第10話 魔導王国マゼンタ1
俺は今かつてない程の猛烈な死闘の最中だった。
この死闘に比べれば、五年前の、灼熱竜との戦いが、赤子の手をひねりあげるぐらい簡単……赤子の手をひねりあげる方が良心傷むし、簡単じゃねぇわ。
(やっぱり今>赤子>灼熱竜だな)
そんなことを考えていると、馬車が大きく揺れた。
そのタイミングを見計らったかのようにこみ上げてくるような倦怠感。
「吐く吐く吐く吐く。ヤバいヤバいヤバい! 頼むから揺らさないでくれー!! というかもうおろしてくれー!」
一時間前
「俺は絶対やだね。何故わざわざ馬車を使って移動しなくてはならないんだ」
「ではどうやって帰るというのですか?」
「徒歩があるだろうが徒歩が。その足は何のためについているんだ」
先程から行われているやりとりにベルとメグミの二人はそろそろうんざりしていた。
マルクトさんはなぜか馬車で帰りたくないらしく、依然として首を縦に振らないし、カトレアさんはマルクトさんの徒歩で二ヶ月かかる提案なんて、さすがに許容できないとのこと。
「だからとりあえず一ヶ月ぐらい歩けば、なんとか、空間転移魔法で帰れるから。それに馬車だとかかる金が俺の住んでる街までだと相当かかるんだぞ。その金を誰が払うと思ってんだ」
「でしたら、その徒歩で一ヶ月かかる土地まで、馬車で行けばよいではありませんか」
私もそろそろうんざりしていたので何か良い考えはないか模索しているのだが浮かんでこない。
空間転移魔法もここからマルクトさんの住んでる家までだと、さすがに魔力の消費量が多すぎて、不可能なのだそうだ。
マルクトさんの魔力量では移動できる距離がせいぜい千キロまでとのこと。ーーーそれでも他の魔法使いにはその転移魔法ですら使える者はそうそうおらず千キロなんて異常なことなのであるーーーちなみに、マルクトの家まで約千五百キロくらいある。
どうすべきか迷っているときにベルちゃんを見て、ふとある考えが思いうかんだ。
その作戦をベルちゃんに相談してみたところ。
ベルちゃんは
「……そんなことでいいの?」
と首をかしげながら
「わかった」
と了承してくれた。
了承したベルちゃんはそのままマルクトさんのところに駆け寄っていった。
「ねぇねぇ」
「なんだ。今は忙しいから後にしてくれ」
「お願いお兄ちゃん。ベル馬車乗りたいな」
ベルの瞳はうるうるしながら、マルクトの瞳を見つめていた。
マルクトはその瞳に見つめられ、なぜか怯え始める。
「やめろ。嫌だ。そんな目で俺を見るな」
うろたえるマルクトにベルはさらに追い討ちをかけてくる
「お願い。お兄ちゃん」
マルクトはベルの懇願に首を横に振れず、
「………わかった」
難攻不落だと思われたマルクトはあっさり落ちた。
という訳で現在馬車に乗って一時間、ベルはおおはしゃぎ、マルクトは顔面蒼白で帰路についているのであった。
「まさか、マルクトさんがここまで乗り物に弱いとは」
「……思ってもみませんでしたね。道理であそこまで嫌がっていたわけですね」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「あぁ。問題ないよ」
ベルの答えに、弱々しく笑顔で答えようとしているマルクトの顔は真っ青だった。
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あれから二十日程たった。
マルクトさんは十日程前に、いろいろと三人を受け入れる準備をするために、先に家に帰っていった。
さすがに、顔が限界を迎えていたし、マルクトさんにはたまった仕事を片付ける必要があるため、戻らなければならないとのこと。
一応馬車は前金で、場所も教えているため問題はないとのことで私たちは初めての長旅を楽しんだ。
そして、このマルクトさんの住んでいる魔導王国マゼンタについた。
マルクトさんが作っていた招待状のおかげですんなり門も突破できた。
なんでも、役人が言うには、マルクトさんは相当すごいのだそうだ。
魔法の権威とかよく分からない単語が多すぎて、言っている意味はわからなかったが、とにかくすごい人らしい。
魔導王国マゼンタの街並は洋風の建物が建ち並び、中心には城があり、見慣れない建物もいくつかあった。
そして、私たちは城の前で、降ろされた。
城の前で見知った男性が手を振っていた。
「マルクトさんお久しぶりですね」
「あぁ。無事着いたみたいで何よりだ。今から家まで案内するが問題ないか? 行きたい場所があるなら案内するが」
「私は問題ないですよ」
「マルクトのうちー」
「私も問題ありません。お嬢様の住む家を先に確認しとうございます」
「わかった。ならついてきてくれ。そこまで遠くないから歩いていくか」
マルクトさんはそう言って歩きだした。
私たちもそれに続いて歩き出す。
しばらく歩いていると、ほかよりも、一際大きな建物が目に入った。
マルクトさんにその建物について聞いてみると、
「あれは、魔導王国マゼンタが誇る、世界最大級の魔法専門の学校『魔導学園エスカトーレ』だ」
とマルクトさんは説明してくれた。
学校という単語に高揚した気持ちになってくる。
行ってみたい!!
「マルクトさん!! あの学校は私でも入れるんですか?」
興奮した様子のメグミは目を輝かせて聞いてきた。
「問題ないと思うよ。ただし、魔法の才能が最低限必須ではあるけどな」
その言葉を聞いて、魔法の才能がない私じゃ入れないとメグミはさとった。
そもそも学校というくらいなのだから、金も必要だ。
現在、無一文の私じゃどんなに頑張って働いても、学校に通うなんて夢のまた夢。
メグミは自分が学校に通うのは不可能であることを知った。
そんなメグミの興奮したり落胆したりする様子を見てマルクトはあることを思い付いたが、とりあえず、まずは家に案内することを優先した。
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