小説は読者を選べない

ミラ

小説は読者を選べない

 物語は依然進行中だが、主人公である俺の出番はしばらく先まで無く、いわば舞台裏で待機してる状態である。この読者は読むスピードが極めて遅く、しかも同じ箇所を何度も読み返す癖があるせいで、そのたびに俺たち登場人物はギクシャクと同じ動作をやり直させられる。内面描写があるときは、心理状態も当然繰り返させられるわけで、同じことに何度も驚いたり喜んだり悲しんだり、正直たまったものではないのだが、小説は読者を選べないのだから受け入れるより仕方ない。おっと、そろそろ出番だ。長台詞のあるシーンだが、思ったより出番が来るのが早かったな。


 端役に過ぎない私はドキドキしながら唯一の出番を待っている。いまは我らが物語の主人公が長い台詞をつっかえつっかえ喋っているところだ。本来なら流ちょうに話しているはずが、読者の読み方のせいで台無しだ。同情を禁じ得ない。しかし、何かおかしい。彼のこのシーンは私の出番の後ではなかったか。一体これは、どういう……。あ、読み飛ばされたんだ。さては間違って、一度に二ページめくったんだな、この馬鹿め。ちくしょう、私の出番を返せ!

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