リップ・ロトアデ・ストロング
「地球滅亡するらしいぜ。」
「そうだねぇ。」
「神様出てきたしな、空に。」
「そうだねぇ。」
「神様、出てきて、もっと地球人同士で愛し合わないと地球滅亡とか言ってたしな。」
「そうだねぇ。」
「あれかな、その、戦争とか多いから、それに対するなんか怒っちゃった的な感じなんじゃねぇかな。」
「そうだねぇ。」
「お前聞いてるか。」
「そうだねぇ。」
「ポケモンのフシギダネの進化系は、フシギ。」
「そうだねぇ。」
「しゃりしゃりのバニラのアイス。」
「そうだねぇ。」
「俺の好きなホラー映画。」
「そうだねぇ。」
「スターウォーズだわ。」
「スターウォーズはホラー映画じゃないねぇ。」
僕は、彼氏に膝枕をしてもらって空を見上げていた。非常に暑いのだが、空気が澄んでいて、しかもよく通るために汗は余りかいていなかった。
青い空。
白い雲。
そして、黒いタイムリミット。
神様が現れてから、生まれたその黒い時計は何かを告げる様に独特な文字盤と、独特な形状の針によって動き続けている。
つまり、何が言いたいかというと。
あれがタイムリミットを示していることが分かっても。
人類の使う時間の尺度では後どれくらいなのかが分からないのである。
今、地球上では、学者と呼ばれる人々が頭を悩ませているそうだ。
僕は興味はない。
滅亡するならすればいいし、しないならしなくてもいい。たぶん、どちらに転んでも僕の人生に大きな変化はない。
「でもさ。神様はどういう意味で言ったんだろうな。」
「何が。」
「愛し合えってさ、男と女でってことなんじゃねぇのかな。」
「まぁ、生き物って例外はあるけど、大体そのルールだからね。」
「なんで、駄目なんだろうな。こういう俺たちみたいな男同士の恋愛ってさ、その、あんまりよくないってことになるじゃん。」
「ルールだからね。」
「ルールならいいのかよ。」
「ルールは重要だよ。」
「お前、ルールと俺、どっちが大事なんだよ。」
「お前は大切、ルールは不可欠。」
たまに思う。
仮に、俺たち以外の人類がちゃんと男女同士で愛し合ったとして、それが神様の目論見通りだったとして。
そして。
俺たちだけが男同士で恋愛をしている、最後のカップルになったとして。
それがきっかけで人類が滅んだとして。
「神様は多分、そんなにマジじゃないと思う。」
「空にタイムリミットとか、浮かべてるじゃねぇかよ。」
彼氏が空を指さす。
黒の針が僅かに動き、見たこともない文字盤の記号を指さす。
「もうちょい、あせってみろって言ってるんだよ。」
「何がだよ。」
「恋愛をだよ。」
「はぁ。」
「とりあえず、いいから愛し合ってみって、お試しでもなんでもいいから。いろんなところに目を向けて、恋愛やれって言ってるんだよ。」
それから四十年ほどたったけれど。
まだ空に浮かぶ黒いタイムリミットの針は動き続けている。
何かせかされるように未婚率が低下したとか、出生率が上がったとか、データは出ていない。少しは上がったそうだが微々たるものだ。
僕は今日も膝枕をしてもらいながら空を見上げる。
「いつ、滅亡するんだろうな、人類って。」
「そうだねぇ。」
「何年か前にもこういう話したよな。確か。」
「憶えてないねぇ。」
「そうだっけか。特別な日ではないと思うけど、まぁ、今日みたいな夏の日になかったっけ。」
「忘れたねぇ。」
「なるべく、特別な日を増やして祝おうってそういうルールだろ。思い出そうとしろって。」
「ま、所詮ルールだから。」
社会も。
人類も。
僕らも。
余りルールにマジになっても損ばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます