第29話 少年9
なんで自分は男なのだろうか?
十二歳のユウキはそう思っていた。
自分の性別は男だが、周りからは、かっこいいと言われるよりも、よくかわいいと言われていた。
でも別にそのことに文句がある訳じゃなかった。
自分の容姿が男らしい見た目ではなく、どちらかというと、女の子っぽい見た目をしているのもわかっていた。
ある日、一つ年上の姉が、遊び半分で、ユウキに自分の服を着せたことがあった。ユウキ自身興味もあったため、女装をすんなり受け入れたのだった。
女装したユウキは鏡に映る自分の姿を見て驚いた。
(これが僕?)
ユウキの予想を遥かに上回る程、
姉もユウキの女装を褒めてくれて、ユウキは姉に褒めてもらえたことがとても嬉しかった。
それからは、よく姉がユウキ用の女性物の衣服を買ってきてくれた。
そんなある日、ユウキはふと、この格好で外に出てみたくなった。
周りにいったいどう見えているのだろう?
そんな好奇心に駆られ、ユウキは自分でコーディネートした服で外に出掛けてみた。
知り合いに会わないように少し遠出をするなど、気を付けてはいたのだが、
「そこで、あの人たちにばれちゃったんです。それから、気持ち悪いとか、変態とか毎日のように罵られました。時には蹴られたり暴力をふるわれたりもしました。」
エリカにユウキが説明してなんとか誤解を解いてもらい、中に入れてもらったマルクトをはじめとしたエリスとエリナの三人は、ユウキの過去の話を聞いていた。
それから先は、先日エリナに聞いていたとおりだった。
担任の教師は買収されて、あのボンボンを見逃したのは事実だったらしい。
ユウキがいじめがエスカレートしたことを担任に伝えたら、ユウキにいくら払えるのかと聞いてきたらしい。
救いようのない下種だな。
「そういえば、なんでユウキ君の服はぼろぼろだったんですか? それから、先生がなんで、そんな姿をしているユウキ君と一緒だったのかも説明してほしいんですけど」
話が終わり、エリスが唐突に聞いてきた。
その質問にユウキは何かを思い出したようにマルクトに聞いてくる。
「そういえば僕の服だけはなんで戻してくれなかったんですか? これ結構高かったんですよ。先生のお気に入りの服」
ユウキは口を尖らせながらそう言った。
その言葉を聞いたエリスがドン引きするような視線を向けてくる。
「エリス、お願いだからそんな目でこっちを見るな。ちなみに、服を直さなかったのは単純にユウキが今着てるからだな。服を洗う魔法もあるが、着たまんまだとユウキが濡れるし、人目のつく所じゃ脱がせないだろ?」
というわけで、ユウキにはトイレに入ってもらい、ユウキがトイレに篭っている間に、ユウキが着ていた衣服を借り、洗浄用の魔法によって一瞬で汚れを全て綺麗にしてユウキに返した。
綺麗になった服を着て戻ってきたユウキは俺の前に来ると急に頭を下げた。
「すいませんでした。僕は、先生を悪事に利用しようとしてしまいました」
「……いったいどういうことだ?」
その言葉の意味が気になった俺はユウキに説明を求めた。
ユウキが言うには、とある謎の組織に、魔導フェスタ当日に五年生による研究成果を発表する場に俺を釘付けにしておくことを強要されていたらしい。
その間に何をするのかは聞いておらず、ユウキもよく分からずに利用されていたとのことだった。
なぜユウキが、そんな怪しげな組織に協力することになったのかというと、先程の連中がユウキに女装ネタをばらされたくなければ、モーガンという教師に協力して情報を流すように脅してきたらしい。
モーガン先生というのは、今年俺と同じくこの学園の中等部に来た新任の先生だったはずだ。
彼もつまりは、スパイだったということか。
それなら、今日捕まえた連中からも、話は聞けるだろうがモーガンという教師にも、何を企んでいるのか、話を聞かないといけないようだな。
今後の方針も決まったことだし、これ以上ユウキから話を聞くのは酷というものだろう。
「よし、わかった。ユウキ!」
「はい」
覚悟は出来ている。
自分のやったことは、重罪である情報の横流しなのだ。
例え、脅されていたとはいえ、許されることではないだろう
ユウキはこれから伝えられるであろう罰に対してしっかりと受け入れる覚悟を持った。
「これからは困った時はいつでも俺に助けを求めろよ」
「申し訳ありませんでした!! ……え?」
「なんだ?」
「いや、だって、……僕は情報の横流しを、」
「その事に関しては、まぁ、大丈夫だ。お前のやったことは罪には問われないよ。今回の筋書きは、逸早く、学校の危機を知ったユウキは、情報の横流しを行い、あえて、敵に信用させ、スパイとして潜入し、今回の作戦で、うまく俺に知らせた。ということにしようと思っているんだが、なんか問題あるか?」
その問いは隣に座る双子姉妹に向けられたもので、エリスとエリナも、その意図に気付き、同意を示す。
「いえ、私も友達を罪人にはしたくないので、先生の意見に合わせます」
「私たちが口裏あわせていれば、ばれないんでしょう? なら、私も賛成」
エリスとエリナは俺の筋書き通りに動いてくれるようだ。
それなら何の問題もない。
ユウキはまだ何か言いたそうな顔をしていたが、自分の為を思って提案されたため、何も言えない様子だった。
それからは、エリカさんが作ってくれたうまい飯にありついた。
エリスとエリナも自分達の分を注文して食べていた。
ん? これってもしかして、俺が四人分払うの?
くっ、だが二人はユウキを俺の代わりに慰めてくれた訳だし、今日は多目に見てやるとするかな。
そう思い、二人に遠慮せずに食っていいと言うと、エリスは本当に遠慮をしてくれなかった。
「さて、ここに来た理由は別に、食事や着替えのためだけではないぞ。エリス、エリナ、二人とも例の約束は覚えているな?」
食事を取る手を止めて、二人はこちらをみて頷いた。
「はい」
「もちろん。先生こそとぼけないでよ!」
「わかっているさ。ちなみに、その約束の件でユウキは一番乗りだぞ」
俺の言葉にエリスとエリナは驚き、二人はユウキをくいいるように観察し始めた。
最初は驚いていたが、ユウキの格好を見て納得したように、
「……そんな。まさか、男の娘に先を越されるなんて」
エリスは顔を青くして、呟いたが、エリナに関しては、ユウキの格好を素直に称賛していた。
「いや~、魔導フェスタが楽しみですなぁ。ねぇユウキくん?」
「え? えぇまぁ」
その言葉に我に帰ったエリスがユウキの肩を掴みながら、
「明日! 明日買い物付き合って」
「わ、私もお願いします」
エリナもエリスの横で頼み込んでいた。
いやぁ、二人を焚き付けるのが上手くいって良かったよ。
これでユウキとは更に仲良くなってくれることだろう。
明日の買い物には、メグミとベルも一緒に連れて行ってもらおうかな?
二人もついてくるって言ってたし。
そう思い、マルクトは当日の魔導フェスタに思いを馳せるのであった。
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