第14話 この祖父にしてこの孫あり
「徳次郎おじいさん、宿題終わったよ。教え方が分かりやすかった」
談話室で美桜がノートを片付けながら目をキラキラとさせてくる。徳次郎は部屋から何枚か持ち出したDVDを見せた。
「そうだな、時間あるからアニメでも観るか。『ボカロ戦士ミライ』や『クッキングガール☆クルミ』に『フェンシング』、それから『名探偵ランポ』といろいろあるぞ。あとは工作で竹細工のミライちゃんや段ボールから作ったクルミちゃんを見せようか」
「うーん、ランポにしようかな。その後で段ボールクルミちゃん見せて!」
その言葉に反応したのは健三だった。
「お、上映会だな。劇場版ランポならアクションシーンも沢山あって面白いよな。俺もこの対局が終わったら見せてもらうか」
「健三さん、まだ勝負はついてませんよ。これでどうですか?」
綾小路が慌てて引き留める。
「っととと、あぶねえ。これでどうだ」
健三がダンベルで筋トレしながら碁石を打つ。
「待った!」
「なんでい、テロリストの癖に往生際悪いな。待った無しだぜ」
「だからテロリストなんかじゃありませんってば」
反目しながらも囲碁を打ち合う仲にはなったようだ。
「うーん、雨じゃ無ければ私がサッカーを教えるのだけど」
すみれは急に降り出した雨を眺めつつ、つまらなそうにリフティングをしながらぼやく。
「まあまあ、すみれさん腐らないの。美桜ちゃんが楽しそうならいいじゃないの」
千沙子が答えながらおやつの蒸しパンを蒸し器にセットをしていく、その手つきは管理栄養士だっただけあって鮮やかだ。
「そうですわよ、すみれさん。こうやって見守るのが大事ですから」
悦子は美桜への簡単な夕飯を支度しながら相づちを打つ。
美桜は見た目が細く、顔色も良くなかったので恐らくネグレクトによる栄養失調ではないかと千沙子達は推測したので、おやつでもかぼちゃ蒸しパンなど栄養重視にしたメニューを組んでいた。
皆、美桜のために動いているのに、自分は役に立てていない。初日からつまづいた気分だ。
「はあ、そうなんだけどつまらないなあ」
「こんにちはー!」
頭の上で絶妙なバランスでボールをキープしていると、美桜とは別の子供の声が聞こえてきた。
ボールを足元へ下ろしてからすみれが振り向くと、ランドセル姿の学校帰りと一目でわかる少年が立っていた。あれは、確かこないだの食育イベントで美桜を笑っていた坂本君という少年だ。わざわざ美桜を笑いに来たのだろうか。
場合によっては懲らしめないとと身構えた瞬間、予想外の会話が展開された。
「あ、いたいた。じいちゃん、会いに来たよ」
「おう、優太か。こないだのイベント以来だな。父ちゃんや母ちゃんにはちゃんと言ってここに来たのか」
「ううん、母ちゃんが知ると不機嫌になるから内緒。友達の家に行くと言ってきた」
「そっか。ま、ズブ濡れだからタオル貸すから拭け」
「健さん、この子はもしかして孫かい?」
「おう、優太という。わしの趣味を理解してくれる孫だ」
「こんにちは……孫の優太です。って、なんで池内がここにいるんだ?」
優太が不思議そうに美桜を眺めるが、健三が先に牽制した。
「居ちゃ悪いのか? いやあ、まさか、俺の自慢の孫が悪口とかいじめとかしているとは思わないけどなあ。そういやあ、食育イベントの時、美桜ちゃんに何か言ってた気がするが気のせいかなあ。そうだ、俺の特製リンゴジュース飲むか?」
「い、い、いい、いや、ななな、何でもないです。気のせいです。苑の中に、に、じょ、女子がいたからビックリしただけ」
「そうか、そうか」
健三は満足げにダンベルを置いて、力こぶを優太に見せるように作った。
すみれがそっと千沙子に耳打ちする。
「千沙子さん、健さん特製のジュースって?」
「ああ、リンゴを手で握りつぶすことですよ」
「そ、そうかい。あの年でそんな握力あるのかい」
「そういえば、すみれさんにはまだ紹介してなかったな。こないだはタケノコ掘りで忙しかったし」
「いつぞや言ってたブービートラップに引っかかった息子の嫁さんの話に出てきた『喜んでいた孫』ってこの子のことかい?」
「おう、わしの一番の理解者だ。武器の知識やトラップなどはわし仕込みだ」
「はい! 将来は自衛隊に入りたいです!」
優太は目を輝かせている。この祖父にしてこの孫があり、というところか。そういえば、美桜が来た後にトラップを再び仕掛けたはずなのに静かに入ってきたところからして解除して入ってきたのだろう。
「あ、だからこの部屋になんなく入ってこれたのはそのためかい」
「うん、じいちゃんのトラップなら大体わかるから解除できる!」
「いやあ、頼もしいなあ」
「そ、そうかい」
「あらあら、賑やかになったわね。おやつなら沢山作っているから優太君も食べていきなさい」
「やったー!」
こうして即席の子ども映画上映会おやつ付きが始まり、和やかに時が過ぎた。
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