第16話 入学2
マルクトは新入生の受付会場まで二人を案内していた。
この学園の敷地内は広く、受付の場所を伝えて二人だけで行かせるよりも、自分が案内した方が早いと思ったためだった。
マルクトは久しぶりの母校を懐かしみながら、歩いていた。
前回、マルクトが学園長に挨拶に行った時は、あまり見てまわる余裕もなかった。しかし、今朝はカトレアの逆鱗にも触れたため、入学式の開始時間より一時間ほど早く学園についていたのだった。
だが、その道中で昔馴染みの顔を見つけた。
向こうに見えたその男も、こちらの姿を見つけて、こっちにやって来た。
「マルクトじゃないか。久しぶりだな。元気にしてたか?」
「久しぶりだなカトウ。まぁぼちぼちやってるよ。ここの学園長のせいで最近寝不足だがな」
「そりゃ大変だな。あの人に無理矢理頼まれたんだっけ?」
そんな会話をしていると、ベルが、俺の服の裾を引っ張りながら、この人は誰か聞いてきた。
正直関わらないですむならこんなやつの紹介なんてしたくなかったのが本音だが、会ってしまったのならしょうがない。
そう思いながら、マルクトは二人にカトウを紹介した。
「二人に紹介するよ。こいつはカトウ。生まれはトウキョウとかいうところらしく、うまい料理や面白いものに詳しい。俺の高等部時代の同級生だ」
「はじめまして。俺はカトウテツヤって言います。一応ここ、魔導学園エスカトーレの高等部一年C組担任の教師をやってるんだけど、まぁわからないことがあったら、いつでも相談しに来てくれ」
黒髪のマルクトより少し身長の低いカトウが二人に向かって挨拶をした。彼の服は白い襟付きのシャツに青いネクタイ、黒いズボンにベルトをしているところまではマルクトと同じだったが、彼は白衣ではなく、ベージュ色のボタン付きベストを着けていた。
「私は、本日入学する高等部一年のメグミと言います。よろしくお願いします、カトウ先生」
「私はベルって言います。今日から、ここにお勉強しに来ました」
カトウの挨拶に対し、メグミは緊張しているのか、かしこまった感じで挨拶をする。
ベルは、昨日、カトレアに教わっていた礼儀作法を頑張って真似ようとしており、大分ぎこちなかったが、子どもにそんな難しいことは求められない。
要は伝わればいいのだ。
カトウは黒髪で軽く髭を生やした長身の男で、昔から人との壁を壊すのがうまいやつだった。
高等部時代、唯一俺におびえずにずっとそばにいてくれたやつだった。
良く言うなら気さくなやつで、悪く言えば悪友ってやつだ。
挨拶を終えたカトウが俺に話しかけてきた。
「それにしてもまさかお前が俺と同じくこの学園の教師になるなんてな」
「俺もまさかだよ。あの学園長のじいさんにも困ったものだよ。だがまあ、決まってしまったことはもうどうしようもないし、それに、人にものを教えるのは嫌いではないし、やってみると案外楽しいかもしれないしな」
「そうだな。まぁ、俺は、またマルクトと遊べるなら、どっちでもいいけどね」
「お前の考える遊びはなかなか面白いからな。また何か思いついたら教えてくれよ」
「おうよ。次はチェスでも教えるかな」
「なんだそれは? 面白いのか?」
「戦術と駒を駆使して敵の王を討ち取る遊びだよ」
「そいつはなかなか面白そうだな!」
そんな話をしながら、マルクト、メグミ、ベル、カトウの四人は入学式の受付会場でもあるドーム型の建物に向かっていた。
受付についたメグミとベルは、名簿に自分の名前を書いた。
すると、
「『リーパー』? あれ? なんで二人ともマルクトと同じ
カトウがそんな疑問を口にしだした。
そういえば先程の自己紹介の時は二人共、自分の名前しか名乗っていなかったな。
マルクトがそんなことを思い、改めて説明しようとすると。
「まさか子ども? いやマルクトって結婚とかしてたっけ?そもそも、メグミちゃんとマルクトの年は多分十歳くらいしか離れてないよな?」
「……おいカトウ?」
マルクトは声をかけるが、カトウは自分の世界に入ってしまい、聞こうともしていない。
「まさか!! ベルちゃんがマルクトとメグミちゃんの子!!」
その言葉の内容と声の大きさに驚いて、マルクトは周囲を見まわす。
メグミは顔が赤くなって固まっており、そんなことをカトウが大声で叫んだせいで周囲がよそよそしく見てくる。
俺はその元凶の男の頭を鷲掴みしながら、
「黙れ。黙らなきゃ、お前の脳がミックスジュースみたいになるぞ」
「黙ります」
マルクトの脅しにカトウは怯えるように即答する。
自分の不用意な発言で怒らせてはいけないやつを怒らせてしまったとカトウは思っていた。
「一応言っておくが、二人は俺の妹だ」
「え? お前妹いたっけ?」
「いたのさ、お前にいってないだけで。ついでに兄さんも一人いる。二人とも、この入学を機にこっちに越して来て、今俺の家に住んでるんだよ」
「へぇ?」
マルクトのカトウの頭を握っている手の握力が強くなって、カトウは痛みに顔を歪める。
「だからそういう発言されると非常に困る訳なんだよ。わかってくれたかな? わかってくれたよね?」
「わかりました」
涙目のカトウを解放してマルクトたちの三人はこれから入学式の始まる巨大な建造物の中に入っていった。
中には半径二十メートル程の円上の床、それを囲むように席があり、その席が階段のように積み上がっている形の内装になっていた。
カトウに聞くと三年くらい前に改装したらしい。
戦いを観やすくするのが目的で、来たばかりの学園長のじいさんが作り変えたのだそうだ。
メグミたち生徒は、そのドームの観客席に座り、入学式が始まるまで待機していた。
二人と別れたあと、教師の座る席の中で自分の座る席を探すと、隣がカトウだった。
暇だったので、今日の入学式のスケジュールを確認していると、
「お隣、失礼してもよろしいでしょうか?」
茶色い長髪を後ろにまとめた眼鏡の女性が隣の席に座っても良いかと尋ねてきた。
彼女は白い襟付きのシャツの上から黒いスーツと呼ばれる服を着ていた。
彼女に限らず、周りの女性教師達も同じようにスーツを着ている。
このスーツはカトウと同郷の者が広めたと聞いている。
「大丈夫ですよ」
とりあえず俺は彼女に座ってもかまわない旨を伝えた。
自分の席なのだし、勝手に座れば良いとは思うのだが、……ていうか隣の席に座ったさっきの女性はなぜかこちらをじっと見つめてくる。
え? 俺の顔になんかついてたりするの? 寝癖とかだったら困るな。今朝は変な体勢で寝てたから、寝癖ついてるかな?
「あの、失礼かもしれませんが、もしかしてマルクト・リーパーさんですか?」
「そうですけど」
「やっぱり!! はじめまして。私は一年A組の担任を任されたメルランと申します。至らない点も多々あるかと思いますが、どうぞお見知りおきください」
「これはご丁寧にどうも。はじめまして、本日から、この学園の教師をすることになりましたマルクトといいます。担任するクラスは一年B組です。どうぞよろしく」
挨拶を終えると、メルランと名乗ったこの学園の教師は、興奮した様子で、話しかけてきた。
「まさか、魔法開発研究所の主任であるあなたと同じ職場で働けるとは夢にも思ってもおりませんでした」
「はぁ」
「今度是非お話を伺いたいのですが」
その時、教頭先生が入学式の開始の宣言を開始した。
「あら、もうそんな時間ですか。では後日ゆっくりとお話を聞かせていただきたいですわ」
「ええ、今度時間があるときにでも」
メルラン先生にそう返して、マルクトは、前に向き直る。
そして、これから、入学式が始まるのであった。
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