第3話
家具が散乱し、床板は剥がされ、書物が投げ散らかされた一室。
そこで眼鏡を掛けた神経質そうな男がしゃがみ込み、何かを探している。
学者か研究者でもしているのがお似合いな、線の細い男だった。
「手掛かりは見つかったか?」
その男に話しかけたのは、二メートル近い身長を誇る大柄な男だ。
鋼の如き筋肉で身を覆われている。
剥き出しの腕と顔には大小様々な傷跡が見えた。
その中でもひときわ大きな傷は、サングラスを掛けていても分かる、右目に走る傷だ。
「今の所は、ない」
圧倒的な暴力の気配を滲ませる男に、背中越しに答える。
「だが、元々この手の調査は根気が必要なんだ。無論、時間がないのも分かってはいるがね」
一見、怯えの気配はない。
しかし、声が硬かった。
「頼むぜ? 村に来てもう三日。いい加減、雇い主様がおかんむりだ」
それも、良く分かっている。
もし見込みがないと思われれば自分は終わりだ。
すぐさま後任を見つけ出し、後任へのみせしめに残虐な方法で殺されるだろう。
「隊長、報告が」
ノックもなく、一人の男が入ってきた。
「ただいま、最後の一人が死にました」
「情報は?」
「…………」
無言で首を振る。
その男は手早く報告を終え、早々に退室した。
「おいおい、拷問でもすればすぐに吐くだろう、だっけか? たっぷり時間をかけていたぶってはみたがよ。全員が何を言っているのか分からない、何も知らない、らしいぜ。どうする?」
ニヤニヤと、思い通りいかなかった事すら楽しんでいるような口調。
それとも、自身が拷問した時の事を思い出しているのか。
結局この男にとっては他人事なのだ。
自分が楽しめれば、それでいいと思っている。
雇い主がどんな男か知っているのなら、普通はお互い同じ立場だと分かるはずなのに。
これだから話の通じない短絡思考は嫌いなのだ。
「なあ、おい。本当にここで合ってんのか?」
「間違いない」
嘲りを含んだ質問に、断固たる決意で返す。
「こういった場合、必ずその土地になにかのヒントを残す。そういうものだ」
「口伝の可能性が高いと聞いたが、村人は全員死んじまった。次はなんだ?」
いつの間にか、近くに寄った大男が肩に手を置いた。
びくりと、一度だけ体が震えた。
出来れば文句を言ってやりたかった。
せめて数人は生かしておいてほしかったと。
無論、言った所で無駄なのだろうが。
知らなかったとはいえ、見せしめに殺した相手が村長の妻だったのは大きなミスだった。
だから最後の一人、村長は、水すら飲まずに自死を選んだ。
必死で平静を装いながら調査を続行し、その最中に見付けた一枚の写真を手に取った。
「…………捕まえた村人の中に、少女はいたか?」
「…………ああ、見てないなあ」
隊長と呼ばれた男の口元が歪む。
新たなおもちゃを見付けたとばかりに。
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