第9話 この話、大丈夫だよね!?(メタ

 鳥居にも似た内地側の転送装置ポータルを通り抜け、ミゾンは初めての外界へ足を踏み出した。


 外界は報告に合った通り。ぱっと見、危険はなさそうね。

「ん~~っ! 流れる空気に暖かい日差し!正に外!って感じ!」


「あの、ミゾン様?思ってることと言ってることが逆じゃありませんか?」


 あ~、気にしない気にしない。


 それより、と足を上げて下し地面を踏みしめる。

 私の体重に砂利が押されてこすれ音を立てる。その音、足裏に靴を介して伝わる触感。どれもと何ら変わりない。ユグドラシルでも砂利などはあったがあくまでそうゆう模様でしかなく今のように音はならず足に伝わるのは床のような硬さだけだった。

 なら、と考えつくのはユグドラシルの超アップデートだ。今までの模様床だけではなくしっかりと踏みしめることのできるレベルでの再現が可能になったのだろうか。そのアップデートのためのユグドラシルのサービス終了で、私が今ここにいるのはバグであり。正式にアップデートが終わったならば戻れるかもしれない。

 そんなことを思いつくようになったのも一度十二人の守護者トランプと話したからだろう。あの時は聞き手にまわることが出来、その間に落ち着きを取り戻すことが出来た。

 そうだ。まだ帰れなくなったと決まったわけではない!

 ぐっ、とこぶしを握る。


「ミゾン様。今後の方針をお聞かせ願いますか?」


 そういいながらじっと私を見てくるアンヌ。

 地面の感触を確かめるために足を上げ下げしていたのが恥ずかしくなり、上げ下げをやめると同時にアンヌを追い越し歩き始める。

 後ろから規則正しく鳴る足音をBGMにしながら話す。


Te・・・・・。  これはもう使えないわね。プエラ、ハギトも聞いているわね。これから先、ノンソーロム神殿外で「Tesテスタメント」を使った返答は禁止。および、アルクシィと結びつく可能性があるような行動は各自慎むこと。それで、方針だけど。とりあえず真っすぐ進めるだけ進んでみるわ」


 あ。一つ大事な確認を忘れていた。


「プエラ。人がいそうなのってこの方角であってる?」


「い、いえ‥‥‥‥。 ここからですと左に七十度ほどのところにあるはずです。お伝えするのが遅くなって申し訳ございませんでした」


「いや、気にしなくていいわよ。方針を先に伝えてなかった私が悪いんだしね」


 姿を消しているためにどこにいるかわからないプエラをまぁまぁと手で制す。


「さて、それじゃあ向かいましょうか」


 体を左に向ける。


「あ、七十度ってこの角度?」


「い、いえ‥‥‥‥。もう少し右であっ、行き過ぎですほんの少し左に。も、もう少しだけそっ、そこです!ちょうどその位置ですっ」


 なんだか道中が不安になったのでプエラナビゲートを常に使うことにした。



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 七十度旋回して歩き始めて約四十分ほどったっただろうか。目的の位置までもう少しのはずだ。

 今は私もミゾン様も特に意味のある会話はせずにいる。

 だがここに来るまでにそこそこの内容を話したと思う。

 私はミゾン様にいろいろな指示を承ったのだがそれが難しいものばかりで精神的な疲労をしている。

 まず初めに言われたのが。


「アンヌ、私の偽名だけどミラーでいいかしら?単純だけど頭文字が一緒だし覚えやすいでしょ。それと設定としてあなたの方が上司って設定だから、知的生命体と会遭遇した時に間違っても敬語とか、様をつけて呼ばないでよ?」


 尊敬し、憧れ、崇拝の対象にも近いミゾン様を偽名とはいえ呼び捨てにするのは恐れ多い。だというのに。だがこの程度ならミゾン様の身の安全を守るためだとして自分を説得できる。だが次が問題だった。


「追加で言うけど十二人の守護者トランプクラスの存在は秘匿対象とするわ。だから実質のトップは三銃士になるわ。明日からの一週間を引き継ぎ期間としておくからよろしく」


「は⁉ ・・・・・・ゴホッ、失礼しました。確認させていただきますが、私たち三銃士がノンソーロム神殿の責任者ですか⁉・・・・・・・・」


「そうよ。別にあなたがトップで他の二人が補佐でもいいし、三人平等に権利があってもいいし、部門ごとに分けてもいいわ。半年ぐらいは余裕があるはずだからそれまでに決めておいてくれると嬉しいわね」


「つまり・・・・」


「三銃士の好きにしていいよって言ってるのよ。もちろん最終決定権は私が持つけど十二人の守護者トランプには口出しさせないわ。私の名前をもって保証します」


 だから頑張りなさい。そうミゾン様は言うと笑った。

 私たち三銃士にノンソーロム神殿の全権を預けられたという事実は聞いたが実感がわかない。ノンソーロム神殿の運営はアルクシィの方々が行い、その補助や実行を十二人の守護者トランプが行ってきたのだ。

 突然降ってきた権限が大きすぎる。

 ミゾン様はあとで一緒に考える時間をとるとおっしゃってくれたおかげでこの問題を保留にできたがそうでなければこの事態を理解、納得、発展させるまでろくな会話もできなかっただろう。

 しかし、この権限移行について何も考えないというのはNPC生み出されしものの中での序列同率三位というプライドが許さない。

 故になにがノンソーロム神殿のためになるかを考えていたが全く分からず今に至る。


「ミゾン様、そろそろポイントです」


 プエラの声に私たちの足が止まる。外界転送装置ポータルから三キロの位置に来たのだ。


「ここから先は未調査区域です。最大限の警戒を」


 プエラの声に心配とも焦りともとれる感情が混じっていた。


「おーけー。それじゃあアンヌ。群剣ぐんけんを抜きなさい」


 ミゾン様に言われた通りに群剣を呼ぶ。念のため十本。

 宙から現れたのは鍔のない一メートルほどの直剣だった。装飾は表裏の根本付近に赤いひし形の宝石が埋め込まれているのみだ。

 呼び出したものの内一本を手に取る。


「これはミゾン様がお使いになるので?」


「いやいや。アンヌが使うんだよ、これから」


「はぁ」


 瞬間、抜身の剣が眼前に振り下ろされた。

 私は反射的にバックステップと同時に右に持っていた剣で縦の一撃を防ぐ。

 剣同士がぶつかり音を鳴らす。


「ミゾン様⁉」


 なぜこのようなことを!もし私が死にふさわしい罪を犯していたというのなら教えてくだされば即自害いたしますのに!

 心の叫び音になる前にミゾン様は剣を中断に構え、鞘を左に戻しながらおっしゃった。


「いや~、ごめんね。別にアンヌが気に入らないとかそういうわけじゃない。アンヌのことは好きだよ。これはあくまで試験。試す、というより確かめるほうのね。あなたも私も剣を握るのは久しぶりのはず。だから慣らしも含めてね。ここから先はどうなるか分からないからなおさら」


「ならば、すぐに砕きますので」


「それは無しで。確かめたいのは力じゃなくて技術だから。いい?」


「はい。了解しました」


「よし、それじゃあ始めようか」


 ミゾン様の顔はとても楽しそうだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 迫りくる三連撃を躱していなして弾く。

 アンヌが握る剣の一撃を右によけ、逆側から来た遠隔操作の剣が二連できた。

 一本目を内側にいなし、もう一本を戻す動きで外に吹き飛ばした。反撃を入れるために一歩前進、さらに戻す動きでアンヌの足を狙う。

 アンヌは出していた右足を引き回転。狙いの右足がわずかにこちらの射程から外れる。回転に沿い振る左手には群剣が追従している。数は再び二本横向きで、今度は同時に縦並びで来た。

 突きの軌道である二本を潜り抜けるために腰を落とし足を大きく開く。そうすれば回転でアンヌがとったわずかな距離以上に詰めることが出来る。そのまま右上に向けた逆袈裟を振るおうとするがそれより先に膝が衝突してきた。

 剣は間に合わない。そのため腕で迎え撃つ。肘と衝突した瞬間に腕を押し込む反動で体を弾き飛ばす。三メートルほどの距離を置き正対する。


「いったいなぁ。さっきの膝蹴りって後ろに引いた足を即蹴って前に出したの?」


 アンヌが無言ということはそういうことなのだろう。

 体を回転させて回避したとなると体重は前に乗っているはずなのによくやる。

 私もさっきの流れでおおよそ体の感覚はわかってきた。正直言ってユグドラシルの能力値がまんまだ。だけど感覚は現実の感覚だから非常にやりにくい。

 だが私の能力値と今の武器ならばアンヌに攻撃が当たったとしても重傷を負わせることはできないので、間違って殺してしまう心配は必要なさそうだ。

 非格闘系の職業構成である私の格闘能力はアンヌより少し下ほどのはずだから逆に一方的にやられて失望されないかの方が心配になる。

 ま、とりあえず。


「動いてみます、かっ!」


 二歩で戦闘速度にギアを入れる。だが三歩目を踏む前に迎撃が来る。

 二本などと様子見ではなく五本が来た。左右に挟み込む軌道でくる二本組の二セット。中心を真上に切り上げる一本。

 高さもしっかりと調整しており、左右の下に潜り込むこともできない。完全に避けるには後ろに下がるしかないが下がってしまえばこちらから攻撃を当てることはできない。そうなれば剣を遠隔で飛ばせるアンヌの独壇場になる。

 だから剣を縦に構える。右手を下に、腹に左手を添え右前方にタックル。右上の群剣に当たりに行った。当てるときに下から行き、群剣の力をそらしながら飛び込む。

 着地前に剣に当てている群剣を地面に叩きつける。


「どうよっ」


「お見事です。でもここからです」


「うわぁ・・・・・」


 おもいっきり増えていた。この場で増えるのは一つしかない。群剣だ。

 アンヌが初期で召喚したのが十本。そして今アンヌの周りにある群剣の数は三十一本。プラス二十六本だ。

 群剣の最大本数。全力を出してくるということだ。だから私は長剣を前に投げた。投擲ではなく放棄として。


「―———?」


 アンヌがただただ理解できないと首をかしげる。なぜ武器を捨てるのか、降参なのだろうかと考えているに違いない。だが、警戒は解いていないし武器も下ろさない。いい判断をする。

 放棄した長剣の代わりに隠していた短剣を腰から抜く。

 正直に言うと三十六本の長剣を捌くだけの技量は私にはない。

 長剣ならば。

 抜いた長剣のレア度は長剣と同じだ。性能もそれにふさわしいになっている。だけど武器に対するなれ具合が違う。

 私の職は「演出」としてほぼすべての種類の武器を装備することが出来る。その職を手に入れてからわネタプレイヤーの意地として扱えるすべての武器を実践で使えるようになるまで振った。

 その数十種類にも及ぶ武器の中で私に一番なじんだのが短剣だった。

 ギルドでボス討伐に行ったときは道中のザコ敵と戦い前衛を温存したり、本番ではほかの後衛の盾になることもあった。


「~~~、~~~~♪」


 どうしよう。テンションが上がってきた。現実と同レベルの触感で短剣を握っているという事実と過去の記憶。それが私に燃料を注ぐ。


「‥‥‼」


 アンヌがひどく顔をゆがめて驚くと同時に手を振る。それに従い一斉に長剣が迫る。

 ああ。来ないで。

 興奮と愉悦が限界まで注ぎ込まれた私に危機が来ちゃうと、



              はじけちゃう



 短剣を握るのではなく指を絡ませ振るう。それだけで長剣ははじかれ、連鎖し道を開けた。

 気持ちがいい。血液と一緒に幸せが駆け巡る。


「空を廻せ、大地の真ん中で♪」


 気持ちが、歌が口からあふれ、止まらない。

 視界の中心にアンヌを捕らえ続ける。もはや剣は見ない。

 一歩で懐に入り短剣を突き出す。彼女は体制を後ろに崩しながらも手に残していた唯一の群剣で防ぐ。足を後ろに出し体勢を立て直す前に背中に回り込む。そうすればがら空きの背中に短剣を振るうだけ。

 だが当然されるがままになるわけがなく、剣を無理に振るうアンヌ。振り回した剣は私を追い、迎撃を余儀なくされる。

 私が剣を受け止ため反動でアンヌは跳ね、体を回し再び向き合う。


「君が砕く、ドアの鍵デタラメ♪」


 止まりはしない。だってもったいないじゃない。止まらなければもっと多くの時間走り、剣を振るい、戦っていられるのだから。

 彼女の後ろから飛びしてきた群剣五本をはじく。


「恥ずかしい黒歴史、隠しあってもライオンは強い♪」


 ほかの群剣は間に合わない。そう判断したアンヌは逃げるのではなく正面から挑んできた。両手で剣を握り、上段からの鋭い一撃。奇をてらわず正々堂々全力で。彼女らしい。

 だから私は体を半回転させながら前に出ることで剣に張り付くような位置に立つ。

 そこから左手でアンヌの手ごと剣を握り彼女の下前方に軽く引けばアンヌはバランスを崩しつんのめるようにのどをさらす。

 だから後は右手に持った短剣をその白い肌に押し当てる。


「私の勝ちだね」


 今の私は追加できた十本の群剣に囲まれているが一番近くても四十センチは離れている。

 対して私のナイフはゼロ距離だ。このまま短剣を横に引けば血管を切り裂き殺すことが出来るだろう。

 物理無効の特殊能力スキルを持っていなえればだが。当然アンヌは持っているため殺すことはできない。つもりもない。


「完敗です」


 短剣をのどから離し鞘に叩きこむ。それに合わせて群剣も一瞬揺らぎ消えていった。あとに残るのは始めに私が放棄した長剣のみだ。

 それを拾い上げ、軽く回す。


「さて、これから反省会ね」


 正直、なんでアンヌに勝てたかわからないから教えてほしい。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

2019.09.16

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