ドラゴン狩りの領域
2週間くらいでドラゴン狩りのイメージが出来上がったところに想定パターンを変更されて挑戦すると全然通用しなくて、そこから最低限の基礎訓練と複数パターンの演習をみっちりやり続けた。
3週間目が終わってようやく二人から合格をもらうことができた。嬉しいはずなんだけど、これって自分から死地に赴いているんだよね。
岩肌がむき出しの山肌を見ると訓練場よりはマシなことが分かる。あの悪条件を克服した今なら対応できるだろう。
「さあ、いよいよね。アレン、もう思い起こすことはない。」
「アレン兄さんは十分やり切ったから、思い残しはないですよ。」
訓練の話のはずなのに、とても不吉な言い回しに聞こえてしまう。
「貴方はやり遂げることができるわ。」
「兄さんを信じています。誰よりも。」
僕は二人を交互に見つめて、頷く。今までの関係とは違うけど、この三週間は充実していた。僕が応える番だ。
「そうだ。アレンの相手はレッドドラゴンより格上なのよ。」
「ブルードラゴンの方が一回り上で、足場とかも悪条件だったんですよね。」
「嘘っ!訓練はレッドドラゴンと同格が想定だったじゃないか。」
全然だめじゃないか。演習からの想定なら勝てるようにはなっているけど、ギリギリ勝てそうという展開も多いくらいだ。
僕は頭を抱えそうになり、胃が痛むかと思ったのだけど。
「一段上くらいなら楽勝よ。」
言いながら姉さんが僕の右手を握る。
「全然、問題ありませんわ。」
デリラも僕の左手を握る。
二人が僕の手を持ち上げると指輪の上、薬指の根元にキスをする。
「私がついてるもの。」
「私が一緒ですから。」
二つの指輪が輝き、僕に二人の力が流れ込む。力が身体の隅々にまで行きわたり、さっきまであった不安が吹き飛んでいく。
狡いなぁ。多分最初からこのつもりだったんだろう。
「エルダ姉さん、デリラ。期待に応えて勝ってくるよ。」
もう直ぐ、ブルードラゴンの領域だ。
近付いて行くと見えてきたブルードラゴンは、情報通りレッドドラゴンより一回り大きい。向こうは気付いているのだろう。こちらに睨みを利かせている。
エルダ姉さんとデリラは姿が見えなくなり、既にどこかに隠れて観戦しているようだ。
僕はブルードラゴンに向かって走り出す。斜面の上からのドラゴンブレスを二回は耐えなければならないだろうか。
まず身体強化の魔術を付与し、盾を構えて起動して盾の表面に二重の障壁を展開させる。ブルードラゴンが溜め切った呼吸と魔力を解放しようと咢を広げようとするのが分かる。
一呼吸おいてブルードラゴンの魔力の高まりを確認すると盾に封じられた一時強化の魔術を発動させると同時に自分の魔術で三重障壁をその前面に展開させる。
次の瞬間に凍て付く吐息‐ドラゴンブレスが放たれる。冷気のブレスが空中の水分を瞬間的に凍結させて白く視界を曇らせるが、ブレスの実体が到達しているのは目に見えないもう少し先だ。
来る。その直前に魔術によって足場を固定してブレスに備える。ブレスが僕の前面に展開する障壁にぶつかる。
楕円の半球に展開された第一障壁の先端中央がブレスの圧に負けて即座に圧壊する。まだ、ブレスに当たったばかりだが最初の衝撃には耐えた。
第二障壁がブレスの冷気と魔力にぶつかり、凄まじい勢いで減衰していく。一番破壊力のある領域を抜けて、ブレスの圧が左右に分かれていく。まだ余波が続く。
第三障壁が余波と冷気を塞ぎ、遅れてやってきた凍結した氷の嵐に耐えるが潰れる。
自前の障壁が消滅したが、一番脅威度の高い状況が終わったのを感じて、まだ周囲に白煙が舞っている状態で前に進み始める。
盾から生じている第四障壁はレッドドラゴンの鱗の力によるものだ。この状況でも残りの冷気を凌ぎ、僕の直ぐ先くらいまでの足場を少しはマシにしてくれる。
そのまま前に進み白煙の領域を踏み越えた後、ブルードラゴンの姿を再び確認する。ドラゴンの胸から足元が一回り膨れて光っている。それは氷の層で、奴にとっては頑強な鎧なのだろう。
状況は一段階ほど悪くなったみたいだ。
進み続ける速度であと一度のブレスを凌げば、白兵戦へと持ち込めるのが分かる。周囲はブレスの影響で凍結し、足場の状態は最悪の状況になっている。
細かく足場を整える魔術を使いながら、靴裏自体も魔術で凍結対応へと変化させる。
僕もドラゴンも次のブレスの時には全力を込められない。実力差が出るかもしれないが、使った力を指輪が補充してくれる。
思ったよりペースが上がり、ドラゴンは早めにブレスを吐かざるを得ない状況に持ち込めた。次のブレスが来る前に足を止め魔術を発動さて、二重障壁をさらに展開する。
今回は前回より弱いはずだが、前回より距離が近いので衝撃は同じように強烈だ。
第一障壁は最初の圧で即座につぶされ、第二障壁にも衝撃による圧がかかり消耗しきる。レッドドラゴンの鱗による盾の第三障壁で冷気を何とか相殺できた。続く余波は第四障壁で受けきる。
掛かる圧がなくなったのを見計らって一気に距離を詰めていく。いよいよ白兵戦へと持ち込める距離になった。
辺りが白煙で濛々としている中、氷の鎧に包まれたブルードラゴンへと駆けていく。
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