潰す葡萄の羊
羊を潰した肉にする時には、必ずルールがある。四回羊が悲鳴を上げる前に、首をちぎって捨てることだ。
それ以外にルールらしい、ルールもない。
他には葡萄を潰す時だけは、必ず町の外でやること。
つまり、葡萄はこの町の外でしか食べてはいけない、そういうことになっている。
何度も何度も、考えて、これが正しいとか、これがいけないとか試行錯誤した上でのルールなんだそうだ。
何故かは知らない。
大人たちは、皆、葡萄にはとてもお世話になった、というし。おじいさんやおばあさんくらいになると、羊を潰すことは別に問題にないにしても、葡萄を潰すことに関しては顔をしかめて怒ったりする。
そんなときに、やってきた。
旅人だ。
緑色の服を着ていて、赤いマフラーを巻いていた。
うちの町の羊は緑色だし、葡萄は血のように赤い。
たぶん、それをイメージしてやって来たのだと思う。心の底からこの町のことを愛しているのが伝わるし、実際、それは街の人間たち全員の総意だった。
久しぶりの旅人に村人全員が浮かれて、自分の家のオア酒やら食べ物やらを持ち出して、しっちゃかめっちゃかのどんちゃん騒ぎ、次から次へと村人も飛び込んで、死人まででる。
でも、不思議と宴の熱は収まらないし、むしろ死人をみんなで胴上げして、ますますヒートアップ。
気が付くと、僕は旅人と一緒に、町の外がw内ある羊の入った柵に寄りかかって、お酒を飲みながら話していた。もちろん、お酒を飲めるような年齢ではないけれど、どうしても、飲んで欲しいというのでいつのまにか体の中に流し込んだ。
「この村を出ようとは思わないのかい。」
「居心地がいいからね。旅人さんもここに住めばいいのに。」
「意味は分かるけれど、僕には、この場所は似合わない。」
「住んでるうちに、似合ってくるもんなんだよ。」
「分かったような口を利くじゃないか。」
「でも、そういうものでしょ。」
「間違いないね。」
気が付くと、羊たちがいなないて、旅人の近くに寄って来ては体を擦り付ける。旅人も、とても嬉しそうな表情で羊たちを見つめると、その口にもお酒を流し込んだ。
羊たちが次から次へと暴れ出す。
不思議な光景だった。
僕は怖くなって、そのまま宴にも参加せずにお家の布団で寝てしまった。
朝、起きると。
テーブルの上には、ドーナツとホットミルクがあった。
「お母さん、緑色の旅人さんは。」
「何それ、知らないわよ。早く朝ごはん食べちゃいなさい。」
「緑色の羊さんは。町の外で必ず食べなくきゃいけない葡萄は。」
「何、何のこと言ってるの。」
「この町のルールだよ。」
「ないわよ、そんなの寝ぼけてないでさっさと食べなさい。」
僕はそこでようやく思い出し、一生懸命ドーナッツを二百三十八個食べ、四十五リットルのミルクを流し込む。
大きくげっぷをして、お腹をさすると、そのまま眠くなってしまうけれど、そこは我慢をしなくてはいけない。
僕はテーブルの上に立つと。
町のルール通り、縄で作った輪の中に、首を入れる。
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