第6話 準備は終わり(えっ、あと一話ある?)
プエラは走っていた。
あたり一面、くるぶしに届く程度の草しか生えていない平地をできる限り急いで。
急いでと言っても全力ではない。レベルの差が激しい彼女が全力で走ってしまったらほかの二人がついてこれない。そのため一番遅いフォーレに合わせて、しかし全力で走らなけらば一瞬で置いていかれる速度で走り続けていた。
「フォーレ、もう十分耐えてください」
そう右後ろに告げるも聞こえるのはただひたすら風を切る音のみ。
何か異議が有るのかと首を回すとフォーレが一瞬目を見開き何度もうなずく。それに合わせて緑の髪の激しく上下した。
声を出し返事をしないフォーレを普段なら無礼だ、と失跡してもおかしくないが彼女は単純に口を開く余裕がないのだろう。そのペースで走らせているのは私だから少々申し訳ないとは思わないこともない。
しかしペースを緩める気などさらさらない。
この任務はミゾン様からの命令らしいのだ。それを伝えに来たのは来たことのないメイドだった。少し前に他の
声もかけず背後に接近してくるものに加える慈悲はない。ゆえに即叩き切ろうとしたがその手は途中で止まった。
その動きは意図して行った動作ではなかった。だが外からの力で止められてわけどもない。理性とは別の、本能というべきものによって手を止めたのだ。
まずい、と。
このまま手に持ったナイフを振り下ろしたら確実に索敵範囲に入ってきた何かにダメージを与えることが出来るだろう。しかしそれを行えばこちらもただでは済まない。そう感じたのだ。
もちろんこちらとて黙ってやられるつもりはない。だが正体不明の相手と一対一の状況でリスクを冒すべきではないと判断した。
その判断によって止まった一瞬でそのなにかは話し始めた。
最悪の場合、恥を捨て他の
ミゾン様からの使者なら先ほどの予感も納得できた。ミゾン様の使者なら私が知りえない部下がいても理解できる。
私は、至上の御方たちのすべてを知ることが出来るとは思っていないが、いつか知ることが出来る範囲ですべてを知りたい。そう考えていた。
だからだろうか、私が知らないということは他の
数秒後には再び気を張ったが体の中を渦巻く己に対する憤怒はしばらく燃え続けた。
もし警戒をあっさりといてしまったことを知られたら見捨てられるかもしれない。それ以前にミゾン様やほかの仲間も危険にさらす行為をした自分が許せなかった。
だが頭だけ出した女に似た何かはそんな内心を知るわけもなく淡々と話をつづけた。
ミゾン様からの使者が言うにはノンソーロム神殿が異常事態に見舞われている可能性が高く、籠城するにもほかの手段をとるにしても外の情報は必須。それゆえ隠密の
同行させるように言われた二人のうちフォーレとは多少面識がある。彼女はレベルはあるが未役職者である者の一人だ。ノンソーロム神殿の外敷地にある畑の責任者でもある。
おっとりとしていて、他人のミスを怒ることがない人格者である彼女は畑担当のシスターたちから人気が高い。が、それは彼女の半分しか表していない。彼女はアサシンの職を収めておりノンソーロム神殿内の監視を務める一人である。
その時の彼女は口数が少なく、いつもの性格が漏れ出ないように衣装とともに隠し包んでいるような雰囲気になる。時々私に技術を教わりに来るがその時も真面目で非常に好印象だった。
同行するもう一人。ハギトについてはよく知らない。
六人天使<ノーオリンピアス>について知りたければクーモンドに聞けば早いがそんな時間はないだろうし、ほかの
フォーレは予想通り第三階層の森林の間にいた。同行を依頼すると二つ返事でうなずいた。説明はあとにするとはなし、ハギトとの合流を目指した。
まず、
次に二階、という位置だ。ノンソーロム神殿に人衆してきた敵は
入り口の外には常に三銃士の内二人が見張りをしている。さらに一回には索敵に優れたものを中心とし多種多様な攻撃を行えるように様々なモンスターが配備されている。
もし、侵入してきたのがとるに足らない雑魚だった場合は大広間を出て殲滅に。明らかに強者だった場合は移動し情報共有を含めた他階層と協力して迎撃に。どちらとも言えなければその場で待機をしておけばいい。
つまり言いたいのは二階なら行動の幅が広がるということだ。
大広間の扉が見と同時に気配が中にあった。壁に挟まれて希薄になっているがいることに間違いはない。ならば、と歩幅を調整し扉の一歩手前で急停止する。体は慣性に従いつんのめりそうになるがその勢いを右腕に流し扉にたたきつける。
一瞬この扉を引いて開けた記憶がありヒヤリとしたがどうやら両開きだったらしく扉は勢いよく開いた。
開いた扉はほぼ180°まわり、壁に激突した音が響いた。やってしまった!と思ったが顔には出さず声を上げる。
「私は
恐喝のようにも聞こえるが面識がない六人相手だ、下手に話すよりこちらが上であるということを示し要求を簡潔にした方が早いと思った。
事実、いきなり後ろから声を投げつけられた二翼の翼をもつ六つの背は右から三番目を避けるように割れた。
右から三番目の背は他の五人と違い羽毛はなく、さらに根元までしかなかった。その翼は金属でできており、外側しかなく中は空洞だった。まるで
「
振り向いた彼女は目元を一直線に覆うバイザーをかけており、肌がわずかな光沢を得ていた。
(・・・・。
別に
(そうゆうのは私の偏見ですね。こんなことを考えていたとクーモンドに知られたら怒鳴られてしまいます)
「これから外に向かいます。隠密系の
それだけ言うと返事を待たず大広間を渡り切る。後ろにはしっかり二人分の気配がついてきていた。
なら、問題はないと思い説明を始める。
「私たちがミゾン様から受けた任務はノンソーロム神殿の
もしもの時は死ね。そう言っているに等しいが二人の顔に不満はない。内心どう考えているかは知らないがミゾン様がそうしろとおっしゃたのならそれが正しい命の使い方なのだとアルクシィのNPCは心得ている。
「それでは、始めましょうか」
そして今に至る。半径二キロをしらみつぶしに捜索した結果、脅威は存在しなかった。
それどころか戦闘になりそうな生物すらいなかった。せいぜいいたのは虫程度だった。
ノンソーロム神殿へ続く
男一人、女二人の三人組で全員が砂色の制服を身にまとっていた。細部がそれぞれ違っており個性と戦種が現れている。
獲物に襲い掛かる寸前の獣のような威圧感は私たちが入ってきた瞬間に膨れ上がったがそのまま風船が破裂するように消滅した。
私たちは勢いを殺しつつ三人の手前二・五メートルほどの距離で静止した。直後に右後ろから崩れる音がするが気配でハギトが支えたのがわかったので振り返らない。
ここで振り返ったら不必要な責任感をフォーレは感じてしまう。フォーレは心配されることを恥としてしまうのだ。私は役職としての上下はあっても仲間だと思っていたのだがこの考え方は少数派なのだとエルヴァージュと話した時に知った。なら私が出来るのは余計なことを背負わないように行動することだ。
「
「
中央に立ち、残りの二人から一歩こちらに近い場所にいた女性が
中央にいるのがアンヌ。こちらから見て右にいるもう一人の女性がドロワース。左にいる鉄面を持つ男性がドゥーレ。三人とも種族は
「アンヌ。二人の疲労回復を」
疲労回復に的確なのはドロワースだがあえて指名しない。個人に対してではなく「三銃士」に対しての命令のためリーダーであるアンヌに命ずる。
「
「任せてください」
アンヌは的確に采配し、ドロワースのやる気も十分にあるように感じられたので後ろの二人を十分に任せておけるであろう。
「フォーレとハギトはしばらくここで待機していなさい」
この後どうなるかわからないので二人には一様、としての指示を出し私は中に入った。閉じる扉に視界が塞がれるまでの間に横目で外を見たが悪い雰囲気ではなかったので安心して顔をそらすことが出来た。
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「えっ、えぇぇ!」
「ギュオアァァァァァァッ!」
「・・・・・・・。何をしているんですか?」
謁見の間に入る前から戦闘音は聞こえていたがその音とペースから真剣な戦闘ではなく模擬戦、もしくは訓練の音だと見当がついていたので焦りはなかった。が、ミゾン様との謁見を行っているはずなのにエルヴァージュとモーティスクラがひっくり返っているのは謎としか言いようがなく。無礼だと判断した。
エルヴァージュの武器は回転しながら床を滑り続け壁に軽くぶつかってようやく止まり、急いで持ち主が回収に向かった。
モーティスクラはひっくり返った状態からなんどか亀のような甲羅をゆらゆらと揺らし、勢いをつけてようやく立ち上がった。
「プエラ、戻りましたか」
正面壇上のプエラ様からお声がかかる。
「はい、
膝をつき首を垂れる
「お疲れ様でした。リーチナー、一度そちらに並びなさい。プエラ、前に出て見てきたことの報告を。内容は任せます」
「
素早く二列横帯になった
そしてこのタイミングでようやく+αが私に勅命を伝えに来たメイドだと気づいた。そのメイドの名前がリーチナーということはわかったがそのメイドがなぜ
「ではまず初めに報告しますが至急対処すべき問題はありませんでした」
見てきたこと脳内整理しながら私は報告を始めた。
―――――
2019.06.09 訂正 六翼の翼をもつ六つの背⇒二翼の翼をもつ六つの背
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