第23話 夢は君の武器のはずだよ
ときは元号が平成に代わるほんの少し前。
ところはT県の西のはし、芯斗市中那村。
ウチは、古い木造の日本家屋である。
家族は姉と私、そして弟と父と祖母。
その晩、私は「機動警察パトレイバー」のビデオを観ていた。
六月のなかば、ヤマモモの実がなりはじめている。
ビワは、飽きるほど食べた。
ネムノキは、もう葉を閉じている。
姉と弟も、いつの間にか来て観ていた。
細かな雨が、ずっと続いている。
観おわって、私の口から一言出た。
「あー!やっぱりえーわー!パトレイバー」
弟が言う。
「トモ姉、ファンやったっけ?」
「まー、そーやねー。お話もええし、今年のアニメではナンバー1やないかなあ…」
姉が入る。
「お!お!トモ美も、そう思う?アタシも一番やねえ…」
弟がかえす。
「地味ーーな話やんか。ロボットも大して出てこんし、話はオモシロかったけど、オレやったら『ゼータ』がええかなあ…」
姉が、カルピスのコップを置いて一言。
「坊やだからさ…」
「あー!何なにナニ!カズ姉!どういうイミ!どーいうイミよお!それはあ!」
「ふう…『三味線の絃のきれしを火事のごと騒ぐ子ありき大雪の夜に』…石川啄木…」
「…?…?…?…」
「ユウーーーそれとはジャンルが違うんよー。ロボットアニメいうても、舞台が全然ちがうけん。戦争モノじゃなくて、これは日常モノ!現実世界にあんなメカが存在したらどうか、いうことなわけよ。これは、この地に足のついたドラマがええのよー!ねえ!トモ美!」
「そう!お姉ちゃん!わかってるねえ!やっぱりい!」
「それに、トモ美。あんたのポイントは、あのシブさやろ?ねえ?」
「そうソウそうソウーーー!お姉ちゃん!あの地味ーーーーなシブさ!あれ!私の大好物!ええんよー、あれがー!第一、実はオジさんが主役やったりするし!」
弟の目が点になった。
「ええええーーー!主役は、野明と遊馬やないんかあ!?ほんなら、誰よお!主役はあああ!」
「さっすがはトモ美、わかってるねえーーーあんたは!」
「そーやろー!お姉ちゃん!あの!オジさん達の地味で渋いカッコよさがたまらんほどええんよねー!」
「確かにシブい!渋くてカッコええけど…だがしかし!トモ美、あのオジさんは…」
「?」
「あのオジさんは…『オジサン趣味』のあんたのなかでも、いちばん年上じゃない?さすがに上すぎるというか…。まあ、好みやけんええけど…」
「そーかねー?『長谷川平蔵さん』より若いで、あのオジさん」
「ええええーーーー!あのオジさん、もう定年が近いろお?」
「うっそおおおおおお!だってあのオジさん、課長から『四十オトコ』って言われよったよー!」
「えええ!あんなに頭、真っ白やのに、そんなに若いん!?」
「ちょ、ちょ、ちょっとお…お姉ちゃん。私、誰のファンと思ってるわけ?」
「え?あんたの好きなオジさんって、『榊整備班長』やないの?」
「違う!ちがーう!私は『後藤隊長』のこと、言いよったんよー!」
「あああーー!そうか、隊長かー!そーか、そーかあ!それやったら、わかるわあ!後藤隊長やったら、確かにあんたのストライクゾーンやねえ…」
「そうやろうー!榊さんも実にシブいけど、さすがにあの人は上すぎるでえ」
「そっかー。トモ姉、隊長のファンなんやー」
「まー、それで観ているわけじゃないけどねえ…。内容がバツグンに面白いし…」
「トモ美、やっぱりあんたにも榊さんは上すぎるかー!」
「そりゃそうで、お姉ちゃん。榊さんは鬼平犯科帳でいうところの『佐島与力』みたいな立場やけん」
「どういうこと?トモ美?」
「つまり、あまりオモテには出てこんけど、裏で地道に、上の立場の人を支える…上司とも気持ちが通じあっている………あ…いいかも…そういうオジさん!」
「トモ姉…まさか…」
「トモ美、あんた…新たな好みが出現したか!」
機動警察パトレイバーに関しては、この後さらなる展開があるのだが、とりあえず今回はこれまでにいたしとう存じまする。
夢は君の武器のはずだよ 終
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