第33話 魔導フェスタ4
「ハァ……ハァ……ハァ。何で当たらねぇんだよ!」
目の前にいる男に全く攻撃が当たらず、全力で攻撃をしていた為、実行部隊フェンリルの男二人は肩で息をしていた。
対してマルクトは、最低限の動きで彼らの攻撃をかわしたり、受け流したりする為、一切の疲れを見せていなかった。
そろそろ戦闘を始めて三十分が経過しようとしていた。
先程仲間の悲鳴が再び聞こえてから、仲間のことが気になって仕方がない様子の二人は、どんどん余裕がなくなっていく。
早く目の前の男を倒して仲間の助けに向かわなくてはいけないのに、目の前の男には攻撃が全く当たらない。
隊長の男はふと気付いた。
攻撃が当たっていないのは、彼我の戦力差が圧倒的なものなのではないか? それなのにここまで長く戦っているのは、相手の男が攻撃を一切仕掛けて来ないからであった、ということに。
ではなぜ目の前の男は攻撃を仕掛けない?
隊長の男がその疑問に行き着いた時だった。
「せんせ~い!」
隊員達を送り出した方角から、似たような顔の少女が二人と若い男が一人、三人の拘束されている隊員を連れてやってきた。
「終わったのか?」
「ばっちりだよ! 先生のところはまだ終わってないよね? 約束守ってくれた?」
「ああ、回避や受け流しに専念したから、攻撃はしていない。今から終わらせるところだ」
「………まさか、遊ばれていたのか?」
今まで戦っていた男と少女の一人が会話を始めるが、そのなかに聞き逃せない言葉があった。
隊長のその言葉に、もう一人の隊員も怒りを露にする。
「気にさわったのならすまんな。正確には、回避に専念してお前らの体力を奪う作戦だ。そのうえで、俺の戦いを見たいという生徒の要望に答えたに過ぎない。お前らはまんまと術中にはまったというだけの話さ。お疲れさん」
マルクトのその言葉に、自分たちが男の手のひらの上で転がされていたことを知った。
それは組織の実行部隊フェンリルの隊長としての誇りが許さなかった。
「黙れ!よくも、俺の大事な部下たちを嵌めてくれたな。
仲間達を返せ!!…俺の娘を返せ!!」
そう叫ぶ男は太刀でマルクトに攻撃を仕掛ける。
マルクトの手には、いつの間にか創られていた氷の剣が握られており、男の太刀による攻撃をマルクトは氷の剣で受け止める。
隊長の男は受け止められた太刀を翻し、そのまま横に薙ぐ。
マルクトはそれすらも受け止め、次はマルクトが相手の太刀を弾き、首筋に斬りかかる。
その攻撃を紙一重で回避した隊長の男は弾かれた太刀を下から振り上げた。
それをマルクトは難なく避ける。
だが、隊長の男の攻撃を避けたマルクトに今度は頭上から振り下ろされた太刀が襲いかかってくる。
隊長の男は太刀を瞬時に持ち変えて振り下ろしたのだ。
振り下ろされた太刀をマルクトは剣で受け止め、最低限の動きで太刀を受け流す。
先程よりも素早く鋭い攻撃に、マルクトは慎重に剣を合わせる。
もう一人の双剣を握る隊員の男も攻撃に加わりたいが、それが出来ない程に二人の剣戟は凄まじかった。
だが、いくら急に鋭くなったとしても、今まで消費した体力が増える訳でも、蓄積された疲労が消える訳でもない。
隊長の男の動きは徐々に鈍っていき、ついに防戦一方になり始めた。
もう一人の男は、隊長の危機に双剣でマルクトに攻撃を仕掛けるが、マルクトにあっさり避けられ、逆に隊員の男では見切れない速さの攻撃を左の肩にうけてしまう。
隊員の男は剣を握れない程の致命傷を負い、更に痛みに呻いた隙をマルクトにつかれ、右の足を切断された。
隊員の男は右足を切断された痛みに耐えきれず気絶してしまい、早々に退場することになった。
隊長の男は目の前で致命傷を負い気絶した仲間に感謝しつつ、いったん体勢を整えるため大きく下がった。
今回の作戦が既に失敗しているのは隊長の男にもよくわかっていた。
後ろで最初に倒れた男も未だに起き上がる気配を見せず、先程自分の危機を察して動いてくれた仲間は、男に左の肩と右足を斬られ気絶した。
先に行かせた四名のうち、副隊長の男は意識はあるようだが、拘束されて手助けは期待出来そうにない。
副隊長と共に行かせた男はぐるぐる巻きに拘束されており、気絶している様子だった。
娘は、
(………あれ? 眠ってね? 鼻ちょうちんがでている気がするんだが。……いや、気のせいだろう。おそらく敵の幻覚の魔法か何かなのだろう。眠ったように見える娘に気をとられた隙に斬るという作戦なのだろう。危うく引っ掛かるところだった。さすがに、こんな生死がかかった大事な作戦でさすがのアリサでも寝ないだろう。……とりあえずアリサは帰ったら説教をしてやらねばならんな。他の隊員も一から鍛え直さなくてはならん。帰ったらやることがたくさん出来てしまった。ふっ、それならこんなところで負ける訳にはいかんな)
隊長の男は口を緩めて目の前で自分と同じく剣を構える男を見た。
未だに傷一つつけられず、疲労の色も見せない若い男、剣の扱いにも長けており、魔法を使われれば我々の敗北は決定的なものになるだろう。
彼が剣しか扱わないのは、彼の気紛れに他ならない。
だが、そこに勝機はある。
この男の気が変わらぬうちに、全身全霊の一撃をお見舞いする。
今は、娘や隊員の心配をしてもしょうがない。
次に放つ一撃に自分の全てをのせる。
隊長の男は全身全霊の一撃を放つため、目の前の男との距離を詰めにかかる。
先程まで何かを考えていたであろう男は、急に距離を詰めるべく走り出した。
マルクトもおそらく最後の剣戟になるだろうと予想し、本気で迎え撃つ。
男によって全身全霊の一撃が放たれる。
それは受ければいくらマルクトとはいえ、ひとたまりもないであろう一撃、それをマルクトは真っ向から受ける。
男の太刀による一撃がマルクトを斬ろうとした刹那、マルクトの氷の剣が男を太刀ごと斬った。
マルクトの放った目で追えない速さによる一撃は、男を切り裂き紅い華を咲かせる。
隊長の男はマルクトに腹部を横に切り裂かれるという重い一撃をもらった。太刀が間にあったため、内臓までは届いておらず、一応意識はあるが、大量出血によりもはや戦える状態ではなかった。
こうして、マルクト達と実行部隊フェンリルの戦いは幕を閉じたのであった。
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侵入者との戦いが終わり、研究所の守護を頼んでいたメルラン先生も合流した。
メルランは気絶している巨漢の男をカトウに引きずらせてやって来ていた。
運ばされたカトウは、
「マジ無理、少しは手伝ってくれたっていいじゃないか」
と嘆いていたが、皆は笑うだけで、誰も手伝うことはなかった。
そんな周りが勝利の余韻に浸っていたとき、急にマルクトとカトウがある方向を同時に向いた。
二人の目は鋭くなっていき、何もない場所を見続けていた。
「…気付いたか?」
「ああ、誰かいるみたいだな」
二人の会話を聞いていたエリスとエリナの双子姉妹とメルランはその異様な雰囲気に気を引き締めなおす。
「…誰かいるのか?」
その言葉に反応したかのように、何もない場所から人影が姿を現す。
まるで、いきなりその場に現れたかのように。
ユウキがマルクトに使っていた認識阻害の魔法をその男は完璧に使用していたのだ。
認識阻害の魔法は光属性の魔法で、本来は人に認識されにくいという能力を活用して、変装などで相手に正体がばれないようにするために使うのが一般的だが、今現れたその人物はばれにくいどころか、姿すら見せてはいなかった。
今までは、目の前の敵に集中していたため、マルクトとカトウも気付かなかったが、周囲警戒をした際に微かに殺気を感じとったのだった。
「ちっ、使えねぇ奴らだな。与えられた仕事一つ、ろくにできねぇのかよ」
そう毒を吐きながら、出てきたのは、一人の男だった。
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