第8話 さぁ、外へ出よう

 アンヌはおそらく神殿内でミゾン様に報告してきたであろうプエラ様が再び外へ出て、フォーレやハギトに走り方の指導や三人での意見交換を行っているのを見ていた。

 まずフォーレが我々の前で数度走り、それを見てプエラ様が口を開く。


「・・・・・・。なんというか。普通ですわね」


 探索に出かける前と口調が変わっているがこちらが素である。むしろ上位者がいなければ基本このままであり、硬い口調の方が珍しい。


「えっと、どこが悪いんでしょうか?」


「すみません。一つ謝罪します。フォーレ、あなたが遅かったのは単純に体力不足ですわね。走りのフォームに特段悪いところはありませんでしたわ」


「・・・・・そうですよね。何となく察してはいましたがそうですよね・・・。走り込みしようかな・・・・・?」


 どことなく落ち込んだフォーレをみてハギトが挙手する。


「走り込みをしたところでステータスが上がるとは思えない」


 たしかに、と心の中で同意する。


「我々はアルクシィの方々によって創られた存在。限られたレベルの中で我々を創造してくださったことには感謝しかない。しかし我々は「生まれ」、「成長」したわけではない。今の状態で固定だ。ゆえにただの走り込みに対して疑問する」


 たしかに、と再び思う。

 語彙力がないなと感じるが仕方ない。実際無いのだから。

 我々は創られた存在。それゆえ生まれてすぐに百の力を発揮できる。しかし成長が出来ない。いや。厳密にいえば成長が出来るかわからない、だ。今まで成長しようと試したことはだれもないのだから。

 しかし、もし成長が出来ないのであればそれは敗北だ。そうアルクシィの方々もおっしゃっていた。

 まだ、ノンソーロム神殿がアルクシィの方々でにぎわっていたころ、新加入のメンバーが入って一週間ほどの頃だった。



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「よっ!後輩君!七十レべおめでとう!支援系だからこれで前線に行けるね~」


「え、いや、あの、無理です!私なんかが皆さんとご一緒なんてできません!!」


「いやいや。私たちというか、ここはネタの集まりだからね?ガチプレイヤーがいないのにそこまで謙遜する必要はないからね?負けても全然いいし、あと君相当飲み込み早いから大丈夫だって」


「は、早く成長できるように復習していますから」


「え、復習って・・・。まさかで?」


「あ、はい。私今学生ですから」


「よし、リアル情報ゲット。で。まじめすぎない?」


「ただレベルを上げても、操作する私が成長しなければ負けなので」


「負け・・・・・。ほんと真面目すぎない?」


「そう、ですか?皆さんもすごいPSを持ってるじゃないですか」


「いや、私たちは単なる年の功ってやつで・・・・・



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 などと過去を思い出している間にも意見交換は続いていた。


「とりあえず体力がつくかは後回しにして、ペースをつかむ、という意味では十分にありですわ」


 右の人差し指を上げる。


「この速度ならこのぐらい走れる。ここまでの距離だったらこの速度で行ける。これは今後重要では?」


「今後、ってまた何かあるんですか?」


「さぁ。わかりませんわ。ただ、備えることは無駄にはなりませんわ」


 周囲が同意し、うなずきを作る。そこには当然私も含まれる。アルクシィの方々のために役立てる可能性があるのなら行うべきだという考えは全員共通だろう。

 とりあえずフォーレに全力で走ってもらいどのぐらいの間走れるか試そうとスタート位置に移動してもらった時だ、私が守る後ろの扉が開いた。

 驚きはしない。あらかじめプエラ様からミゾン様がいらっしゃると事前連絡を受けていた。フォーレやハギトが神殿内に戻らず、二人でいることが普通の、我々による入り口警備がいまだドゥーレ、ドロワースを含む三名で行われているのもプエラ様から伝えられたミゾン様の指示によるものだ。


「お待ちしておりましたミゾン・・・・・様・・・・・・・?」


 想定外のことを目にし、思わず疑問形になってしまった。

 そこに現れるのは唯一我々のもとに残ったくださった優しきアルクシィのリーダー。そのはずでそれにふさわしい武器や防具を持ってくるものと予想していたがそれとは全く違った。

 身長は百五二センチ五ミリまで低くなっており、服装は整ってはいるが決して良いものとは言えない、悪く言えばいい所に雇われている従者レベルの服だった。おそらくは見た目以上の防御力を持っているのだろうが、いい防具はそれだけ見た目もよい。そのためどれだけ強化していても遺産級レガシークラスであり、決して聖遺物級レリックには及ばないだろう。間違いなく腰に差した飾り気のない長剣も同レベルのはずだ。

 ミゾン様が身につけるものにしてはあまりにも弱すぎる。

 しかしそれ以上に一番驚いたのはそのご尊顔である。ノンソーロム神殿の門番である私は当然アルクシィの方々全員のご尊顔を覚えている。しかし、今門から出てきたのはそのどれでもない顔だった。

 私は歩き方からミゾン様だとすぐにわかったため何故、と疑問で済んだがフォーレやハギト、恥ずかしいことにドロワースまで警戒態勢をとり、武器を抜きかねない雰囲気をまとわせた。


「おっ、驚いたね」


 軽く笑い破顔するミゾン様、疑問を顔に表しながらプエラ様が一歩前に出る。


「ミゾン様、なぜそのようは出で立ちを?」


 同意の意味を込めて私もうなずく。ドゥーレは動かないがドロワースの方を気にしているのが視界の端でわかる。

 疑問以前に混乱している三人は、我々が動かないことに戸惑っているが上司である我々が動かず、目の前の少女をミゾン様と呼んでいる光景からどことなく察し始めているようだ。


「なぜって、そりゃあ変装だよ変装。この口調もその一環。まぁ、途中で変えるかもしれないけどね」


「変装?意味は分かりますが何故ですか」


「だって、・・・・・・。ん、んんっ。口調を戻しますね。そうですね理由を説明しましょうか。先ほどプエラ達によって外界側の転送装置ポータル付近の安全はわかりましたが結局外界に居る生物が強いのかそうでないかはわからずじまいです。運よく知的生命体とあえて友好関係を気づけたとしましょう。それでもその集団がこの世界での弱者だったら?犯罪者とされるものの集まりだったらどうします?ですから即座の指揮や判断のために私が行きます。とりあえずのメンバーは私とアンヌ、ハギトにプエラの四名です」


 ああ、それでドゥーレとドロワースもここで待機をしていたのか。


「ハギトとプエラは隠密状態を維持しながらついてきてください。基本的な行動、接触は私とアンヌで行います。二人は支援、偵察に徹してください」


Tesテスタメント


 総員が一礼する。


「それじゃあ行きますよアンヌ」


「テ、Tesテスタメント!」


 一礼にうなずきを返しながらいきなり歩き始めたミゾン様に慌ててついていく。


「あ、Tesテスタメントって言うのは外だと禁止です。これを外界ルールその一とします」


 振り返り、楽しそうな笑顔で笑うミゾン様に対し私は思った。


 これからなんて返答したらいいのですか・・・・・?






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2019.07.26

作者からの連絡

これから個人的な都合によりに、しばらくの間更新することが出来なくなりそうです。

再開は早ければ八月後半、遅ければ十月まで伸びるかと思います。

最後の一話が今までの一話につき約四千字のクオリティ(?)を満たすことが出来ず、さらには話も中途半端どころは序盤の序盤で休止となり申し訳なく思っております。

ですが、再開は必ず致しますので待っていててください。


「Who are you danc with? 」及びその設定をご覧になってくださったすべての人に感謝を込めて。 作者より

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