わたしをつくることども

江山菰

いっておいで、私の髪

『賢者の贈り物』というO.ヘンリーの作品をご存知の方はとても多いと思います。

 貧しい夫婦が、それぞれ本当に大切にしているものをある目的のために売ってしまう話で、妻の方は膝まである長い長い金髪をばっさり切って売ってしまいます。


 私も臍まであった髪を先日へアドネーションサロンで切りまして、現在はショートボブです。

 へアドネーションというのは、主に小児ガンその他で髪を失ってしまった子どもたちの医療用かつらのために、31cm以上の髪を寄付することです。webで検索すれば詳しい情報が読めます。


「カットしたところから○cmのところを縛って」

「水分は完全に乾かして」

 その他、人毛かつらに加工しやすいように寄付する髪にはいろんな決まりがあるので、普通の理容・美容室でカットすると迷惑が掛かります。まして、自分でやるとかなり大変だと思います。

 へアドネーションサロンは寄付用の特別なカットをしてくれて、無料で寄付先に送ってくれます。

 調べてみるとどこにでもあるもので、うちの近所にもありました。

 ばっさりと規定通りにカットした後、もちろんご希望のヘアスタイルに整えてくれます。私の行ったところはへアドネーションカット料金は通常のカット料金と同じでした。


 ところで、そこでの私と美容師さんの会話です。

「へアドネーションする人って多いんでしょう?大変ですね」

「そんなことないんですよ。うちがへアドネーションサロンに登録して3年くらいになりますけど、寄付して下さったお客さんは3人か4人でしたよ」

「えっ?!どうせ切って捨ててしまうんだから人のために役立てたらいいのに」

「31cm以上をばっさり切るっていう人もそう多くないですし、そもそもへアドネーション自体がまだ一般的に浸透してないんでしょうね」


 他にもいろいろ話して、現在の高級ウィッグは人工毛で人毛のものより高機能、人毛のものはもう立ち遅れてしまっているという話を聞いて、寄付した身として寂しくなりました。


「髪を寄付するのってオワコンなんですかね……」

「とんでもないです!ドネーションされた髪は主に小児用かつらになるんですが、難病の子供を抱えたご家庭に本当に喜ばれてるんですよ。色んな公的扶助があっても、重病の子供抱えてるご家庭って大変ですから。こうやって皆さんが一生懸命伸ばした髪を無料で提供して下さるから、髪を失くしたお子さんの成長に合わせて交換することができるんです」


 それを聞くとなんだか、もう……めんどくさい思いをしながらずっと伸ばしていて本当によかったです。

 伸ばしている間、気分はひつじかカシミアヤギでした。

 髪が多くて硬いので管理は大変でしたが、「いい毛質と量です」と褒めてもらえていい気分で帰宅しました。


 髪を切られている間私はとても幸せでした。

 デラは大事に伸ばした自慢の髪を切っている間寂しかったかもしれませんが、最愛の夫のためならばと思うと少しくらいは幸せな気持ちだったのではないかと思います。


 これを偽善と感じる方もいるかも知れませんが、何もしないことよりはるかに良いことだと思います。

 ここでこうやって声高に喚いていい人ぶって、と思う方もいるでしょうが、こういうボランティアもあると知っていただきたいのです。


 私の小学校の時の同級生に脳腫瘍で手術をした子がいて、髪が無くていつも帽子を被っていました。彼は、卒業後すぐに亡くなりました。

 私の中学生の同級生にも、何かしらの病気でカツラを被った子がいましたが、あまり質のよくない人工毛で周囲からひそひそと傷つくような噂を流されていました。


 私の髪が、どうかそんな子どもさんたちの役に立っていますように。

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