第12話 冷たい眼光

 俺達は声を聞いて一斉に振り向くと、シーブルが俺達を睨みつけ怒りに震えている。


「おい! ちょっと待て。俺達は敵じゃない」


「お前はこの前の加護持ちか!」


 大切な場所に踏み込んだ俺達に対し、敵意をむき出しにしているシーブルは、聞く耳を持たない。


「あのな、俺には瀬川勇史って名前があんだよ。それに女子供に手を出すような真似はしねぇ、だからちょっと落ち着けって」


 シーブルは俺の話を無視し問答無用で氷の加護を発動させた。シーブルの身体が冷気に包まれる。その様子を見たリリアはシーブルに語りかけた。


「シーブル待って、私はリリア・メイデクス。私達はローセルを討つ為に来たのよ」


 予想外の言葉に少し反応を示したシーブルは、訝しげな顔をしてから小馬鹿にするように笑った。その態度に俺は少しだけカチンと来た。

 誰の為にやってると思ってんだよ……まぁ頼まれてないから何も言えないけど。


「リリア・メイデクス? ああ、あなたがあの『』なの……噂通りのバカね」


「何だと氷の魔女め! リリア様に向かってバカとは許されない暴言だ」


 キュイールは顔を真っ赤にしてシーブルの言葉に激しく反論すると、彼女の表情はすぐさま険しいものになった。


「お前さ……俺の後ろに隠れて言ってても説得力ねぇよ?」


 シーブルがここに現れた時から、キュイールは俺の後ろに隠れている。呆れるのを通り越して笑いそうになった。こいつ勢いだけは立派なんだよなぁ、こういうとこは何故か憎めない。本当に不思議だ。


「ローセルに用があるなら、どうしてここにいるの?」


 戦闘態勢せんとうたいせいは解いてくれたが、依然としてシーブルの表情は険しく目は鋭いままだ。


「ローセルの居場所がわかんねぇからな。お前に聞こうと思ってよ、ここに来ればお前に会えるって聞いたんだ。まさかこんなに早く再会出来るとは思わなかったけどな」


 俺の言葉を聞いたシーブルは鼻で笑った。


「バカにはバカが集まるのね。あんた達死にたいの? 命は大切にした方がいいわよ」


「バカはお前だろ? ローセルに尻尾しっぽ振ってる腰抜け野郎じゃねぇか」


 俺は『氷の魔女』の本音を聞き出そうと、あえて挑発してみた。こういうと聞こえはいいが、本当はちょっと言い返したかっただけだ。昨日のささやかな仕返しってとこだ。


「お前に何がわかる!!」


 シーブルは怒声を上げると、リリアは俺を怒鳴りつけた。


「ユウシ! そんな言い方はやめて!」


 純粋なリリアは当然ながらお怒りだ。俺がリリアに怒鳴られると、後ろから『クスッ』とかすかに笑い声が聞こえた。キュイールめ……。


 その時シーブルが出口の方向に振り向き、突然口に人差し指を当てて、ジェスチャーで俺達に静かにするように伝えて来た。


 リリアは小声でシーブルに聞く。


「どうしたの……?」


 シーブルは緊張した面持ちで、小声で答えた。


「外に誰かいる。多分ローセルの部下のバラクってヤツ、あたしを探しにきたのかも。あんた達はここで静かにして隠れてて……いいわね」


 そう言い残して、シーブルは外に出て行った。


 やっぱり悪いヤツじゃないんだな、お仲間の悪魔と俺達を始末するって選択肢もあるのに、何の迷いもなく俺達をかばった。

 このまま隠れてやり過ごしてもいいんだが、それじゃあ話は前に進まない。それならば……。


「なぁ、そのバラクって悪魔やっちまおうぜ。どの道やり合う事になんだろ? それならここで戦力を削った方がいい」


 リリアは俺の提案を聞いて、少し考えてから頷いた。しかしキュイールは案の定嫌そうな顔をしている。


「それってローセルって公爵に対する『宣戦布告せんせんふこく』じゃないですか」


「ああ、そうだ」


 俺とリリアはキュイールを残して家の外に出た。すると翼を生やした少年の姿の悪魔が、シーブルと一緒に空を飛んでいる。


 俺は『すぅー』と思いっきり息を吸い込んだ。


「おい! そこのパタパタお空に飛んでる頭の悪そうな少年。ぶっ倒してやるから降りて来いよ!」


 振り向いて俺の姿を確認したシーブルは、驚きの表情を浮かべている。バラクはこっちを睨み、ゆっくり降りて来て槍を構えた。


んじゃなかったんですかぁ?」


 キュイールが家の入り口から顔を出して、目を細めてイヤミったらしいツッコミを入れる。


「うるせぇな、悪魔は別に決まってんだろ。いいからすっこんでろ」


 俺とキュイールのやり取りを、明らかにイラついた顔つきでバラクは眺めている。


「お前ら何者だ? 何をごちゃごちゃ言ってんだよ、人間のくせに随分と生意気な口の利き方だな。特にそこのおにーさん」


「リリア! 俺がやる。キュイールを守ってやれ」


「ちょっとユウシ! 一人で無茶しないでよ!」


 龍神の加護発動【身体能力上昇】【属性解放】【俊敏上昇】【オートプロテクトフィールド展開】


 シーブルは目を見開いて呟いた。


「ちょっと何よそれ……白い炎……あの男、神炎の加護じゃなかったの? それに潜在魔力量が桁外れじゃない」


 白い炎に包まれた俺は剣を抜き、猛スピードでバラクに飛びかかった。バラクは慌てて俺の剣を槍でガードする。


 やっぱり大した事ないな、これなら一気にカタをつけられそうだ。動きも鈍いし、油断もしてる。


「なっ白い炎? 何の加護か知らないけど、この僕に生意気な口を利いちゃダメだろ!?」


 雷魔法【放雷撃サンダーボルト


 ドレイクスキル【龍神障壁ドレイクウォール


 バラクは電撃を放射状ほうしゃじょうに放った、轟音ごうおんとともに青白い光が空気を伝わって、ピリピリするような感覚がある。しかし龍神障壁ドレイクウォールひろがる雷撃を弾く。リリアはキュイールを連れて雷撃の届かない高い所に避難した。


「バカな!? 僕の魔法が人間に弾かれるだと!」




 ――殺す、息の根を止めてやる。殺さなきゃ、コロス、コロセ。




 まただ――殺意が俺を飲み込んでいく。だめだ、完全に塗りつぶされる前に終わらす!


 俺は思い切り蹴りを食らわせて、バラクを後ろに吹き飛ばした。


「人間ナメ過ぎだ、隙だらけなんだよ」


 ドレイクスキル・龍神斬撃りゅうじんざんげき白炎斬アルバストライク


 腕を通して刀身に白い炎が宿る。


 俺はバラクとの距離を一気に詰めて、ガードしてる槍ごと斬り伏せた。持っていた槍を粉砕し、バラクの身体に刃が届くと血が噴き出した。




 ――さて、次はどこを斬る? このまま首をはねるのも面白くない、もっと痛みを、苦しみを……。



 俺の意識は殺し合いに没頭していく。


「ぐああ! お前……本当に人間か!? 何ぼうっとしてんだ、シーブル。手を貸せよ、このグズ!」


 頭の中が冷たくなっている、完全に見下していた。生き物として見てなかった、命として認識していない。目の前のは何だ?


「くく、おいおい、人間を馬鹿にしてるクセに人間に助けを求めんのかよ」


 シーブルはその光景を見て驚きを隠せない。しかしすぐに降りて来て、バラクに近寄り俺の前に立ちはだかった。その光景を目にした俺は、少し正気を取り戻した。


「よし! シーブル、命がけで僕を守れ! 僕が逃げる時間をかせげ!」


 氷の加護発動【魔法威力上昇】【属性解放】


 身体が冷気に包まれたシーブルは、鋭く冷たい眼光を放ち口角が上がった。

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