第34話 救出作業
「美桜ちゃん、優太君っ! いるなら返事してくださいっ!」
倉庫の外から知っている声が聞こえたので二人は安堵した。
「綾小路のおじさんっ! 二人ともここにいるよ」
「私が鍵を開けます。何か危険な物があるかもしれませんから、二人は大人しくしていてください!」
空調服の中から工具を取り出して、倉庫に付いている南京錠の解錠に取り掛かり始めた。
「あー、でも、俺達も脱出のためにいろいろあがいたからなあ。振り切ろうとして腕振りしてたし、美桜は熱で拘束テープを焼き切ろうとしてるし」
「熱っ!」
美桜が突如悲鳴を上げ始めた。
「美桜! どうした!
「テープが熱い!」
「バカっ! 発火している! 急いで叩きつけて火を消せ!」
「美桜ちゃん、無茶しないで!」
外から綾小路が呼びかける。早いところ南京錠を解錠すればいいのだが、手持ちの工具では切れない太さだから、鍵穴を壊していくしかない。しかも、沢山付いている。これは少し時間がかかる、今みたいなことがまた起きないとは限らない。
「大丈夫、消した。でも、このテープ切れなかったね」
「なんか特殊なやつなのかな。やっぱり大人しくしとけ。女の子なんだから怪我しちゃダメだ。そうだ、綾小路さん、窓際のペットボトルを退けて。河田はそれでここを収れん火事にしようとしているみたいだ」
「それを早く言ってよっ!」
何故かオネエ言葉になりながら、窓際へ行くと確かに怪しげなペットボトルがある。動かそうとして気づいた。何か糸が張られている。ダミーかもしれないが、動かすことで何か爆発が起きるかもしれない。
「これは動かすのは危険だわ」
綾小路は首を振った。
「どうしてさ? 下ろすだけだよ?」
優太が不満げに抗議する。
「よく見るとテグスみたいな透明な糸が張り巡らせてあります。動かすと何か仕掛けが発動するかもしれません」
慌てて入口に戻り、南京錠を壊していく。
「この数だと十分くらいか……しかし、バカみたいに沢山付けたな。健さんならあのボトルの仕掛けすぐに解けるだろうに」
「俺だって縛られてなきゃ観察して解くのにか」
「それから二人とも、ペットボトル以外の陽のあたる場所からなるべく避けて。もしかしたら、サンオイルみたいな油が服に付いている恐れがあります。そうすると発火することがある」
「そういえば、なんとなく油の匂いがするのって肥料爆弾のだけじゃなく私たちの服にかかっているの?」
「げ……河田って、じいちゃん並に二重三重にトラップを仕掛けていたのか。さっきのテープの発火もそうなのか? って、じいちゃんは?」
「今、フル装備でこちらに向かってます。あの人くると犯人が血祭りになりそうなんですが。まあ、すでにすみれさんが血祭りというか、シュート練習の的にしてイニアスタになりましたが」
「綾小路のおじさんが言ってる意味がわかんない」
「美桜もか? でも、河田がそれなりの目に遭ったということだけはわかった。結局、犯人は河田だけなのか?」
「私もそこまでは……盗んだ肥料からして一人でこなせる規模ではないからやはり国体反対派が何人かいるのでしょうね。よし! 錠前は全部壊した! 開けますよ!」
綾小路が開けようとするが、扉はびくともしない。
「な?! まだ仕掛けがあるのか? 引き戸? いや、押すタイプだよな」
「あー、跳び箱が扉の前に置いてある。多分、肥料入りだから重い」
「それももっと早く言ってよぉ!」
「綾小路のおじさん、焦るとオネエ言葉になるのね」
「ギャップあるなあ、あはは」
二人の笑い声に綾小路は焦ったように叫ぶ。
「二人とも、もっと危機感持ってちょうだいよっ!」
「じいちゃんとすみれさんが来れば多分大丈夫だよ」
とは言え、二人がさっきより緊張感が和らいでいるのはわかった。この緊張感が和らぐならさっきよりマシな状態なのかもしれない。
「わ、私も他に侵入出来そうな所がないか探しますっ!」
その時、倉庫近くに健三達が到着した。
「聞こえた会話からして、このエアガンでは何かに引火する恐れがあるのか、まずいな」
「あ、健さんに梨理さん! そうみたいです。警察と消防は呼んでますけど、それまでに何かあったらと、対策を練っているのですが。あと、窓際に発火装置とも言えるペットボトルトラップがあります」
綾小路は健三に答える。
「ちっ、トラップ解除が間に合うかどうか。優太! 解除できるよな!」
「美桜ちゃん、優太くん、よく頑張ったね。もうすぐレスキュー隊来るから!」
梨理達が励ましの言葉をかける中、すみれがボールをリフティングしながら到着した。
「なんだい、なんだい、まだるっこい! こういう時はこうするの! まずは内部の温度を下げて時間稼がないと」
「おばあちゃん、何をするの?!」
「おばあちゃん? 梨理さんはすみれさんの孫かい?」
「今はそんなことはいいです。早くおばあちゃんを止めないと」
「せーの、ふんっ!」
すみれはボールを勢いよくオーバースローしてペットボトルがある所とは別の通気口に向かって投げた。
ボールが当たり、派手な音を立て通気口が壊れ、大き目の穴が空いた。
「さ、少しは通気性良くなる」
すみれがドヤ顔の一方、頭を抱える梨理と呆れた健三が立っていた。
「おばあちゃん、またそんな考え無しの事を……引火しなかったから良いようなものの」
「すみれさんよぉ、俺がさっきエアガン使うのためらったのは摩擦熱によるガス引火を恐れてたんだぜ」
二人の言葉にもすみれは動じない。
「河田のことだから、ガスなんて引いてないでしょ。そんな単純な仕掛けより肥料を使った凝ったものしかやらないから、と踏んだのだけどね」
「あ、健さんだけではなく、すみれさんも来てくれたのですね! 私は今の穴を使って二人の縛られているテープを切ります! 二人とも、穴の近くに寄って、手を出して!」
「わかった!」
とりあえず、綾小路は二人の手に縛られていた拘束テープを切った。
「よーし、優太。ペットボトルトラップの仕掛け、わかるか? 綾小路さんから工具借りて解いてみろ」
「わかった、じいちゃん。うわ、本当にテグスを使って見づらい仕掛けにしてある。これ、引っ張るといろいろ動いて摩擦が起きて肥料と油に発火する仕組みだよ」
優太は綾小路からペンチなど借りて、慎重に糸を切る。
「やっぱり動かさなくて正解でしたね……」
「それで犯人は?」
綾小路がある意味気の毒そうに首を振ってため息を付きながら答えた。
「すみれさんが二人の居場所を吐かせるために、イニアスタにしました……いや、落ち武者か」
当のすみれは澄ました顔でとぼける。
「有意義なシュート練習台だったわね」
梨理が頭を抱えて、諌める。
「おばあちゃん、髪の毛でも傷害罪成り立つのよ、どうするのよ。警察になんて言い訳すれば」
外の喧騒に二人は首を傾げる。
「優太君、一体何があったのだろうね? 梨理さんはすみれおばあちゃんの孫なのかな? あと、イニアスタって誰?」
「イニアスタはスキンヘッドのサッカー選手だけど、俺も訳分かんねえ」
その時、校庭の向こう側からサイレンが聞こえてきた。
「全て解決したら、まとめて聞こうね」
「ああ、そうだな」
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