二話 こう見えて、数え切れないほどのお城の隠し通路を見つけてきました
「アルッサムでの経緯は聞いております。敵の正体は未だ不可解なところが多いですが、この国を落とさせるわけにはいきません。陛下は必ずお守りしますので、気兼ねなく我らの騎士団長を連れ回していただければと思います。見た目の割に凄まじく鈍感な男ですから、強引な手段を用いてでもわからせるつもりでいた方がいいです」
「ヴィルガ殿……ありがとうございます」
同じ女性騎士だからか、珍しくキャンディスが表情を綻ばせた。
いや、確かに心強くはあるんだけど。
「なんか、途中から話変わってないか?」
「というか、ヴィルガも他人のことを言えるほど潤った私生活では――危なっ!」
凄まじい速さで、ヴィルガの手刀がエルーの首を狙う。忍者も真っ青な迷いのない一撃は言うまでもないが、それを回避したエルーも中々である。
陛下とキャンディスの前で何やってんだ、こいつら。
「え、えっと……頼もしいお二人ですね」
「はい。実力は保証しますし、彼らは経験も豊富です。性格と私生活以外は頼りになります。それではキャンディス姫、話を地獄の門に戻しましょう」
脱線どころか、車道に躍り出ながらも走り続ける状態だった流れを強引に戻す。
「昨夜、うちの騎士たちが気がついた違和感についてはお話したとおりです。個人的には、この城の地下を調べてみたいのですが、可能ですか?」
「それが、なかなか難しくて……というのも、この城には地下室や通路などがないのです。食料などを保管する倉庫や氷室などはあるのですが、他の場所に繋がるようなものではなく。ただカガリ殿が言うには、確かにエントランスの地下に大きな空間があるかもしれないとのことです」
キャンディスが困り顔で言う。カガリのヘビたちで調べるのは限界がある。あとは自分たちで調査しなければならないが、そこへ辿り着くまでの道がない。
エントランスの床に穴を空けるという荒技もあるが、確実に周りにバレてしまう。やはり、地下へ繋がる通路を見つける方が理想的だ。
「わかりました。では、まずは地下へ繋がる通路を探しましょう」
「そうですね。では、午後には城内を調査出来るように手配しますので、しばしお待ちを」
そう言って、キャンディスが退室する。俺は彼女との約束の時間まで、再び暑さにだれてしまったヴィルガとエルーを廊下に放置しつつ、陛下の護衛をしながら時間を過ごした。
そういえば、護衛がつくとかなんとか陛下が言っていたが、誰が来るのかを聞くのを時間になるまで忘れていた。
午後。調査の準備が出来たとキャンディスが来るや否や、呼んでもないのにその護衛とやらは勝手に来た。
「そう、ヴァリシュの護衛はオレだ!」
「チェンジで」
「却下! 文句も聞かない!」
ふんすふんすと鼻息の荒いラスターに、思わず頭を抱える。昼食を終えた後から、なぜかピッタリくっついてくる勇者を問いただして返ってきた答えがこれだ。
もちろん、ラスターが俺の護衛なわけがない。
「違います、このレジェスこそがヴァリシュ様の護衛であり右腕です」
「いやいやいや! 護衛兼右腕は自分、ランベールですっ!」
「おいおい班長ども、オレだって言ってるだろ? それから親友のオレを差し置いて、何勝手にあいつの右腕狙ってやがるんだ?」
「誰か一人でも本当のことを話してくれるやつは居ないのか?」
勇者と部下二人がギャンギャンと言い争いを始めてしまい、収集がつかない。なんだこれ、嘘つきパズルか?
俺が口を出せば、それが油となって燃え上がるばかりだし。キャンディスが止めてくれないかと期待してみるも、
「フィア殿は、この国の暑さに慣れましたか?」
「ええ。常にサウナでデトックスして、一秒ごとに綺麗になっていると思って耐えています」
いつの間にか、文官に擬態したフィアと世間話していた。最近、キャンディスのスルースキルがぐんぐん上がっているのは気のせいか?
「いやあ、今日も人気者だねぇヴァリシュちゃん。ちなみにオジサンを含めた四人がヴァリシュちゃんの護衛だよ。まあ、オジサンたちが騎士団のことで話をしていたら、王さまが「誰かヴァリシュの護衛をしてくれんかの?」って声をかけてきたから、そのまま全員がついてきただけなんだけどねぇ」
「なるほど、正確な情報をありがとうございます、ゲオル殿」
遠くを見てしまいそうになるも、唯一の正直者が居たおかげで無事に嘘つきパズルの答えを得た。
つまり、全員暇なのか。
「なんにせよ、人手が多いのはありがたいです。この城は広いですからね」
キャンディスが持参した城内図を広げる。比較的新しいものなのか、紙の汚れや皺が少ない。一番最近に増設工事をした時のものらしい。
「この城内図は、過去のものを模写したものですが……増設や修復を繰り返すたびに図面を書き直してきたので、その時に抜けや空白が出たものと考えられます」
「でもよ、探してるのは門だろ? 書き漏らすほど小さいものじゃないと思うけど」
キャンディスの説明に、ラスターが首を傾げる。
いやいや、とゲオルが割って入った。
「秘密にしたいなら、誰にも知られないようにすればいいじゃん。オジサンがもし城内図を書く人だったら、意図的に門の場所を塗り潰すよ。それに門とは言っても、城門みたいな大きなものばかりじゃないからねぇ」
「そうですよ。ここまで得体の知れない物体なんですから、もしかしたら何かを召喚する魔法陣かもしれませんしね。えらーい勇者さんは頭カチコチですねぇ、こっちの筋肉オジサンの方がずっと話がわかります」
「筋肉オジサンて、まあいいけど」
「いいんですか、ゲオル殿は心が広いですね」
ゲオルの寛容さに心を打たれつつ。意図的に図案から消されたという点と、門という言葉のイメージに振り回されているかもしれないという点はあり得る。
「とにかく、今は隠されたであろう通路を見つけることに専念するぞ」
「そうしましょう。ヴァリシュ様、手分けしますか?」
「そうだな。だが、まずは全員で外へ行くぞ」
「外、ですか。でも、アレンス様たちが言ってたのはエントランスですよね。隠し通路があるなら、城内にあるんじゃないですか?」
「確かに、そう考えるのが普通だろう」
真っ先に寄ってきたレジェスとランベールを尻目に、俺は城内図を見る。書き漏らしたのか、それとも消したのかはわからないが。パッと見た感じ、あからさまに怪しい箇所はない。
前世の記憶……デモブレのアルッサム城にだって、怪しい隠し通路なんかなかった。
でも、俺が持つ前世の記憶は、デモブレだけじゃない。
「ふふん、俺は知っているぞ。こういう時の隠し通路は、大体外にある。建物の死角に隠れた階段とか、イカダで入れる水路とか、なんか話の通じないNPCが邪魔をして入れない扉とかが絶対にある筈!」
「ヴァリシュ殿? 今、なんて言いました? えぬ、ぴー?」
「キャンディス、気にするな。ヴァリシュはたまに、こういうよくわからないことを口走る癖があるんだ。発作と言ってもいい。深く突っ込んだら怪我するぞ。オレは危うく怪我をしかけたことがある」
「そ、そうなんですか」
ぽかんと呆れるキャンディスに、ラスターがフォローを入れている。この二人、仲は良くないが息は合うな。
「ううむ、ヴァリシュ様の高尚なお考えは未だ理解出来ませんが……自分は護衛兼右腕としてどこへでも付き従いましょう」
「自分もです! 自分が右腕であり護衛です! さあ、行きましょう!!」
「お、おいお前たち。右側にばっかり集まるな、歩き難いぞ」
右腕、の意味を正しく理解しているのか怪しいレジェスとランベールに促され、早速外へと向かう。俺たちの後をラスターやキャンディスが慌てて追いかけてくるものだから、外へ出るまでの間にとんでもなく目立つ羽目になってしまったのは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます