第六話 新人物
第六話 新人物
穆炎:「いままで、あなたを騙したことがあるか?」
それを言い終わると、穆炎は目を閉じ呪文を唱え始めた。穆炎の深沈な声に伴い、千守の目の前のすべてが、見えなくなるまで徐々に霧に覆われるようになった。
千守は手をのばし何か触ろうとしたが、目の前にあるはずだったソファーがなんと消えてしまった!
雲知の夢の中
千守:「わたし。。。もう雲知の夢の中にいるのか!!?」数秒後、濃霧が消え、千守はようやく目の前にある情景がはっきり見えるようになった。古代の鎧を着た、血だらけの少年は近くの部屋からあたふたと出てきて、まっすぐ千守に向かって駆けてきた。千守は一瞬、どきっとした。その少年は別人ではなく、正に千守自身だ。この鎧を着た自分は、まっすぐ駆けてきた。
千守はぼうっとして、何も反応する暇もないうちに、その人は風のように自分とすれ違って駆けていった。
千守:「これはどういうこと!!?あなたが作ったの?彼はわたしたちが見えない?!」
千守は穆炎を眺めた。「それに。。。。古代に行ってcosplayする必要があるか?!!」
穆炎は驚きながら、振り返ってもう一人の千守が遠ざかっていくのを眺めていた。彼はぱっと悟ったようで、千守を引っ張ってきて、「わたしたちははやく行こう。。。はやく隠れて!」
千守:「どうして?これはあなたが作った夢じゃない?どうして隠れるの?」
答える暇もなく、穆炎はまわりを見渡したら、庭の隅の壁のそばに一本の木が目に入ったので、さっさと千守の手を引いてそっちに駆けていった。
穆炎:「わたしたち、彼女の夢の中にいる!」
千守:「なに!?」
千守がまだ言い終わらないうちに、同じ漢時代のロングスカートをはいた雲知は、同じく血だらけになってその部屋から出て、少年が逃げた方向に向かって追いかけていた。
千守と穆炎は木の下に立って、雲知が目の前から駆けていったのをぼんやり眺めていた。
穆炎:「その1粒の風邪薬が彼女には効きすぎたかもしれない。だから、彼女はいま、深い眠りに陥っているの!そのため、わたしたちは彼女の夢に落ちた!」
千守:「じゃ。。。。さっきあの人にはなぜわたしたちが見えないか?」
穆炎:「彼女の夢にあるから。彼女以外のすべての人はみな、虚無なものだった。さっきのもう一人のあなたは彼女の夢の中の映像で、自主的意識がないので、彼はわたしたちが見えないわけだ。」
千守:「なるほど。。。雲知はまさか古代の夢を見たとは!わたしはあの鎧を着て本当にかっこいい!雲知も古代の服装を着て、とても美しい!!」と千守は急に相好を崩した。「ほら、やっぱり彼女の心にはわたしがあるのだ。あるのだ!」
穆炎:「だけど。。。」穆炎は心配している顔をしていた。「彼の身についた血の跡と逃げた様子に気づいたか?!絶対いいことをしてなかった。雲知が追いかけていた様子からみると、ええと、あなたに優しくしているようには見えない。」
千守:「これは。。。聞かなきゃ。」そう言われると、千守はその木から飛び出た。
穆炎:「何をやっている!!?」穆炎は彼をつかんだ。
千守:「雲知はその人とどうなったか見に行くから。」
穆炎は目を閉じた。「あなたはそそっかしい人だから、万が一夢にいる雲知に現代のあなたが見られたら、どうなるか考えなさい。二人の千守と同時に話すか!!?」
千守:「そんなことはない。。。絶対気をつけるから!」千守は穆炎から抜け出して、追いかけようとした。
穆炎はやむを得ず千守の前に立ちはだかって、「わたしは法力をもっているので、いつでも例外なく臨機応変に対応できる。でも、一番大切なのは、わたしは、現実に戻って、見たすべてをあなたの目の前に再現できること。」
「まあ、いいか。」と千守は諦めた。
穆炎:「あなたはここに残って、わたしの帰りを待ってくれ。わたしたちはまだ12分ある。」
穆炎はこう言いながら、二人の胸の前にあるカウントダウン時計をちらっと見た。後12分18秒。
それから、穆炎は振り返って雲知が駆けた前方に向かって追いかけていった。
千守は穆炎の遠ざかっていく後ろ姿を視線から見えなくなるまで見届けた。
「彼女はどんな夢を見たか?わたしはその部屋の中で何をしていた?!」千守は電気がこうこうとついていた部屋に向かって、しばらくぼんやりとしていた。ふとその明りに赴くことに決心がついた。
部屋に入ってまず目に入ったのは、真ん中にある四角い茶卓、その左右にある二つの太師椅(注釈:
)、またそれぞれ一方側に並べられた2列の椅子。ここが応接間に違いない。
左側にある木の透かし彫りのアーチはとても美しい。千守は一歩一歩深くまで歩いていった。部屋の中は灯かりが揺らめいていた。ここが書斎だ。部屋の壁全体には本棚と書簡ばかり、机の後ろに嵌められている。そうだ。間違いない。壁全体には書簡ばかり。
千守:「これは書簡だ!雲知の頭には何が詰め込まれているか。。。古代の本を読み過ぎたか?」
目の前の大きな机の上を見ると、文房四宝はいずれも優雅で典型なものだ。持ち主はいい趣味があることがわかる。
「つまり。。。雲知の目がいい?」千守は心の中で思った。
右側の壁を見ると、一つの地図がかけられている。千守は頭をあげじっくり見ていた。形状からみると、勿論いまの中国の地図ほど大きくない。どうも千年前の地図のようで、歴史教科書で見た唐の時代の地図よりずいぶん小さい。
千守:「これ。。。。。どうも唐の時代以前のもののようだね。いつの時代だったかなあ。なるほど雲知は古代が好きだよね。」千守はますます雲知に感心するようにった。千守はこう考えているうちに、何かを踏んだような気がして、思わず頭をさげて見た。
千守:「あら!あら!」この時、千守の足もとの床に血だらけだった。古代の長い服を着ている少年は血の中で横になっていた。千守は腰を曲げ近寄って見ると、その少年は眉目秀麗で、確かに美少年だった。
千守は思わず見惚れてしまった。
千守:「このような美しい人は、初めて見た!雲知の夢の中で見るとは思わなかった。ちくしょう、雲知はいつこの美しい人を知り合ったか!!?まさか、自分が作った?」
千守は何の理由もなしに憤っていた。
これと同時に、穆炎は雲知に追いかけ、庭の門を通り抜けて、前にもう一つの庭があることに気付いた。両側にある部屋はみな、耳房(注釈:(母家)の両端に建てられたやや低い部屋)で、前の庭のようだ。
庭の中に護衛6,7人がばらばらに倒れて、体には傷跡がついて、血も止まっていなかった。雲知と鎧を着ている千守は相次ぎ前の庭の東門を通り抜けた。穆炎も躊躇せず、後ろにくっついていた。
東側のアーク門の中に小さな庭があったが、袋小路だった。その他、道が通じなかった。鎧を着ている千守は壁までまだ数メートルのところで飛びあがって、壁の外に飛んでいった。後ろにくっついた雲知は残され、壁をぼんやり眺めるしかなかった。穆炎はこの情景をみると、すぐ目を閉じて、壁を通りぬけていった。しかし、壁の外には人影もひとつもなく、濃霧だけだった。
穆炎:「そうか。これは雲知の夢だ。彼女は壁の内側にいたので、当然、そこまでしか夢を見ることができなかった。だから、壁の外側には当然何もなかった。」
12分がはやく過ぎていた。離れなければならない時まで後20秒あった。
穆炎は汗だらけになって、もとの場所に走り戻って、千守が書斎の部屋の敷居に座ってぼうっとしていたのを遠くから眺めていた。
穆炎は「千守!わたしたちは帰る!」と叫んだ。
千守は見上げ、穆炎のこの様子を見て、大変びっくりした。「なんで走ってきたか?宇宙で匹敵するものないといわれるテレポーテーションは?」
穆炎はすたすたと千守のそばに歩いて、喘ぎながら「わたしたちは雲知の夢の中にいるじゃない!いいかい?道を知るわけがない。」
千守は何も言えなくなった。
穆炎:「なぜここに座ったの?中に入って見た?」穆炎は千守の顔色が悪いのに気付いた。
千守は頷いて苦笑いして、後ろを指差した。
穆炎は何も言わず、まっすぐ中に入り込んだ。この時、カウントダウン時計は、5、4、3、2と輝いていた。
穆炎は離れる寸前に、血の中に倒れた少年を見た。
李雲知の応接間にて、穆炎と千守は同時に目を開けた。
現実に戻って、意識が戻った二人は、顔を見合わせた。疑問ばかり残った。
穆炎:「床に倒れたあの人、知っている?」
千守:「知らない。。。見たことがない。」千守は頭を横に振った。
「。。。。。。」穆炎はもともと何か新たなことがあったかと期待していたのに、この答えにはちょっとがっかりしたようだ。それでも、穆炎は「惜しいなあ。あの人は本当に美男子だった!」と心から感慨深そうに言った。
千守はこれを聞くと、思わず穆炎に白目をむいた。
穆炎:「でもね。彼は最近のスターにも見えないね。新しくデビューしたスターか?」
穆炎は千守の白目を無視して、言い続けた。
千守はその少年の顔を思い出し、思わずため息をついた。そして、熟睡していた雲知を眺めて、ぼうっとしていた。「雲知はそんな男らしくない可愛い人が好きなのか」
突然、雲知の家の大きな時計がゴ―ン、ゴ―ン、ゴ―ンと鳴り始めた。千守は見上げて、もう6時だ。
これと同時に、門の外から鍵でドアを開ける音がして、おそらく雲知のお父さんとお母さんが帰ってきたかもしれない。門がギシと開かれる音がして、穆炎は応接間の外の正門を眺めた。一瞬、穆炎は金色の瞳を急に大きくした。そばにいた千守は穆炎のこの様子を見て、興味が湧いてきて、穆炎に近寄って一斉に応接間外の正門を眺めた。そうすると、彼はわかった。二人は石像みたいに、応接間にそのままじっとしていた。
来たのは。。。。。別人ではなく、さきほど雲知の夢の中で、二人がこの目で見た、血の中に倒れた美男子だった!一瞬、穆炎と千守二人は肩を並べて、何も考えられないほど驚いた。
穆炎:「彼を知らない?」穆炎は目を細めた。
千守:「はい。」千守は頷いた。
穆炎:「まさかあなたの1/3の魂に彼がいるか?」穆炎は首を傾げた。
二人が話しているうちに、その少年はかばんを背負って門に入り、靴を換えて、まっすぐ応接間に向かって歩いてきた。千守は思わず一歩後ずさりしてしまった。
穆炎:「隠れる必要はない。彼はわたしたちが見えないから。」穆炎は注意した。
千守:「そうだね。」千守はよく、自分が鬼であったことを忘れてしまう。
「ちょっと待って。だけど、彼はなぜ雲知の家の鍵を持っているか!!!?」と千守はふと驚いた。
穆炎は何も言わなかった。穆炎は世間をよく知らないが、家のドアを開ける鍵なんかは、妖怪でも、勝手に他の人には渡さないことを知っている。
穆炎:「身内かなあ?」
千守:「まさかものを盗みに来たやつか!?穆炎、わたしたちは止めなきゃ!」千守はぶつぶつ言いながら穆炎の袖を引っ張った。
穆炎:「こんなかっこいい泥棒がいるか?そして、彼はなぜ靴を換えたか?」穆炎は眉をつりあげた。この時、その少年は応接間に入って、ソファーに横になって昏睡していた雲知を見た。
少年:「え?~」彼はソファーに近づき、「雲知?雲知!。。。。。」と叫んだ。
穆炎は頷いて、千守に手を振った。「彼は雲知の夢の中に現れたことは、きっとお互いに十分知っていることを説明できる。こいつはなぜ鍵を持っているかわからないが、もし万が一何か悪いことでもしたら、わたしは必ず手を出すから、ご安心ください。彼女はわが蔡家族の奥様だから!」
千守は口を歪めて、白目をむいた。穆炎はさすが我が家を守る忠誠を尽くす神様だ。
少年、雲知が何も返事せず、ぐうぐう寝るばかりしているのを見て、「なんでこんなに早くねちゃったか?病気?ねえ!ねえ!李雲知、あなたはソファーに寝ちゃったら、風邪を引くぞ!はやく起きろ!!」と責めながら、手を伸ばして雲知を押そうとした。
雲知は相変わらず動かなかった。その少年はため息をついてコ―トを脱いで雲知の体にかぶせた。
少年:「昨日、お父さんが持ち帰ったフランスの赤ワインをこいつが我慢できず飲んだか?この小娘!」少年は言い終わると、台所に見に行ったら、1/3しか飲まれなかった白ワインが床に置かれていたのを見た。
少年:「なんだ、これは!!?これぐらいしか飲んでなかったのに、もう倒れた?そんなわけはないなあ!!まさか、熱でもあったのか!!?」その少年は困惑した顔をしていた。
この時、そばに立っている穆炎は、ちょっと声を出して笑った。「この方は、雲知のことを知り尽くしている。また、お父さんと呼んでいる。この方はどうも。。。。」
千守:「雲知のお兄ちゃん!!?」千守の口はO型になって、驚いた。穆炎は眉をつりあげた。
千守:「だけど、わたしはなぜ雲知にお兄ちゃんがいることを覚えてないか!!?」千守は続いて協調した。
穆炎:「雲知と本当に幼馴染か!?」
千守:「間違いない。わたしたちは目を開けてなかった時に、知り合ったはずだ!」千守は空に向かって誓った。しかし、つぎに発生したことは、穆炎の推測を裏付けた。
屋外の廊下に、一つの足音が少しずつ近づいているように聞こえた。千守は急に言うのを止め、耳を傾けた。
その足取りは門の前に止まり、ドアノブが1周回され、また1周回されて、ガタという音がしてドアが開かれた。ブリーフケースを持った中年のおじさんが入ってきた。穆炎の金色の瞳は一瞬、褐色に変わってしまった。
少年:「お父さん!」その少年は頭をあげた。
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