嵐の季節
生きている限り時は流れ止まってくれない。
15歳の年に僕は更に2人の転生者に出会った。転生者との出会いは何時でも思い出に残る。今でもよくディロンドのことを思い出すが、未だに悲しいかどうか分からない。
唯々、あの忙しい日々を懐かしく思う。デリラの言った通りだった。僕らは深くつながり歪んでいる。
僕の誕生日の2日前、デリラが僕の部屋の扉をノックした。そろそろだとは思っていた。多分話があるのだろう。部屋に入れて互いに椅子に座り、落ち着いて話をしよう。
「アレン兄さん、決めましたか。私も話は聞いています。」
多分、知っているとは思ってた。というか、言わないはずが無いのだ。
「そうだね。やっぱり、僕らの姉さんはそういう人だよね。」
きっとデリラも一年間を同じように考えながら寄り添ってくれていた。
「もし、私のことが気掛かりなら気にしないで下さい。でも、一緒にいさせて下さい。」
「デリラを僕から突き放すなんてできないことは知っているだろ。」
「なんか、姉って狡いですよね。」
僕も負けず劣らず狡いんじゃないかと思う。
「姉というか、エレルディアという人が狡いんだよね。」
デリラはくすりと笑う。いつもの可愛いデリラのままだ。
「人を引き摺り回してドンドン進むんです。振り返るのはいつも姉さん。」
「導きの派閥の面目躍如かな。」
「負けませんよ。介添えの派閥は。」
また、二人で笑う。掛け替えのない時間。
「思えばとうの昔に囲い込みは終わってたんだよね。本当に待ってくれていた。」
「今度は私を待ってもらえますか。」
「その質問、答えてはいけないやつだね。」
「いいですよ。私は変わりませんから。」
僕は会いに行く。たった一つ足りなかったのは、真っ直ぐに見ること。彼女も自分も。
「エレルディア、貴方の手をとりに来た。」
僕は手をエレルディアに向けて伸ばす。エレルディアは動かない。
「駄目よ。ちゃんとアルガルドが私の手を包んで。」
この期に及んでダメ出しである。流石だ。僕は彼女の手をしっかりと包む。エレルディアは花が開く様な笑顔を見せてくれる。
「嬉しい。久しぶりの感覚。」
「十倍待たせたね。」
「仕方ないわね。導きの派閥に入れてあげるわ。」
「まだ、入るつもりはないんだけど。」
「転生ボーナスを返却しないと抜けられないのよ。」
「何それ。返し方分からないし。」
「いいのよ、返さなくて。」
ずっと昔の言葉を思い出す。
(私は私、君は君、だからね。こうして手をとってあげられる。)
手を引いてもらうのも良いわね。
僕たちは結婚した。
でも、それからしばらく本当に大変だった。
嵐のような結婚騒動は遥か過去、季節は巡って18歳になった。結婚して何か変わったかというとあまり変わっていない気がする。
相変わらず子爵のまま領政と訓練と転生者との会見をぐるぐると回している。変わったことと言えば、部屋が姉さんと同じになったけど、実は前の部屋もそのまま残って使い分けている。
あと、父上がちょっと僻みっぽくなってきた。娘を獲られたとか、どいつもこいつもアレンって、とか言うようになった。勿論、冗談半分だけど何か父上との距離が縮まった気がして悪い気はしない。
一番の大事件は弟ができたことだ。次の子供を産むには弱すぎる母上の身体を姉妹でずっと治療し続けていた。僕らの時は子供がいなかったから命を懸けたけど、治療の甲斐あって次を望んでも大丈夫だって間に合うって分かった。それに僕らが結婚したのも多分関係してるんだろう。
あれからイードベック侯爵領は3年で大きく発展した。昔の資産を目当てに商人たちが食料を持ってきた時代は過ぎ去り、通常の作物の他に育てるのが難しい南方の植物を生産し、意外なところでは山岳地帯の魔獣素材に蛮族由来の工芸品も輸出品目に加わっている。
他にもネイフラルタ伯爵領との交易も順調だ。マーフルに次はイードベックなんてどうですかと言っておいた。
一方で大きな不安材料に関する情報も入ってきた。海上貿易が盛んになった近年は海賊が大きな問題になっている。海上や沿岸で船が襲われるだけではなく、地上の都市や町などの拠点が数多く襲われてた。
海に面していないマルデイン国は静観してるが、海に面したギーベンス国は大きな被害を受けている。ギーベンスの西から被害を拡大させていっているため、ギーベンスからさらに東にあるティエイラに被害が出るのは時間の問題だろう。
しかし、現状では有効な対策がない。海賊自体は昔からいるのだが、今までの海賊とは違うのである。神出鬼没で何処から襲い掛かってくるか分からない。正面から戦えば戦闘で互角に戦えるのだが、海賊のペースに振り回されている。
そうこうしている内に最悪の情報がもたらされた。ボウンナート侯爵領の港街が海賊に襲撃されたと早馬が伝えに来た。ボウンナートとは交易ののみならず防衛についても契約を結んでいた。侯爵が保険のつもりで用意しただろう防衛協定は、侯爵自身もまさかこんなに有効に作用するとは思わなかっただろう。これで僕らも当事者の仲間入りだ。
「息子よ、頼りにしているぞ。」
父上が僕に丸投げした。
「まずいね。」
「まずいわね。」
「まずいですね。」
情報が無さ過ぎるので騎士団を派遣してもあまり効果は望めないだろう。となると何時も通り僕らが出るしかない。機動力を重視する意味でも、その方が有効性が高い気もする。
「ねえ、エルダ。やっぱ僕らで行くしかないかな。」
ちなみに以前からエルダは名前で呼ばないとその内に機嫌が悪くなるところがあった。何でも他のものは自分にぶら下がっているのであって、自分が付属物ではないと言っていた。
分からないでもないが、怒る程か。結婚してから普段は名前で呼ぶようになって機嫌がいいけど、間違えて姉さんとか呼ぶと怒られる。怒る程か。喧嘩している時はツァーリンクって呼ぶ。凄く怒る。
「アレン、今回は仕方ないわ。交易の被害が大きすぎるし、防衛協定もあるから。」
分かってはいるんだけど、何か父上に乗せられたみたいで。けど、転生貴族が大っぴらに行動しても問題ない大事件だ。
「お二人ともサベラ・バラスのことを忘れないで下さい。」
海の男あらため海の女サベラを思い出す。操船技術とか1年で激変するわけじゃないから、ちょっと意識から抜けてた。
「そうだよ、それがあったんだ。無事じゃないと10年は後退する。」
「そうね。あの子は応援してあげたかったから、生きてて欲しいわ。」
「もう、アレン兄さん。ちょっと言い方が酷いです。」
怒ったデリラも可愛い。愛い奴だ。
「自分の派閥だから必死よね。デリラ。」
「むー、姉さん。意地悪言ってないで準備して下さい。」
「以前は5日だったから、飛ばせば3日くらいにはなるか。」
「到着して、襲撃から1週間ってところかしら。」
「持ち堪えててくれよ。」
最後だけは切実な気持ちが漏れた。僕ら三人は直ぐに準備をして、馬をありったけの魔術で強化して走らせる。
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