第37話 魔導フェスタ8

 ダレンの体を乗っ取った化け物との死闘を終えたマルクトは、目の前の戦闘の影響を見てため息をこぼす。

 マルクトがぶつかることによって破壊された壁、化け物の触手による流れ弾が当たり、割れた窓ガラス、そして、マルクトの最後の一撃で半壊した校舎は今もパラパラと瓦礫が落ちている。

 こうなることがわかっていたから、マルクトも今まで本気を隠していたし、使う気もなかったのだ。

 マルクトは今回の件で起こりうる多額の損害賠償に頭を抱えるのであった。



「お~す、終わったか~?」


 しばらくたってから、マルクトのそんな苦悩を知らないカトウが呑気に声をかけてきた。

 どうやら、先程の攻撃がマルクトによるトドメの一撃であると考え、マルクトの勝利を確信したため戻って来たのだそうだ。

 傍らには、カトウによって完全復活を果たしたエリスとエリナの双子姉妹に、目の前の惨状に呆気にとられたメルランと目元が赤くなっていたアリサ。

 そして、


「……我々はこんな化け物に喧嘩を売っていたのか」


 そう嘆く敵の男(実行部隊副隊長)を含めた全員がマルクトの元に集まっていた。




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 現在は、正午を少し過ぎた時間である。

 これからの方針を決めようと場所をかえようとしたところで、マルクトはエリスに呼び止められた。

 エリスはマルクトに向かって深々と頭を下げた。


「さっきは助けてもらってありがとうございました」


「ん? ……ああ。まぁ、生徒を守るのは教師の役目だからな。むしろお前たちを危険なことに巻き込んでしまってすまなかったな」


 負債のことで頭がいっぱいだったマルクトには、エリスがなんのことを言っているのかわからなかったが、すぐに化け物に襲われた際の件だと気づいた。


「いえ、先生に無理言ってお願いしたのは私達ですから。

 それよりも足を引っ張ってしまってすいませんでした。」


 エリナはそう言ってエリスと同じように頭を下げる。

 彼女はカトウに治療してもらうまで、精神的なショックから気絶していた。

 カトウの治療は俺よりも的確で、双子姉妹も未だに動揺はしているものの、身体的にも精神的にも問題はなくなっていた。

 どうやらエリナは、自分が気絶したことにより俺が怪我を負ったことを気にしている様子だった。


「俺がお前たちに頼んだのは、資料館の防衛だ。二人だけで頼んだにも関わらず、その仕事をまっとうしたお前たちはもっと自分のことを誇ってもいいんだ。エリスとエリナがあそこを防衛してくれていたからこそ、俺たちはそれぞれの仕事に集中できた。助かったよ、これからもその調子でよろしく頼む」


 マルクトはエリナの頭を優しく撫でながら、彼女たちを労った。

 未だに、自分を責めている様子のエリナにマルクトは続けて言う。


「それに、あいつから目を離したのは、俺にも油断があったからだ。決してお前のせいではないよ。俺の失敗をお前が勝手に背負うなよ」


 最後に優しく笑いかけ、マルクトは二人の元を離れていった。


 数分程すると、軍服を着こんだ警備兵がやって来た。

 どうやら、爆発音に気づいた学園の警備の人間が警備兵に連絡をとったらしい。

 やって来た警備兵には、この学園に現れた侵入者の対処に追われていたところで、魔物が現れて味方を殺したあと、この建物を壊した。

 と自分にできるだけ被害が出ないように報告したのだが、


「では、国王様にそのように報告いたします。ご協力感謝します」


 という警備兵の発言に冷や汗が出てきたが、なんとか顔に出さないことには成功した。


 一応、先程自己紹介をされて、侵入者二人の素性もわかった。

 長身でエリスと戦った男はカムイと言う名前で先程の実行部隊フェンリルの副隊長をしていたそうだ。

 隣のカトウによってぐるぐる巻きの芋虫状態にされた薄紅色の長く伸ばした髪が特徴的なつり目の少女はーー顔を隠すためのマスクを外したことによって知ったのだがーーアリサという名前らしく、どうやらフェンリルの隊長の一人娘で、父親を失ったことで身寄りがなくなったらしい。

 ちなみに、この二人には色々聞きたかったから警備兵に渡さなかった。

 さて、問題は、


「アリサのこの先の住む場所をどうするか、だな」


 カトウが真剣な顔で言ってきたので、俺もその言葉に同意して頷く。

 ただ、他のメンバーは違うようで、


「カトウ先生が預かるのではないのですか?てっきり私はそう思っていたのですが」


 メルラン先生がおずおずとなぜかカトウの名を挙げた。

 どうやら、俺が前線でダレンに警戒している間に、カトウとフェンリルの隊長との間で約束が交わされていたらしい。


「ちょっと待ってくれ! 俺には嫁さんがいるから無理だぞ!」


「でも、お前が預からないと他に行くところないし、孤児院に行くか、今回の件で監獄行きだぞ?」


「なら、マルクトが預かればいいじゃないか!! あんな広い屋敷に今更一人くらい増えたって問題ないだろ!?」


「俺の家は無理だ」


「何故!!」


「うちは、一応この国の貴族の位を持っているんだから、他国の殺し屋なんて入れられる訳ないだろ」


 マルクトはこの国では一応公爵の地位を持っている。

 しかし、普段から貴族の地位をひけらかすような人間でもないうえ、貴族会議にも全く出席しないため、貴族であることをほとんどの人間が知らない。

 それでも、貴族の立場でアリサをひきとるのはリスクが大き過ぎた。

 カトウもそれがわかっているため、強く言えない。

 マルクトに断られたため、カトウはもう一人の候補に聞いてみる。


「グッ、………なら、メルラン先生は?」


「私、彼氏と同棲しているので無理です」


 メルランにも断られ、カトウは双子姉妹に目を向けるが、


「お前、まさか学生に責任を押し付けるわけじゃないよな?」


 というマルクトの言葉に押し黙る結果となってしまった。

 その様子を見たマルクトは、

(本当にする気だったのかよ)

 と若干あきれてからため息を一つつき、


「……しょうがないから、俺も一緒に説得してやるよ」


「……本当か?」


「あの人なら、ちゃんと説明すれば受け入れてくれるだろ」


「お前が親友で本当に助かったよ!! マルクトありがと~!」


「あ~もう! ひっつくんじゃねぇ!! 鬱陶しいから離れろ!!」


 感極まってマルクトの腰に抱きついてきたカトウを引き剥がしながら、その様子を見て笑っている皆の姿を見て、今回の事件の終息を感じていた。

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