チェンジリング ー集団交換ー

大鴉八咫

ーーー1ーーー

 菊池雄太は困惑していた。

 

 ここに至ってはもうどうすることもできない、後は時間が過ぎるのを待ち自分の番が来るのを待つだけとなった今、この現象の全体像を考えてみた。

 改めて考えると綻びは一か月前の事だったと思う。周囲には分からないように少しずつそれは進行していたのだろう。少しずつ、少しずつ、しかし周りにはそれと気が付かないように徐々に。そして気が付くともう取り返しのつかない事態まで発展している。

 思い返すと違和感と言うか、おかしなことは色々あった。それを一つの事象として捉える事が出来なかった。雄太が気が付いたのはほんの些細な偶然からだったが、もうその時点ではどうすることもできなかった。もっとも最初から知っていたとして、小学六年生の雄太に何かできるはずも無かったのだが。


 時間は一月前に遡る。



 *


 その日、クラスでインフルエンザの集団感染が起こった。運よく雄太は感染しなかったが、クラス内の感染者数が十名、クラスの三分の一が罹患するという事態に、学校側は緊急的に学級閉鎖の措置を取った。

 月曜にインフルエンザの大量罹患が発覚、その日の午前中に学級閉鎖が決定しそのまま下校。翌火曜日から金曜日までの四日間が閉鎖期間となった。つまりインフルエンザにかかって居ない生徒にとっては突然訪れた六連休である。

 臨時のホームルームにて担任の教師は淡々とその事実をクラスの生徒たちに告げた。もちろん遊び盛りの子供の事である、唐突に訪れた六連休に歓喜した。

 騒然とする教室を見回し、教師は分からないようにため息をつくと生徒達に告げる。

 

「いいか、これは本来は学業に使わないといけない時間だ。学級閉鎖中の四日間は外出を控え、今までの勉強の復習と予習をしっかりとするように。特に外出は新たにインフルエンザにかかる危険性もあるから禁止とする」

 

 担任の言葉に不平不満を言う生徒達、しかしながらそれを撤回することはもちろん無く、淡々と事務案内を続け臨時のホームルームを終了した。最後にすでに親への連絡は済ませてある事を事実として付け加えた。


 担任からそうは言われても生徒たちは浮足立った感じでそれぞれ帰宅の途に就いた。

 雄太も勿論特に体調の不良があるわけでは無いため、今回の突発的な連休に対し喜びこそすれ、授業が遅れる等の不安は一切感じていなかった。多少インフルエンザで休んでいる友達には悪いとは思ったが、それくらいである。

 学級閉鎖が決まった月曜日の下校時、雄太は親しい仲間で集まって遊びに行く約束をした。昼食後、とりあえず近くの公園に集合となりそれぞれの家へ帰っていった。


 家に帰ると少し家庭内の様子が違うように思えた。晴れた日にも関わらず、家の中には若干薄暗さが有った。

 父親は仕事で、高校生の兄も学校に行っており家には居なかった。母親はお昼の準備を進めているのか、キッチンから料理をする音が聞こえてくる。普段平日のこの時間には家に居る事が無いからこういうものなんだろうと思い、雄太はキッチンに居る母親に帰宅を告げる。

 

「ただいまー」


 しかしキッチンに居るはずの母親からの反応は無かった。

 突然の帰宅に驚いているのだろう、そう思った雄太はもう一度キッチンに向けて帰宅を告げる。

 

「ただいまー、今日クラスが学級閉鎖になっちゃって帰ってきたよー」


 靴を脱ぎながら玄関を上がりリビングに入る。母親からの反応はまだない。

 もしかして少し席を外していてキッチンに居ないのだろうかと思い、リビングとキッチンを仕切る暖簾をくぐり、中を覗き込む。

 ガスコンロに向かいフライパンを振る母親がそこに居た。母親はしかしこちらに気が付くことなく正面向きフライパンを振るという同じ動作を繰り返していた。

 その後ろ姿に空恐ろしい感じを受ける。


「おかーさん?」


 再び母親に声を掛けると、彼女はゆっくりと振り返り生気の無い目で雄太を見下ろす。それは数秒の事だったが、確かに雄太は無表情の母親を見た。


「あら、雄太帰ってきたら、ただいまくらい言いなさい」


 ふと正気を取り戻したように瞬きをすると、母親は何事も無い様に雄太に声を掛けた。


「どうしたの?」


 目を丸くさせて驚く雄太の姿を見て、母親は首を傾げる。


「いや、なんでもない。ただいまも言ったよ」

「そう? ごめんなさい、お昼ご飯作るのに夢中で気が付かなかったかもしれない。学級閉鎖なんだって、大変ね」


 とてもそうは見えなかったが、雄太はすべて気のせいと言う事で納得し何も言わなかった。


「それよりご飯何、お腹空いたよ!」

「今日は焼きそばよ」


 じゅうじゅうと音を立て、ソースの匂いを漂わせたフライパンの中身は焼きそばだった。二つの皿に盛り、最後に目玉焼きを乗せて完成した料理を雄太は食卓に持っていく。後から麦茶を持って母親もやってくる。


「インフルエンザで十人も休んだんだって、学校から連絡がきてびっくりしたわ」

「そうなんだよ、それで今週休みになった」


 少し焦げたような焼きそばを頬張りながら雄太が答える。


「お友達休んでた?」

「んー、健治と翔太が休んでたかな」


 目玉焼きの黄身をつぶして焼きそばと混ぜる。雄太の一番好きな焼きそばの食べ方だった。ちなみに屋台の焼きそばはこういった食べ方ができないから、あまり好きではなかった。


「へー、健治君と翔太君がねー。悪ガキ二人もインフルエンザには勝てなかったか」


 健治と翔太はクラスの中心的な存在だ。一昔前ならガキ大将と呼ばれてても可笑しくない存在で、クラス内でも良くトラブルを起こしていた。雄太は二人とは親友と言う間柄では無かったが、それでも偶に一緒に遊ぶ程度には仲が良かった。

 鬼の霍乱とでもいうのか、そんな二人が揃ってダウンしている事はクラス内でも少し話題にでた。まあ、いつも一緒にいた二人なので、どちらが掛かればどちらかに移すという循環になっているのだろう。

 そう言えば、と思い出す。今回インフルエンザで休んだのは、健治と翔太グループと仲の良い人達が多かった気もする。何となく集団感染の原因が分かったような気がする。恐らく週末に健治と翔太グループの誰かがインフルエンザだったのを隠して無理をして遊んだのだろう。

 週末はたまたまあのグループと遊ぶ約束が無くて良かった。そうじゃなければ、こっちもインフルエンザに罹って休日を無為に過ごすことになった。そうほくそ笑みながら残りの焼きそばを掻っ込んだ。

 

「午後から遊びに行ってくるね!」


 最後に麦茶で焼きそばを流し込みながら、いつもの通り母親に声を掛けた。


「駄目よっ!」


 それは温厚な母親には珍しく、普段では聞くことが無いような強い口調での否定だった。


「学校から言われてるでしょ、この休みは遊ぶためのものじゃないの。大人しく部屋で勉強しなさい」

「えっ、でももう約束しちゃったし…」


 あまりの勢いに、しどろもどろになりながら、母親の様子をうかがう。


「駄目よ。それに他の子も勉強するから遊びには出ないわよ。学校からそう言われてるんだから」


 ちょうどその時タイミングよく電話が掛かってきた。母親がパタパタとスリッパを鳴らして電話を取りに行く。

 本当ならこのタイミングで家を抜け出したかったが、電話が丁度リビングから玄関へ出る扉付近にあるため、見つからないように抜け出すのは難しかった。どうにかして家を出れないかと考えていると、母親から呼び出される。

 

「武人君から電話よ」


 今日遊ぶ約束をしていた同じクラスの武人だった。武人とは小学三年生の頃から同じクラスで、多分お互いがお互いを一番の友達だろうと認識していた。


「たけちゃんどうした?」

「ゴメン雄太。今日遊べなくなったわ」

「えっ、なんで」

「親に止められた。それでも遊びに行こうとしたらこっぴどく叱られて、今月のおこずかい無しって言われちまった」


 どうやら武人も親に止められたらしい。どこの親も同じような事を考える。


「さっき、俺んとこに電話あったけど、よーちんもダメだってよ」

「よーちんもかよ。よーちんも親に止められた?」

「そうみたい。雄太んとこは大丈夫なの?」

「いや、うちもダメだって言われた。どうにかして突破できないか考えてた」

「それなら今日の集まりは止めるか。健斗には俺から伝えておくわ」

「そうか、わかった。明日とかどうする?」

「この調子じゃ、明日とかも無理そうだな。また連絡するわ」


 そう言うと武人は電話を切った。がっかりしながら受話器を置くと、後ろに母親が立っていた。


「武人君なんだって?」


 予想以上に近くにいたため、びくっと体を震わせて振り返る。


「ああ、今日遊べなくなったって連絡だった」

「でしょう、武人君もそうなんだから、雄太も部屋で勉強でもしなさい」

「はーい」


 冷静を装って部屋に向かう。仕方がないから、今日は勉強する振りをしながらゲームでもやって居よう。

 夕食時に学級閉鎖の話をすると、兄から随分羨ましがられた。父親と母親はきちんと勉強するんだぞ、と定型のお小言を言ってくるのは辟易したが、兄の悔しそうな顔を見れたので満足な夕食だった。


 その日の夜中、日中をゲームと昼寝に費やしたせいかなかなか寝付けなかった。少し喉が渇いたので仕方なく一階のキッチンで何か飲もうと部屋を出る。兄の部屋はすでに電気が消えていたため、音を立てないようにそっと階段を降りる。

 両親はまだ起きていたのかリビングに明かりが灯っていた。音を立てないよう、リビングの扉に近づき聞き耳を立てる。

 ぼそぼそと話す二人の会話はうまく聞き取れなかったが、断片断片として、

 雄太が…、

 学校が…、

 健治君と翔太君が…

 と言った声が聞こえてきた。

 今回のインフルエンザによる学級閉鎖の話をしているのだろうか。このままキッチンまで行っても良かったのだが、どういうわけか二人に自分が話を聞いている事を気が付かれることがたまらなく嫌だった。キッチンに行く事は諦め、仕方なく自分の部屋に戻る。

 

 戻る際に最後に聞こえた声は、「とりかえっこ…」と言う何やら良く分からない単語だった。

 結局その日は一日家から出なかった。



 *


 金曜日、菊池雄太は母親に連れられて病院に来ていた。

 風邪の時にいつも行く地元の個人病院ではなく、市内の総合病院だった。


「なんで病院に行かないといけないんだよー」

「あなたがインフルエンザか確認するための検査なんだから我慢しなさい」


 待合室でぶーたれる。広い待合室は結構な人数の患者が診察の順番を待っていた。主に老人が多いが、中には雄太と同い年、小中学生くらいの子供も何人か見受けられる。

 白いリノリウムの床に、消毒液の匂い。待合室に居る患者は誰も彼も暗い顔をして大人しく席に付いている。雄太は病院のこの雰囲気が嫌いだった。自分まで暗くなって落ち込んでしまう。負の空気が蔓延していると思っている。

 

「病院なら近所の病院で良いじゃないか」

「インフルエンザの検査はこっちじゃないといけないの。大きい病院の方がちゃんと検査してくれるんだから」


 良く分からない理由を述べられて無理やり納得させられる。とてもじゃないが納得できなかったが、逆らうとまた五月蠅そうなので黙っている事にした。

 ぷらぷらと足を揺らし、見る事も無く辺りを見回す。待合室の隅のテレビはつまらないワイドショーを映し、つい一月前から起こっている猟奇殺人のニュースを流している。ここから三つ駅を行った場所で最初の犯行が有ったらしく、現在三人の被害者がでていまだ犯人は見つかっていない。最初の犠牲者が見つかった地域の名前を取って、T島町猟奇殺人事件として最近のニュースを賑わしている。

 最初こそ学校でも通学時、帰宅時は気を付けるようにとの業務指導が出ていたが、犯行場所がどんどんと離れていくにしたがって、そう言った警戒は無くなっていった。


「いやね、まだ犯人捕まらないのかしら」


 母親もテレビを見ていたのか、ぶつぶつと文句を言っている。

 結構な人数が居る待合室だったが、驚くほど静かだった。おしゃべりをしている人は誰もおらず、テレビの音と、病院職員の事務的な応対しか聞こえてこない。後は新聞雑誌を捲る音、衣擦れの音などが聞こえてくる。大半の人はスマホを見るか新聞雑誌を見ており、テレビを見ているのは少数だった。

 

「菊池さん、菊池雄太さん」


 事務的な冷たい声で名前が呼ばれる。待合室に居る事に息苦しさを感じてきたタイミングで雄太の順番が回ってきた。

 待合室からほど近い診察室に通されると思っていたら、思いのほか遠いところまで連れていかれた。診察室のあるブロックの最奥にある部屋だった。

 中に入ると初老の医師と若い看護師が一人待っていた。医師は机に乗せられたカルテを覗き込みうんうんと頷いている。看護師の方は雄太に気が付くと、医師の目の前の席に座るように即した。

 

「菊池、雄太さんね。小学六年生。今日はインフルエンザの検査に来たのね」

「はい、よろしくお願いいたします」


 雄太の後ろに立つ母親が応対する。

 その後通り一遍の検査を受ける。聴診器を当て、体温を測り、喉を観察し、綿棒で鼻の奥に突っ込まれる。

 

「それじゃ、血液検査もするから、検査ルームに行って貰えるかな。案内してあげて。あ、お母さんは残ってください、少し話が有ります」


 傍らの看護師に指示を出す。指示を受けた看護師はにこやかに笑うと、雄太を連れて外に出た。

 母親は医師に言われた通りその場にとどまった。

 

「インフルエンザの検査で血採らないといけないの?」

「そうねー、今日はお母さんから精密検査をしてくださいって言われてるから。ただのインフルエンザの検査じゃ採らないかな」


 隣を歩く看護師に問いかけると、予想外の回答が返ってきた。

 

「精密検査?」

「あれ、聞いてないの?」

「インフルエンザの検査って事しか聞いてない」


 看護師さんは不思議そうな顔をして首を傾けた。


「そっか、でもこの機会にちゃんと検査してもらって健康だってことを証明しよう!」


 看護師に華の様な笑顔で笑いかけられ、雄太は照れた表情を浮かべてうつむく。


「うん、そうする」


 二人はそのまま採血ルームへ行くとそこで採血して貰う。

 雄太は太い注射の針をできるだけ見ないようにそっぽを向く。採血されるのとは逆の震える手を付き添ってくれた看護師が握ってくれたため、何とか我慢することができた。良く分からない試験管の様なモノで三本分血液を搾り取られる。

 採血の終わりを告げられ、針の後を脱脂綿で押さえながら立ち上がろうとすると少しふらついた。


「あらあら、貧血かな」


 付き添いの看護師に支えられ採血ルームを出ると、目の前の椅子に座らされる。

 

「五分間その脱脂綿離さないでね。ちょっと席外すけど、すぐ帰ってくるから、そうしたらお姉さんが絆創膏貼ってあげるね」


 ひらひらと手を振りながら看護師が去って行った。ジンジンと痛む針跡を脱脂綿で押さえながら暫く待つことにする。

 すると同じく採血後なのだろうか、老婆が片腕を抑えながら雄太の隣の席に座った。老婆は雄太の方を向きニッコリとほほ笑むと口を開く。

 

「あなたも、×*#&え%Bの検査なの?」

「えっ、何ですか?」


 ニコニコと穏やかにほほ笑む老婆の言葉が聞き取れなかった。


「×*#&え%Bの検査なんでしょ? お互い大変よねえ。私も×*#&え%Bの検査なんだけどね、もう毎回毎回嫌になっちゃうのよ」


 訛りがあるとか活舌が悪い等の問題ではなく、老婆が何を言っているのか聞き取れなかった。

 

「だって見えないでしょ、見えないものを見ようなんてどうやるのかしらね。色々と取り替えられちゃって、どれが本当か分からないじゃない」

「あ、あの…」


 雄太は言葉を挟むことができず、老婆が話す言葉を聞く以外に術が無かった。色々と訳の分からない事をまくし立てる老婆に対して適当な相槌を打つのも心苦しくなってきたころ、唐突に老婆担当なのであろう看護師がこちらに小走りでやってくる。

 

「なつさん、こんな所に居たの。だめでしょ隣の人に迷惑かけちゃ。採血終わったらすぐに先生の所に来てっていったでしょ」


 看護師はなつと呼ばれた老婆の腕を取ると椅子から立たせる。


「ごめんなさいね、色々と言われてびっくりしちゃったでしょ」


 看護師は雄太の方を見ると謝ってきた。そしてそっと耳元に顔を寄せて、「ちょっとぼけちゃってるから、何言ってても気にしないでね」と言うと、老婆の腕を取り去って行った。

 台風の様に現れて去って行った老婆に圧倒されて、危うく腕に押し付けていた脱脂綿を落としそうになる。慌てて押し付けなおした時、付き添いの看護師が戻ってきた。

 

「ゴメンね、遅くなっちゃった。ん、どうかした?」


 こちらの様子に気が付いたのか、心配そうに顔を覗き込んでくる。突然近くに顔が寄ってきたことにドキドキしながら、なんでもないよとそっぽを向く。


「どうしたのよ、もう」


 そんな雄太の態度に不満そうにしながら、看護師は雄太の手を取り針跡の部分に絆創膏を貼り付ける。雄太はされるがままになりながら、少し石鹸の様な心地よい匂いを漂わせる看護師にドキドキと胸を高鳴らせていた。

 

「それじゃ、行こうか」


 その後幾つかの検査を看護師に付き添われながら受診させられた。ようやく検査が終わり、診察室に帰る際も彼女に付き添われながら戻っていった。いくつかの検査を行ううちに、いつの間にか貧血のような不快感は無くなっていた。

 

 診察室に戻ると、ちょうど医師と母親の話も終わったところだったらしい。

 医師はコチラを一瞥すると、もう今日は終わりであることを告げた。


「それじゃ、検査結果は後日分かり次第お伝えしますね。病院からお電話掛けますので、日程はその時にお知らせします」


 事務的に今後のスケジュールを告げ、何やらカルテにのたうつような文字で書き記すと、終わりとばかりにそのカルテを看護師に渡す。それを合図にするかのように母親と雄太は診察室を出てまた最初の待合室に戻った。


「これで終わり? 遊びに行っていい?」

「駄目、学級閉鎖は今日までなんだから我慢しなさい。土日は遊びに行っていいから」

「ちえー」


 不満顔で席に付く雄太。ふと入口付近を見るとさっきの老婆が家族らしい人に付き添われながら外に出ていくところだった。老婆は先ほどとは違って大人しく連れていかれるだけだった。


「雄太、行くわよ」


 気が付くと、会計が終わったのか母親が目の前に立っていた。うん、と頷き改めて入口に向かうともうあの老婆の姿はそこに居なかった。


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