第14話 連絡
平成三十一年二月、午後八時半、私は帰りの電車に座っている。
このくらいの時間なら、酔っぱらいもまだいない。車内は、ほぼ満席。どの人も、うつむいて寝ているかスマホ中かの二者択一だ。私は、第三者になるとするか。バッグから「鬼平犯科帳」の文庫本を出す。疲れた…が、心地好い疲れだ。充実している。やりたいことを仕事としてやっていけるのは、つくづく幸せなことだと思う。目をあげると、街の灯が通りすぎていく。この街は、どこに行っても明るい。明かりのない場所なんて存在しない。わずか百五十年でこれである。この国はどうなっていくんだろう。
と、思っていたらメールがきた。ガラケーを開くと、嬉しい知らせだった。
駅を出て、すぐに電話する。あっと、歩いちゃイケナイ!
「ノックしてもしもーし!」
出た。
「メール、ありがとう!よかったねえ、おめでとう!」
「ニョホッ!ありがとうねえ……まあ、これからが、というか、これからも、というか何にせよ大変やけどねえ…」
「そうやねえ…まあ、がんばって!我々も来た道やんか!」
「そーよねえ!来た道か……。そうやねえ…まあ、人生しよったら、ちっとの区切りはあっても、終わりはないか……ま、アイツにとっては『第一部・完』いうことやろうねえ」
「そーいうこと!私も、微力ながら力を貸すから、ねえ!」
「ありがとう。この間も世話になったけど、これからますます、あんたを頼らにゃあいかんよ」
「おまかせあれ!姉上!あの子の『第二部』スタート開始やね!」
「そうか……そうやねえ…。『第二部』…か…そうやねえ…。『すこやかに背丈のびゆく子を見つつ、われの日ごとにさびしきは何ぞ』…啄木…」
「ねえ、お姉ちゃん。自分自身は、今、第何部?」
「え!アタシ?アタシ……かあ……うーん、そう……ねえ……『第七部』の終盤…いうところかねえ…」
「そうか……『第七部』……そんなもんやろうかねえ…」
「まあ、そんなもんやろう。『ドジャアア~~ン!』ってか?わはははっ!ねえ、仕事終わった?」
「うん、今、帰り。そっちはどう?」
「こっちは、ずっとずううっと相変わらずよねーーー!全然変わりナシ!」
「平和がイチバン!そうやろ?」
「そうやねえ……あ、けど、これからはちょっと変わるわあ、こっち……」
電話を切って私は歩きだす。
気分がいい。今宵は実に気分がいい。
高揚した頬に、夜風がいい感じだ。
祝杯をあげよう!
行きつけの居酒屋のノレンをくぐる。
「いらっしゃいませー!」
「一人です。席、あります?そう……じゃあー『刺身盛り合わせ』と『司牡丹』の吟醸をおねがいします!」
連絡 終
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