僕の姉妹はエリート転生者 ~ 転生しても上級貴族な最強姉妹と僕
Dice No.11
01 転生貴族の誕生日
どうしてこうなった!
ティエイラという国のブランダール伯爵の子として僕たちは生まれた。
僕たちは、姉・弟・妹の三つ子として生を受けた。
大きなベッドで僕は姉妹と手をつないで泣いていたらしい。
それからずっと手をつないでいる思い出が続いている。
姉はエレルディア、愛称はエルダ。菫色の瞳に赤みが少しある金髪で、性格と同じで目元も勝ち気なお転婆を寸止め気味の活発な引っ張ってくれる人。
妹はデーリエッラ、愛称はデリラ。緑色の瞳にさらりとした金髪で、姉とは対照的な優しい眼差しで、気遣いが行き届いていつも僕を支えてくれる。
どちらも将来は美人以外にはなれそうもないし、母上の姿から考えても確信している。母上は身体が弱いので線が細くどことなく影を感じるが、娘二人はとても健康的な美しさを実らせようとしている。
三つ子の姉妹だけあって二人の外見はよく似ているのだけど、全然雰囲気が違うしそのことを意識しているから、何も知らない人に一緒にされるといつも腹を立てるところは共通している。
普段は仲がいいのにね。
でも、そういう時が一番二人を似ていると思う瞬間なのは黙っている。
僕はアルガルド、愛称はアレン。青色の瞳に金髪だけど姉妹のちょうど間の髪質をしている。三人並ぶとグラデーションが掛かって綺麗に見えると評判だ。ブランダール伯爵領には僕たち三人の子供だけなので、長男の僕は何れ伯爵領を継ぐはずだ。
でも、姉妹と離れ離れになることが想像できない。
三つ子な僕たちだけど実は誕生日が違う。凄い難産だったみたいで一日づつずれている。
例年の誕生日は真ん中の僕に合わせて一緒にやるのが恒例だったけど、成人となる十二歳の誕生日を個別にやることになっていたので楽しみにしていた。
それだけの筈だったのに。
この日を境に何もかもが変わってしまった。
目の前で二人の女性が睨み合って静止している。二人とも僕が良く知っている、いやそれだけではなく血を分けた姉妹。
しかも三つ子の片割れで鏡合わせのように似ていた容姿は、片方は昂る感情に染まりもう一方はそれを冷ややかに見つめている。その差が髪の色になっているかと思うほどの違いがあり、二人の存在に決定的な断絶があることが誰の目にも明らかだ。
今までの12年間でこれほどの激情をぶつけている様を見たことは無かった。元は仲のいい兄弟なのだ。いがみ合う理由などなかったはずだ。
何故だ。何故こうなってしまったんだ。
僕の感情は、現状を全く理解できないまま見つめるしかない。現状が呑み込めないどころか、咀嚼の前の前で身も心も止まっている。
何の気構えも準備もないまま炎と対峙しているようなもので、只々立ちすくんで炎が治まるか或いは燃え広がるのを傍観するだけの存在にしかなれない。
二人の激情の理由を全く理解できないまま、僕の心だけが二つの重圧に挟まれてミリミリと音を立てていく。
「私のアレンを誑かすなんて、万死に値する。」
エルダ姉さんが美しい顔を怒りで上気させて、手をかざすと瞬時に手の中に魔力が結集して紫色の光を持つ。
こんな時でさえ美しさを損なわない姉の顔が、自らの手に生み出された紫の光で彩られるように照らされている。
姉さんは感情を表に出す方だったけど、よりにもよってあんなに可愛がっていた妹のデリラへと憎悪といえる怒りをぶつけるなんてありえない。姉さんは変わってしまったのだろうか。
そもそも妹に対して姉が言う内容だろうか。誑かすなどというのは、普通は外部の人間が誘惑して言うことを聞かせる時などに使うわけで、間違っても信頼し合っていた姉妹の言葉とは思えない。
姉さんの掌中の光が突如、光の槍を形成して投擲される。投げられた光の槍が一瞬空中に留まったかのように見えたのは、その後の急激な加速による残像の錯覚だろう。危うく消えたかと見えるほどだ。
恐ろしい速さで加速した光の槍を目で追うというよりは、投げられた先を想像して目を走らせる。僕の視線の先にいるのは、予測はできたが現実として受け入れがたい相手、つまり妹であるデリラだ。
果たして槍はデリラの前に到達していた。
デリラは槍とその先に見える姉を落ち着き払った冷淡な目を向けている。今まで一度だってそんな表情を見た覚えがない。デリラはいつも真っすぐで一生懸命な性格で、よりにもよってエルダ姉さんへ向けるはずのない表情だ。やはり、おかしいのだ。僕の姉妹が別人になってしまったのか、それともこれは悪夢の中なのであろうか。
普通なら光の槍に襲われたデリラの安否を確認するのが先のはずだが、表情を先に確認したのは槍が止まっていたからだ。
魔力で作られたぶ厚い壁に光の槍はぶつかり、強い粘度の液体の中を進むかのように光の槍を減速させる。それと同時にデリラの手から恐らくは魔力で編まれたであろう緑色に光る蔦が伸びて槍を絡めり、シッカリと掴んで槍を静止したように見せていた。
蔦に絡め取られた光の槍は急速に力を失って、最後に光が強く弾け飛んで消滅した。
二人の行使する魔術は見たこともないほど強力で高度な構成だ。僕ら三人の魔術はある程度の差こそあるものの一人前の魔術士に前後する程度のレベルまで成長していたが、こんな構成の魔術を行使したことは今までになかった。
二人が行使したのは明らかに上級の戦闘魔術、或いはもっと上の力を感じさせた。ハッキリと分かるのは早熟と言われている僕らでも12歳という未熟な年齢と経験では到達しえない領域。
さっきから耳に入るうるさく耳障りな音が何だろうと思ったら、僕自身のが喘ぐように声を漏らしていた音だった。冷静に観察している自分と混乱している自分が乖離して正気ではないのかも知れない。
光の槍を受け止めた当人のデリラはいたって冷静で、全く動じることもなく先程までと同じように冷たい視線をエルダ姉さんへ向けたままだ。
わざとらしい演出なのだろうか、芝居ががった動作でゆっくりと瞬きをしてから呆れたような表情を作る。
「あらあら、なんて無粋なのかしら。とても私のお姉様だった方とは思えませんわ。」
理性と言うよりは隔意をもって、感情を薄めたかのような冷笑を浮かべる。水面に張った薄氷が内と外を明確に分かつような酷薄さを感じる。
だんだんと頭が痺れてきて思考力が奪われ、上手く言葉を受け入れることが出来なくなっている。
「妹のように振舞のをやめなさい。そして黙りなさい。」
エルダ姉さんは心底激怒していて、その怒りの燃料はさらに湧き出続けて沸騰している。湧き出ているのはきっと良く燃える油だろう。
「言いたいことがあるのが、ご自分だけだとでも思っていらっしゃるのですか。」
突き刺すような冷たい響きで、デリラもまた怒りを持って相対してるのだと気付く。
炎を吹き消すために冷たい風を吹きかけるが、対抗してさらに炎の勢いが増しているのだろう。
ついこの間まで一緒に学術や武術や魔術の勉強をしてたじゃないか。エルダ姉さんは活発でどっちかと言うと武術が好きで、妹のデリラは魔術が得意で、僕は二人と一緒にいるのが好きで、去年は一緒に馬を選びに行ったじゃないか。
いつも一緒だったじゃないか。なんだって二人が争う必要があるんだと僕の心は叫ぶが、二人の争う理由が理解できないまま魔術による応酬が始まってしまい。まるで別世界の様な状況に介入する糸口がつかめない。
強力な魔力で練られ高度な技術で構成された魔術が次々に飛び交い、姉妹の間を閃光が走っては互いにぶつけ合う。
気高く麗しき姉のエレルディアと優しく愛らしい妹のデーリエッラが、僕の知らない他人のようにいがみ合い争う。その光景に僕の心は抉られ引き裂かれ砕かれ擦り潰される。
目の前で展開される戦いを前にしては自分は役に立たず、間に入ったところで止めることすら敵わないだろう。そうした無力感が何より自分を苛む。
片方を庇えばもう一方を傷付けることが明白なことも身体を重くし、身動きが取れない一因だ。
何より二人の間を飛び交う信じがたいほど強力な魔術が飛び交って、その余波だけで僕は絶望的なダメージを受けている。
二人は魔術戦にあまりにも夢中になりすぎて、余波が及ぶことに意識がいかなくなっているようだ。
しかし、一度は自分の安全のために身を強張らせて傍観者となっていたけど、僕は三つ子の一人として後ろ向きに倒れることだけは許せなかった。二人に背を向けることだけは何がどうあっても僕自身が許せない。
だから、何歩も進めないだろうけれど僕は前に踏み出すことにした。
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