第8話 魔王少女7
街の荒れ果てた姿に三人は絶句した。
壊された店。燃える家。倒れている人々。泣いている大人たち。
とりあえず、マルクトは泣いていた一人の男性に話を聞いた。
「おいあんた。何があった?」
俺の質問にその男はこちらを見もせずに、ただ目の前の惨状を見つめ続けていた。
まるで現実逃避をしているかのようだったので、マルクトはその男の服の襟を掴みあげ再度聞いてみるが男の焦点はあっておらず、こちらに気付いているのかさえわからない。
しょうがないのでマルクトは男の頬を何発か叩いた。
頬を叩かれた衝撃で目が覚めた男は目の前のマルクトに怯える様子を見せるが、マルクトの衣服が奴等と同じものではないことがわかると、
「お前はあいつらの仲間じゃないのか?」
「俺は一昨日この街にやって来た旅人だ。少し出掛けていたんだが、戻って来るとこの有り様だった。いったい何があったんだ?」
その言葉に胸を撫で下ろした男はこの日何があったのかを説明してくれた。
なんでも、1時間程前に人拐いに街を襲われたらしく、街の女、子どもを拐っていったらしい。
抵抗する者の中には殺された者もいたらしい。
倒れている人々は、街のためを思い、抗戦した者たちだったが、圧倒的な戦力差で、倒されていったらしい。
マルクトは話を聞いて、この惨状に合点がいった。
どうりでこの街には男しかいないわけだ。
マルクトはベルとカトレアに、ここの連中を回復させるから、ここで待機するように言った。
だが、ベルは先程の話を聞いて、メグミが心配になり、飛び出していく。
マルクトはカトレアにベルのことを頼み、目の前の重症者の治療を専念することにした。
目の前の倒れている者たちを回復魔法で手当てをしたが、14名程どうにもならなかった。
いくら、マルクトがすごい魔法使いだとはいっても、すでに死んでいた相手まで蘇生できる訳ではない。
他の重症者は最低限、命が保証できるほどまでは治療し、街の人々に治療を頼んだ。
重症の者は全て終え、次は軽症の者の治療を行おうとした時だった。
そんな時、ベルが
「メグミがいない。どこにもいないの」
回復魔法を発動している間に、メグミが心配になって、メグミを探しにいった二人が戻ってきて、メグミの家が燃えておりメグミが不在だったことを告げる。
俺は舌打ちしてから、
「だろうな。こんだけ暴れてメグミだけ無事な訳ないよな。
……今から二人に指示を出す。カトレアとベルはここで待機していてくれ」
「マルクト様はどうなさるおつもりで?」
カトレアの言葉にマルクトは彼女の目を見て、
「俺は、人拐いの連中を潰してくるよ」
その言葉に安心したカトレアは引き下がる。
しかし、ベルは納得できなかったようで、
「いやだよ。私も一緒に行く。私もメグミを助けに行く」
そんなベルをなだめるようにマルクトは彼女の目線にあわせてしゃがみ、告げる。
「ベル……。さっき言うこと聞くって約束したよな? それにお前たちに今目立たれるのは、俺が困るし、再び連中がくるかもしれないだろう? その時の連絡役としてここで待機して欲しい」
「分かりました。この身をもってその使命はたしてみせます」
カトレアは俺の指示に従う姿勢を見せていた。
未だに納得できないのか、ベルは「でもでも」と駄々をこねている。
そんなベルの頭を撫でて、
「メグミは絶対助け出してみせる。だから安心しな」
ベルはその言葉に涙目で頷いて
「わかった。絶対の絶対に助けてね」
「任せろ」
俺は笑顔でベルに答えた。
マルクトは、探索魔法を発動していた。
これは半径五十キロにいる一度見た人間なら誰でも(もちろんその人物を思い浮かべる必要がある)探し出せる魔法だった。
メグミたちはどうやら南の方に五キロ先にある牢屋のような場所に入れられているようだった。
先程の男に、そこに何があるのか尋ねると、なんでも現在使われていない廃砦があるらしい。
おそらくその地下牢に囚われているのではないかとのこと。
俺は早速、転移魔法でその地下牢に転移した。
街の女、子どもは一瞬で現れた俺に驚き、監守は目を見開いて絶望している様子だった。
ああ、カードゲームの最中だったの? ごめんね。
とりあえず俺は監守たちに即効性の眠り薬を塗ったナイフで切りさいた。
魔法は上に気取られる可能性があったため、さっき街で何本か用意していたのである。
監守を無力化した俺は一応連れ去られた人数がいるか確認したところ、メグミだけいなかった。
他の者に聞いてみると、なんでも、さっき人拐いにたてついて上に連れていかれたらしい。
ええ、なんで大人しくしてられないかなぁ。
しょうがないので上に行くと、三十人程の屈強な男たちがメグミの服を無理矢利脱がせようとしていた。
メグミは抵抗していたがすでに下着姿になっており、男たちに囲まれていたのが隙間から見えた。
とりあえず俺は、一番後ろにいた男をさっきと同じナイフで首の頸動脈を切った。
斬られた男は悲鳴をあげて倒れた。
その悲鳴に驚いた男共は、振り向いた。
さすがに、女の服を脱がしている場合ではないと気付いたらしく、全員が体ごと振り向いて武器を構えてくる。
全員の目がこちらを向いたので、俺は一瞬でメグミを転移魔法で地下牢に送った。
女が一瞬で消えたことと、仲間が一人絶命していることに気づいた、リーダー格のような大男が
「何をしやがったこの野郎」
そう言ってきたが、マルクトにはどうでもよかった。
なぜなら、その場に見知った顔を見つけたからだ。
そいつの傍らに立ってるハイルケンを見て苛立ちが増す。
(あいつ俺がいない時を狙ってきやがったのか)
その時の俺は会話なんかする気がないほど怒っていた。
「お前らは罪を犯した。あそこに住んでいたリンゴ売りのおっちゃんはな、見ず知らずの俺に、警告までしてくれる親切な人だったんだぞ。そのうえあそこのリンゴはすごくうまかったんだ。……なのに」
「はあ? 何言ってんだお前」
「それなのに、お前らはあの人を殺したあげく、店を滅茶苦茶にし、売り物を勝手に持っていった。その罪万死に値する」
マルクトの言葉に合わせて無数の鋭い風の刃が男たちの体を斬り裂いていく。
風属性の風刃の魔法は風の刃を飛ばすという簡単な小型魔法だが、それは一発での話。
その風刃の魔法をマルクトは数千発も放っていた。
マルクトは一発の大型魔法よりも多数の小型魔法を扱い、数で圧倒する戦法が得意なのだった。
見えない風の刃を受け、男たちは血にまみれ、悲鳴をあげながら倒れていく。
当然倒れた連中は避けられずに、悲鳴をあげながら斬られて逝くのみ。
そして、数千発の風の刃を放ち終えた時、誰も五体満足で立っていられなかった。
生きている者も果たしているかもわからない。
だがこれだけは言っておきたかった。
「お前ら、おっちゃんにあの世で謝っときな」
その言葉だけ残して、俺は再び地下に降りた。
地下牢に戻った俺は捕らえられた女、子ども全員を移動させるために空間転移魔法を使った。
転移魔法は座標から座標へ飛ぶ魔法だ。
なので、その座標が分からないと飛べないし、一度に一人までしか運べないので多人数をいっぺんに運ぶことは不可能なのだった。
空間転移魔法も同じようなものだが、これは、転移魔法と異なり、空間を繋ぎ維持できるので、多くのものを運ぶのには便利だった。
まぁ使い分けとしては、魔力の消費量だ。
転移魔法が一とすると、空間転移魔法は十で発動までの長さは転移魔法が早く、転移魔法に関しては別に使用者が飛ぶ必要はないということで一人で動くなら、転移魔法が便利だったりする。
ちなみに探索魔法と二つの転移魔法は闇属性の魔法である。
捕まった女、子どもと共に先程眠らせた見張りの男二人は縛ったまま街の奴らに渡した。
石を投げるのは、襲われた彼らの自由だ。
俺は、リンゴ売りのおっちゃんに最後に手をあわせて、先日買ったリンゴを二つ取り出した。
一つは彼の傍らにおいて、もう一つは自分で食べた。
「やっぱりうまいな。ここのリンゴ」
そう言いながら通りを歩いて行く。
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