはあまり人付き合いが得意ではない。
一人で車をいじったり、バイクに乗って出かけたりするほうが好きだった。
「ありがとう! じゃあそろそろ時間だから、最後にあなたの助けになるようなおまじないをするね」
「限界? おまじない」
「ちょっとまってね。はい、終わった」
「何をしたんだい?」
「貴方に資格を与えました。あなたはこれより【
少女は自慢げ。目をつむり、腰に手をあて胸を張りながらながら宣言した。
コウにはまったく聞き慣れない言葉だった。
「ブリコルール?」
「ものを寄せ集めて色々なものを作る人のことをいうのよ。日曜大工する人、素人職人って意味もあるわ。英語だと、便利屋さんかな?」
「便利屋さんの資格か。それもいいかもな」
「ええ。最大限の権限をあげる。そしてもし、その資格が役に立って。貴方が強くなったら、お願いがあるの……」
「お願い?」
「ええ。いつか、私を助けて。――いえ、探すだけでいいから見つけて欲しいの」
「いいよ」
「凄く大変だよ?」
「俺があのケーレスを見て途方にくれていたとき、助けてくれたのは君だよね?」
「うん」
「君の言う凄く大変がどれぐらい大変かわからないけど、努力する」
「ありがとう。そう返事してくれるだけで嬉しい!」
また急に意識が遠くなる。
「また会う機会はあるよ! またね、コウ! 行き先は師匠に聞いてね!」
しばらくして目が覚めた。
「夢か?」
「どうした? コウ」
「師匠も眠っていたね」
「そろそろ寿命が来たのかね。眠る必要はないんだが、何故か意識が遠くなってね」
「まだ早い」
今師匠に死なれたら困る。
「あと少しは動けそうだよ」
「変な夢を見たんだ。夢にしては鮮明だったんだが、アシアって女の子が現れて。先生に会う前に、助けてくれた子だ」
「アシアが? 君に直接? 君がきたことは彼女から聞いたんだが、人間が彼女と直接話せるとは」
師匠がまん丸な瞳をさらにまん丸にした。ロシアンブルーは狐顔なので目が丸い師匠は愛嬌がある。
「知ってるんだな。俺を便利屋さんにしたらしい」
「便利屋?」
「
「……なるほど。わかった。目的地は決まったな。食料を詰め込んで、今日にも出よう」
師匠にはそれだけで伝わったみたいだった。
「急ぎということだな。説明は相変わらず後、か」
「時間はたっぷりあるんだ。しばらくはシルエットに乗りっぱなしと思え」
師匠の言葉に、コウは頷いた。
何もわからないことばかりだが、目的地があるというのはいいことだ、と思いながら。
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