風を刺す
あたしはペンにのって空を飛ぶ、魔法少女ちえちゃん。
そのペンで紙に魔法陣を描くと、あら不思議、そこから魔界の怪物たちが次から次へと大集合。
悪い奴らを八つ裂きにして、次から次へと殺して回って、町の平和を守るの。
でも、あら大変、あたしったら魔界の怪物たちを魔界に返すための魔法を忘れてしまったの、このままだと魔界の怪物たちにあたしの大好きな町が壊されちゃう。
なんで。
なんでそんな、酷いことをするの。
同じ魔界の出身でも、やっぱり使い魔程度だと矮小な知能しか持ち合わせていないから、一々制御するのも迷惑だわ。力を振りかざして相手を蹂躙するくらいしか使い道のない醜い肉の塊のくせに、自分の意思を持とうとするからこうなるのよ。
だから、あたしは魔界怪物人権協会に殴り込み、片っ端から炎の魔法で灰にして全滅にしたんだけど、何と、今度は訴える相手まで殺しちゃったの。
うっかり、ちえちゃん。
てへ。
炎の魔法と魔界の怪物たちを召喚すること、そして、地球上の生物を全滅する禁呪を内緒で覚えている以外は、普通の魔法少女のあたし。
何もできないまま、このまま消えていくあたしの大好きな町を眺めるしかないなんて。そんなの嫌。でも、一体どうしたら、どうすればいいのかしら。
そんな時。
町の彼方からやって来たのが、あたしのお父さん。
お父さんは元々魔界での人権活動家として有名だったんだけれど、活動資金を稼ぐために始めた投資で大損、次に株からFX、最後は船と自転車、お馬さんに手を出すというクズまっしぐらの借金の作り方で首が回らなくなり、もう数年会っていなかったの。久しぶりの涙の再会に、感動していると、お父さんが走って来る時に服の裾がたなびいて、なんと、お父さんのおなかに手術痕がちらり。
まさか、お父さん、臓器を売ったのね。
これで、きれいさっぱり、あの人をお父さんと呼べるわ。その嬉しさであたしも近づいていくと。
「まだ、利息を払い終えたばかりなんだぁ。」
それをお父さんと呼ぶのは正直無理。
怒りに任せていた魔界の怪物たちに指示を出して、お父さんを襲わせることに成功、こんなにうまく行くとは思わなかったの。
思わず、ちえちゃん、ここでもにんまり。
でも、そんなことがあったって、魔界の怪物たちの町の破壊は収まらない。
次から次へと町が壊されていく。
有料老人ホーム、グランドグリーン。会員制老人ホーム、みんなの里。住宅型有料老人ホーム、のびのび。サービス付き後期高齢者住宅、太陽の丘。介護付き有料老人ホーム、すこやかハウス。
あたしはこのままこの町を寂れさせる訳にはいかない。大人子供は全くおらず、後期高齢者の皆さんが仲良く、暮らすこの町をあたしが守らず誰が守るっていうの。
めげちゃダメ。
ボランティアの経歴欲しさに学生が何かと訳の分からない企画を片手にやって来て、困惑するおじいさんやおばあさんを利用してイベントをしているけど。
それでも、あたし。
この町が大好きなの。
本当に大好きなの。
嘘じゃないの。
本当に大好きなの。
本当よ。
嘘じゃないわ。
うん、嘘じゃない。
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