第28話 新しい武器を求めて

 扉を叩く音がする、その音がだんだん大きくなってきた所で俺は目を覚ました。布団をかぶり耳をふさぐ。


「昨日飲み過ぎたんだからよぉ……もう少し寝かせてくれよ……」


 扉が開き誰か部屋に入って来て、布団の上から俺にまたがった。


「お兄ちゃん! もうお昼前だよ、もう起きてよ。リリアお姉ちゃん達が話したい事があるんだって、下の食堂で待ってるってさ!」


 しかめっ面のシーブルは、俺の身体を激しくゆする。俺はウンザリしながら気だるい声を出す。


「わかったわかった、もう少し優しく起こせねぇのかよ? シーブルお前、キャラ変わり過ぎだろ」


「いいから早く起きて!」


 俺はシーブルに急かされて、あくびを一つしてから仕方なく布団から出る。

 シーブルを先にリリア達の所に向かわせてから、着替えをして部屋を出て食堂に向かった。

 扉を開けると、リリアが不機嫌な顔で出迎える。


、ユウシ」


「あ、ああ、何か元気ないなリリア。昨日の反省でもしてるのか?」


 リリアにした質問の答えをキュイールが俺に耳打ちする。


「リリア様は何も覚えていません……ただの二日酔いです」


 リリアは自分の酒癖さけぐせの悪さを理解していなかった……そこが恐ろしい所だ。

 キュイールは何度も頭を叩かれ、裸にされそうになりネイブスも顔が引きつっていた。


 仕方なく酒豪しゅごうである俺が、リリアに飲み勝負を持ちかけて酔いつぶして寝かせる事に成功したが、さすがの俺も飲み過ぎた。


 キュイールがあの不安そうな表情をする理由がやっとわかった。酒が苦手なのではなく、リリアと飲みたくないだけだったのだろう。それも仕方ない、いきなりキュイールに対して説教が始まったが、ろれつが回っていない。何言ってるかわからないと聞き返すと殴られる、話を流せば「聞いてるのか!」と殴られる。かなりめんどくさい。


 キュイールはリリアに強く出れないから、どんどんエスカレートしていって、服を脱がされてる時はさすがに気の毒だったからな。リリアにはあまり酒を飲ませないようにしよう……。


 俺は昨日の様子を思い出して納得していると、リリアは辛そうに頭を抱えている。俺は苦笑いをしながら席に座った。


「大丈夫? お姉ちゃん。しばらくお酒は飲まない方がいいね……」


 リリアの酒癖の悪さを目の当たりにしたシーブルは、隣に座りリリアの頭を撫でているが、顔は少し引きつっている。


「ありがとうシーブル。うぅ……とりあえず今後の事を話さないとね。ここでの目的は達成した訳だし、次に目指すのは――」


 俺はリリアが何を言い出すのか、緊張しながら黙って見守った。同様にキュイールとシーブルも固唾かたずを飲んで見守っている。


 次は、どうするんだ? また加護持ちの仲間を探しに行くのか、それとももう魔王七柱に挑むのか。

 俺は一応リーダーだが形だけだ、こういう事はリリアの判断で決まる。

 そしてリリアはゆっくり口を開く。





「おぇぇ……気持ち悪い」





 全員関西のノリみたいにコケそうになった。


「ったく、そんならもう少し寝てろよ。無理して今そんな話しなくてもいいんじゃねぇの?」


「そうですよ、リリア様。それともうお酒は控えた方がいいですね、


 キュイールが願いを込めて伝えると、シーブルは何度も頷いて同意している。

 恐らくこっちが本音だろう。


「いえ、そんなのんびり出来る旅じゃないからね……おぇ。次は獣人族の王に会いに行こうと思うんだけど……おぇ」


「獣人族の王?」


 俺が首を傾げると、辛そうなリリアに代わってキュイールが補足説明をする。


「獣人族の王『ガルフノーム』は今、魔王七柱のベルフェアと交戦中です。獣人族とは歴史的に色々あって人間嫌いが多いんですよ……さすがに無謀むぼうだと思うんですけど……」


 キュイールは首を傾げて否定的な意見を口にするが、特に気にとめなかった。


「でも共通の敵がいる訳だし悪い話でもねぇだろ、それよりちょっとお願いがあるんだが」


「あらユウシが好戦的じゃないなんて、珍しいわね。むしろ『早く魔王をぶっ倒しに行こう!』とか言う場面なのに……おぇ」


 リリアが無理して発言する。


「まぁそうしたいのはやまやまなんだけど。俺のこの剣さぁ、いつ折れてもおかしくないくらい脆くて、もう少しいい剣が欲しいんだよ」


「まぁ確かにその剣は安物でしたけどね、加護持ちには耐久的に無理があるのは確かです」


 キュイールは一緒に買い物したからよく覚えていた。


「ローセルと戦った時なんだけどさ、あいつの巨大化した氷の剣が振り下ろされて思ったんだよ。この剣じゃ受け止められないって……龍神の加護の判断力なのか知らねぇけど、いつもの俺だったらあのまま剣で受けてた……もしそうしてたらやられてたかもな」




「ベルゼの言ってた『戦いの才能』かぁ」




 心配そうにリリアが呟く。俺がドラゴンを倒した時の事を、思い出しているのだろうか。あの時リリアのは恐怖で濁っていた。あんなのはもう見たくない、龍神の加護に頼らないとなると……安直あんちょくだが『新しい武器』しか思いつかなかった。


「さすがにこいつじゃ心許こころもとない、何か買ってくれ。それかリリアの剣をくれても――」


 俺が最後に冗談を言いかけると、キュイールが割って入る。


「ダメです! それは聖女様にのみ持つ事を許された、由緒正しき聖剣『オートクレール』ですよ! それは絶対ダメです」


「いや冗談だよ、そういやキュイールもよさそうな剣持ってたよな? 使わねぇんだったら――」


「――それも絶対にダメです! これは私の大切な剣ですから!」


 キュイールはさっきよりも大きい声で言った。俺は思わず両手で耳を塞ぐと、周りにいた他の客が驚いてこっちに注目した。


 キュイールが取り乱すように大きな声を出すのは、何か事情があるのかも知れない。とりあえず、理由は聞かずに少し落ち着かせる事にした。


「おい、みんなこっち見てるじゃねぇか。わかったから落ち着けよ、そんな大きい声出すとリリアの頭痛にも響くぜ? それなら何か買ってくれよ。魔王と戦うにしても武器がないとな」


 反省したキュイールは、こっちを見ている客に軽く頭を下げた。


「うーん、そうねぇ……ユウシの龍神の加護に耐えうる剣は確かに必要ね。むしろそっちの方が優先度は高いわ」


 リリアの意見を聞いたキュイールは、少し気まずそうな顔をしてから話し始めた。


「それでは……一旦『聖都せいとラビナス」に戻りましょう、あそこには名工とうたわれた有名な鍛治職人がいると聞きます」


「キュイール! ラビナスには戻らないわよ、あなたの為にも――」


「――いいんです、私の事はひとまず置いておきましょう。一番大切な事は、この世界を魔族から奪い返す事です」


 珍しく、いや初めてかも知れない。キュイールがリリアの意見を聞かなかった。何か訳がありそうだと思ったが深く追求しなかった。


 キュイールの真剣な表情に、リリアは何も言えなくなっていた。シーブルも二人のやり取りを見て何も言わない。

 やがてリリアは不満げに言い放つ。


「わかったキュイール。ラビナスに戻りましょう、そこでユウシに合う剣を見つけてから、獣人族の王に会いに行く。これでいいわね?」


「それでいいぜ、でも出発は明日にしよう。リリアの具合がよくなってからだ」


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